グランとエミリ
鑑定所に戻ってくるとすでに待っている人はいなかった。
あまり人が来なかったのだろうか?
そんなことを思いながら冒険者組合二階の部屋に入る。
中では壁に槍を立てかけられていた。
そして、ちょうど男の人が鑑定を受けている途中だったようだ。
後ろからだが、俺もそっと【詳細鑑定】を行う。
【白色冒険者証、レベル5】
【槍術、レベル4】
【体力、レベル4】
【雷魔法、レベル1】
中々に強い人だ。ただ、このスキルの配列……どこかで――。
ふと疑問に思うとちょうど鑑定が終わったあとでこちらに振りむいた時に顔が合う。
その男はグランであった。
クルードフダンジョン地下五階層を攻略したあとに別れた彼がどうしてここに?
それにいつの間にか【雷魔法】なんで覚えてるけど!?
知らぬ間に成長した彼に俺は驚きの表情を見せる。
「おや、ハクか? どうしてここに? まさかお前も【鑑定】してもらいに来たのか?」
グランはグランで驚いているようだった。
「ここは俺が開いた鑑定所だからな。それより見違えたな。下手すると俺たちより強いんじゃないか?」
俺が褒めるとグランは少し嬉しそうにはにかんだ。
しかし、後ろにミーナの姿を確認すると目線だけは彼女の胸へと送られていた。
「まぁここじゃゆっくりできないか。あとなら宿にでも来てくれ」
「あぁ、どこの宿だ?」
俺は今泊まってる宿の場所を教えるとグランは部屋を出て行った。
「お兄さん、おかえりなさい。私、頑張ったよ」
エミリが嬉しそうに答える。
後ろにいたノービスさんも首を縦に振っている。おおよそ満足のいく結果だったのだろう。
「ありがとう、ご苦労様」
俺が頭を撫でると嬉しそうに目を細めていた。
そして、宿まで戻ってくるとすでにグランが待っていた。
というか、グランもこの宿に泊まるみたいだ。
少し話してみるとグランは今日この町に着いたらしかった。
それで実のことを聞いて、一心不乱にダンジョンに挑み続けて実を食べ続けたらしい。雷魔法はこれまで持っていなかったようなので、その実の効果で得たものなのだろう。
「それで肝心の話だが——」
グランは真剣な表情を見せてくる。
これはしっかり聞かないとまずいな。
俺も姿勢を正し、グッと息を飲む。
「俺と一対一で勝負してくれないか?」
聞き間違えたのかと思った。
「えっと、念のために聞くが誰と誰が戦うんだ?」
「もちろん、俺とハクトールだ」
やはり聞き違いじゃないようだ。
グランじゃどう考えても相手にならない。一瞬で負けるのではないだろうか?
「それって戦う必要あるのか?」
「あぁ、もちろんだ。木剣でいいからやってくれ!」
熱心に頼んでくるグランに負けて、木剣ならと了承することにした。どうせすぐに負けるだろうが……。




