エビナフの実
「私が言っているのはあの人が持っているお金のことです」
なんだ、そっちのことか……。
確かに相当入っているように見える。……もしかして!?
俺は目を輝かせながら受付のお姉さんを見る。
「はい、あのダンジョンで取れるエビナフの実というのは特殊な効果があり、高価で買い取らせてもらっているのです」
なるほど……、少し魔物が強くても儲かるとわかっていたらこっちのダンジョンに入るか。
冒険者たちが中々帰ってこないわけだ。
「ところで、その特殊な効果というのは?」
「実は、効果の程度は違うのですが、あの実を食べるとスキルのレベルが上がったり、新しいスキルを取得したり出来る……というものなのです」
食べるだけでスキルを取得出来る!?
いや、宝玉のようにスキルを得るアイテムがあることを考えるとそういった実があっても不思議ではないか。
それじゃあこの村が栄えているのも全てその実のおかげか。
「ありがとうございます。ところで、この冒険者組合にはあまり人がいないのですね」
「はい、換金に来られる人以外はすぐにダンジョンへ入られてしまいますので、少し寂しい感じがしますよね」
確かにメルカリの町の冒険者組合が酒場のような雰囲気だっただけに、受付の人たちしかいないこの冒険者組合は廃れているようにも感じられる。
それにしてもスキル取得が出来る実か……。
よし、それがわかったら行くしかないな。
ひとまず荷物を置こうと冒険者組合を出て俺たちは宿を探し始める。
冒険者が多いということでもしかしたら空いていないかもと危惧していたが、そんなことはないようだ。
冒険者組合を出て少し歩くと所構わず宿を勧めてくる男たちがたくさんいた。
「にいちゃん、宿を探してるのか? うちはどうだ? 今なら一泊銀貨五枚だぞ」
うっ、高い……。い、いや、人が多いのならそうなってくるか……。
「おいおい、それは高すぎだろ。にいちゃんもうちに来いよ。うちなら銀貨四枚と銅貨五枚に負けておくぞ」
別の宿の人が寄ってくる。確かにこうたくさん人がいると少し安い宿もあるか……。
初めに声をかけてきたおじさんが悔しそうな顔をしている。
それでもメルカリの宿より数倍高い。
まぁダンジョンで儲けられるならいいか……。
そう思いあとから声をかけてきた人についていこうとした時に別の……女の人の声がした。
「そんな人についてったらあかんよ」
その声に宿の人についていこうとした俺は足を止め、思わず振り返った。
そこには赤髪を後ろで束ねた素朴な少女が手を腰に当てて立っていた。




