町へ戻ろう
ウルフが全て倒れたことを【詳細鑑定】で確かめた後、俺は倒れている少女の下へと駆け寄る。
ただ、俺が出来ることは【詳細鑑定】で少女が死んでしまわないかを確かめるだけだった。
「シャル、大変だろうけどお願いできるか?」
「は、はい……」
すでに相当顔色が悪いシャル。無理をさせているのはわかるが、ここは頼むしかなかった。
「◯◯□◯、ヒール」
手を掲げながら唱えるシャル。すると倒れていた少女が強い光に覆われて、その結果、傷が完全に癒される。
そして、シャルは精神力の限界がきたようで、その場で倒れこむように寝てしまった。
しばらく待つと眠っているシャルと引き換えに倒れていた少女が目をさます。
何が何だかわからない様子であたりを見渡し、俺がいることに気付き、そのキツ目の視線を送ってくる。
「あなた、誰!?」
「俺はハクトール。冒険者だ」
そう言いながら冒険者証を見せる。
その瞬間、少女は見下したような視線を送ってくる。
「ふん、まだレベル【1】ね。どうせ、あの魔物たちが勝手に逃げ出してくれたんでしょうけど、とりあえず礼だけは言っておくわ。ありがとう」
お礼というには尊大すぎるその態度、とてもお礼を言われてるようには見えない。しかも、ウルフが落とした魔石とかはすでに回収済みだ。つまり、ここにはウルフがいたような痕跡は何もなかった。
「それで、私の仲間たちは?」
「生き残ってたのは君だけだよ」
一応倒れていた彼らはすでに部屋の隅に動かしてあった。もちろん、彼らの装備も回収してあった。
ダンジョン内では死んだものの装備は拾ったものの持ち物と決まっている。
もちろん、ダンジョン内での殺人もご法度だ。
この殺人はどういうわけか、冒険者組合で調べてもらえばすぐに判別がつく。おそらくそういったことを調べるスキル持ちがいるのだろう。
ということで死んでいる彼らを一番最初に見つけた俺が道具を貰ったわけだ。
「そう……」
ダンジョン内では人が死ぬのも日常茶飯事だ。少女は一瞬目を伏せて、また顔を上げる。
「なら、あなた、私を町まで連れて行きなさい!」
「イヤだ!」
町には戻るつもりだったけど、こんな命令口調で言われるとその気がなくなる。
「どうしてよ!」
しかし、その少女はどうして断られたのか、それすら理解していない様子だった。
「俺にそこまでする理由がないな」
「この私が同行してあげるのよ。そこで寝てるチンチクリンより役に立つわよ」
その言い草に少しカチンとする。この少女、冒険者レベルは俺たちより上だけど、魔法レベルはとてもシャルに及んでるようにも見えない。
あくまで【詳細鑑定】で調べただけの判断なので、実際は巧みに魔法を使う……可能性もあるが、それでもシャルには遠く及ばないだろう。
「そんなことを言われて同行を許すとでも? それにその子が君を治してくれたんだぞ。相応の態度があると思うが?」
「そう……なのね。ごめんなさい……」
素直に謝ってくる。もしかしたら、自分が負っていた傷すら夢のことだと思っていたのだろうか?
「あぁ、分かればいいんだ。それじゃあ一旦町に戻るか?」
「えっ、私もついていっていいの?」
きょとんとした様子で聞いてくる。
「もちろん。ここにいたいのなら止めないが?」
「行く。連れて行ってください、お願いします」
慌てて頼んでくる少女。
俺が頷くと少女は安心した表情を一瞬見せ、その後、「ふんっ」と口をつぐんでしまった。
口では生意気なことを言ってるが、本当は一人で寂しかったのだろう。それがわかるとなんだか微笑ましいものに見られた。
そして、俺は眠っているシャルを背負うと出口へ向けて歩き出した。