氷結草
俺とニャーはパラライズスネークに向かって走り出すと、レベル【6】の冒険者が声をあげて制止を促した。
「近づくな! こいつは麻痺毒を持ってるんだ!」
そのことはよくわかってる。俺には【詳細鑑定】でしらべが付いていたからだ。
『パラライズスネーク、レベル14』
【麻痺毒、レベル5】
【麻痺毒が効かない】
【斬撃に強い、レベル1】
【火魔法に強い、レベル1】
【毒に弱い、レベル2】
意外と普通の毒は効きやすいようだ。それなら——。
「ニャー、あの蛇を任せる。攻撃は当たるなよ」
「わかったにゃ」
先ほどの階で出番がなかったからか、ニャーは嬉しそうにパラライズスネークへと突っ込んでいった。
本当に大丈夫だろうか……。
少し心配しながらも俺たちは冒険者の方へと近づいていった。
「大丈夫ですか?」
駆け寄ると同時にシャルが回復の魔法をかけ始める。
その回復で麻痺毒も消えたようで冒険者の男の人は話し出す。
「ありがとう、助かった……。でも彼女を一人にして……」
どうやらこの人はニャーのことを心配してくれてるようだ。
しかし、当の本人はあっさりとパラライズスネークを倒したようで、欲求不満げに戻ってくる。
「この蛇、あまり強くないにゃ」
ニャーが持つ毒牙のナイフが最大限効果を発揮したようだ。
ならこの階層も問題はなさそうだ。
ただ今回俺たちがここに来たのはダンジョン攻略が目的ではない。
「あなたは冒険者レベル【6】の冒険者の方ですよね?」
勝手に【詳細鑑定】で調べていたものの念のために確認だけ取っておく。
「あぁ、俺はベクター。メルカリの町で冒険者をしていたものだ。仲間たちとこのダンジョンの内情を探っていたのだが、その途中でこの蛇に噛まれてしまってな。あまり魔物が強くなかったから、別れて行動したのが裏目に出てしまった」
今となっては笑い話なのだろう、ベクターさんは苦笑いを浮かべて話してくれた。
「ところで助けてくれたお礼がしたいのだが、何が欲しい? 金か? 実か?」
実だけで通じるのは俺たちがこのダンジョンにいるからなのだろうな。ただ、俺たちが欲しいものは別にあった。
「それならメルカリの町付近のダンジョン……、その地下十三階層の情報をいただけませんか? あそこは暑くてとても進めそうにありませんでしたので」
「そんなことでいいのか? あそこは少し値が張るが『氷結草』を持っていくといいぞ。ただ、食べると効果を発揮するんだが、それは長続きしないから注意しろよ」
氷結草といえば、ほんのりと冷たく、よく夏の日に水の中に入れたりする草だよな。
あれって食べられるんだ……。
「あっ、そうだ。伝え忘れた。氷結草はすごーく不味いからな。覚悟して食えよ」
そういうとベクターさんは起き上がり、歩いて行ってしまった。
不味いのか……。
食べたくないなと思いながらも、食べないといけないんだろうなと少し落ち込む。
必要なことは聞けたので今日のところは戻ることにした。鑑定所を任せてきたエミリのことも心配だったからな。




