旅支度
どういうことか分からずにしばらく黙っていると、シャルが口をパクパクさせて、何かを伝えてこようとしているのがわかる。
ただ、言葉には出ていないので何を言いたいかまではわからなかった。
ただ、手に持つたくさんの服と顔を染めているシャルの様子からどの服が合うか見て欲しいということではないかと推察する。
見た目自体はそこまで変わらないものの基調とする色が全く違う。
今まで来ていた服のように青を基調としたもの、薄いピンクを基調としたもの……。
ただ、長い旅になるかもしれないわけだし、一着じゃ当然足りなくなるよな。ちょうどシャルも悩んでいるのなら……。
「悩むなら全部買うといいよ。多分それくらい持っていかないと足りないからね」
「えっ、いいのですか?」
目を輝かせながら俺を見てくるシャル。
俺が頷くのを見るとすぐに店員さんの下に駆け寄っていった。
服は意外と高かったものの十分買える範囲であった。
そして、それを大事そうに抱えているシャルを見ると買ってあげてよかったという気持ちになってくる。
それから俺たちは最低限旅に必要なものを購入して家へと帰った。
そして、次の日。
旅の準備をしていた俺たちの前に昨日は実家に帰っていたミーナがやってくる。
でも、その彼女が持っていたのは沢山のカバンだった。
「それだけの量を持って行くのか?」
ただ、実家にあったものを持ってきただけ、そう言ってほしかったのだが彼女は俺の質問に首を縦に振って答える。
つまり、これ全部持って行くのか……。
今も重そうに引きずりながら持ってきていた。
どう見てもこれを持ちながら移動は大変だよな。
俺は一度頷くとミーナのカバンを持ち、家の中に放り投げる。
そして、その中から最低限必要なものだけを選び出すと小さなカバンに入れて、ミーナに渡す。
「うう……、どうして……」
ミーナは恨めしげに俺と荷物が置かれている家を見て言う。
「当然だ、どう考えても邪魔になるだろ!」
「そんなことないのに……ドレスとか旅先でも必要に――」
「なるわけないだろ!」
どうも俺たちとミーナの感覚が違うようだ。
一応貴族に当たる家だもんな。ミーナ自身はそうは見えないけど……。
自分のカバンの中身を見せてからかっていニャーを見ながら俺はそんなことを考えていた。
「ところで馬車は?」
「へっ?」
当然どこかにあるんでしょと言いたげに聞いてくるミーナ。もちろんそんなものは用意していない。
というか、馬車なんて貴族とかしかつかわな……いや、ミーナは貴族だもんな。
「もちろんないぞ」
「そうよね、なしで別の町まで行くなんて……えっ?」
今度はミーナが驚きの顔をした。
「歩いて一日なんだ。馬車なんていらないだろ」
それを聞いたミーナの表情は絶望を映し出しているようだった。




