一般的な魔法の威力
「そういえば私の名前は言ってなかったわね。私はミーナ・ラーノルド、ラーノルド家の三女よ」
ラーノルド家? 確か一族皆二種類以上の魔法が使える名門魔法貴族……だったか? 大抵魔法騎士への道に進んでいたはずだか?
「言いたいことはわかるわよ。よく言われていたことだから。私は落ちこぼれなのよ。二種類以上の種別の魔法が使える名門。私も魔法スキルはちゃんと取得してきたの。
でも私は魔法が使えなかった。もしかしたら【魔法】スキルをちゃんと得ていないのかもと思って、わざわざ取り寄せた宝玉の力を利用したけど、それでも風魔法しか使えなかった。
【魔法】スキルは宝玉も使ったあとに、もう一度鑑定所で調べてもらったから間違いなく得てるはずなのに。複数箇所で調べてもらったから……」
確かに攻撃魔法は【風魔法】スキルしかないが、他にも【強化魔法】と【妨害魔法】のスキルがある。このスキルはあまり見たことがないので、レアな部類のはずだ。
ただ、他の人には【魔法】スキルとだけしかわからないから、何の魔法が使えるのかも知らなかったのだろう。
それに宝玉ってスキルが取得できる玉だよな。確か、それ一つで家が買えるほどの値段がして、絶対スキルが取得できるわけではない。むしろ失敗率のほうが高いもののはずだ。
「それで家に居られなくなったから冒険者になったのよ。もちろん、魔法が使える私はすぐにパーティを組めたわ。でも結局あなたも知っての通りよ」
大量のウルフに囲まれて死にかけた……と。
「とにかく、一度魔法を見せて欲しいかな。俺は元鑑定所の職員だ。何かわかるかもしれない」
「どうりで戦闘スキルがないと思ったわ。わかった、道中の敵は私に任せてくれたらいいわよ」
「ありがとう」
シャルを背負ってる俺はろくに戦えないので、素直にお礼を言っておく。すると「当然よ。私の実力を見せてあげるんだから」と腕を組みながら言ってきた。
そして、もうすぐ階段というところで闊歩するゴブリンを発見する。
「ちょうどいい相手ね。見てなさい」
そういうとミーナは前へと出て行く。
まぁあいつなら安全だろう。俺は【詳細鑑定】を使いそう判断していた。
『ゴブリン、レベル1』
【槍術、レベル1】
槍術スキルを持っているが、当然槍は持っていない。俺が倒したのと同じレベルのゴブリンなら問題はない。
「◯◯◯◯、ウインド」
詠唱を唱え、突き出した手から出てきたのはとても小さな風の玉。発動した時は砲撃をも思わせるほどの轟音だったが、威力はあのゴブリンをのけぞらせる程度。
「どんどん行くわよ!」
それを一発ではなく、十発ほど当てるとようやくゴブリンを倒すことが出来た。そして、それを自信たっぷりに誇っているミーナ。
えっと……俺はどう反応したらいいのだろう?
その様子を俺は困ったように苦笑いをしていたら、ミーナは満足げにしてくれていた。
おそらく、俺が魔法威力に驚いた……とでも思ったのだろう。逆に威力が弱くて驚いたのだけど。
「どうだった? 何かわかったかしら?」
長い髪をかきあげながら言うミーナに俺は厳しい現実を突きつける。
「多分だけど、ミーナに攻撃魔法は向いてないんじゃないか?」
「そんなことないわよ! ちゃんと倒せたでしょ?」
「魔法の使いすぎだ。それに威力も弱い。向いてない証拠だ」
本当は【詳細鑑定】で情報を仕入れていたのだが、それらしい言葉を言って説明していく。
「なら、どうしたらいいのよ! 私には本当にこれしか……」
「別の魔法に適性があるぞ」
「えっ……?」
本当は自分でも理解していたのだろう、俺にはっきりと言われたミーナは泣きそうになっていた。しかし、俺が言った「別の適性」という言葉に目を大きく見開いて聞き返してくる。
「強化魔法や妨害魔法と言った味方を支援する魔法、そういったのを試してみたらどうだ?」
ミーナが初めから持っていたスキル名を上げていく。しかし、ミーナは首をかしげていた。
「なに、その魔法?」
「いいから使ってみて」
「……仕方ないわね」
半信半疑ながらもミーナは脳内でその魔法のことを思い浮かべ、唱えてみる。
「◯◯□△、攻撃強化」
ミーナがその呪文を唱えた瞬間に俺の体の奥から湧き上がる力を感じた。
いまならどんな重たいものでも持てそうだ。
「うーん、本当に成功したのかしら?」
「あぁ、成功だ! さすがだな!」
この魔法はこの魔法でいろいろな使い道があるだろう。ただ、自分ではあまり実感がないよな。