ミーナ加入
俺が勝ったあと、周りの人たちは期待はずれといった感じに帰っていった。
しかし、ミーナは俺に飛びついてくる。
「ありがとう、ハク。これで私も……」
「いや、その話は少し待って欲しい」
今のを見て疑問に思っているミーナの父親に俺はそう言った。
「理由を……聞いてもいいか?」
「まずは先ほど見てもらった通り、地下十階層くらいでは力不足なんですよ。もっと力をつけてから改めさせてもらいたいと思います」
「確かに、地下十階層まで行っているのにあの程度の実力しかないものがいるとは思わなんだ。だが、お主はちゃんと勝ったではないか。なら約束通りに……」
「いえ、まずはミーナさんには俺のパーティメンバーになってもらいたいんですよ。そうすることでお互いの仲も深まると思うのですが……また、もっといい相手も見つかるかもしれませんよ」
俺のもっといい相手という部分にピクリと反応するミーナの父親。そして、悩んだそぶりを見せながらも俺が言ったことを承諾してくれる。ただ、話がまとまりそうな時にミーナが一言、低く小さい声でつぶやく。
「そんなに私と一緒になるのが嫌だったの?」
その迫力に思わず俺は黙ってしまう。
しかし、それも一瞬ですぐにミーナの顔は笑顔に変わる。すると一人去っていこうとするミハエルの姿に気がついた俺は慌ててそれを追いかける。
「そういえば、ミハエルはなんであの時立候補しなかったんだ?」
俺はミハエルのそばによると他の人に聞こえないように言った。
「ふん、どうせ俺は最初からお呼びじゃなかったんだ。十階層をクリアしたと言った時からミーナさんはお前のことしか見なかった。それに今回は俺の力だけで十階層を越したわけじゃないからな。今度こそ自分一人の力でクリアしてお前からミーナさんを奪ってやる!」
ミハエルは俺を指差しながらそれだけ言うとそのまま背を向けて去っていった。
「どうかしましたか?」
ミハエルを見送っているとシャルが不思議そうに聞いてくる。
「いや、なんでもない……」
首を横に振ってミーナたちが笑っているその場に戻る。
そして、今日は疲れただろうということで宿に帰ることとなった。
ミーナが「ウチに泊まっていったらどうか」といってくれていたが、さすがに少し休みたかった俺はその申し出を断るとシャルとニャーの三人で宿へと戻っていった。
〈ミーナ視点〉
ハク達を見送ったあと、私はお父様の書斎に呼ばれた。
「お父様、どうしましたか?」
こういった堅苦しい挨拶はどうにも苦手なのだが、父の前できちんとしないと怒られるため渋々それに従っている。
「お前の婚約者のことだ。アンドリューは論外だとして、ハクトールも正直言って地下十階層を攻略する力があるようには見えんかった。まぁ、それは本人も理解しておるようで、パーティを組むにとどめていたのだろう」
確かにお父様がいうこともよくわかる。
ハクは戦闘スキルを持たない。お父様が期待できるような戦力にはならないだろう。
「それより、あの彼と一緒に行動していたミハエル……といったかね。彼は期待できそうだ。惜しむらくは彼自身が候補者として名のり出なかったことだな」
あのいやらしい目で私を見ていた人か……。そんな人と一緒になるならハクと……。
「お父様、今回の勝負はハクの勝ちで……」
「あぁ、わかっておる。だが、すぐに婚約というわけでない以上、別の人物が現れるかもしれんぞ」
「その時にはハクたちはもっとダンジョンの深くまで潜ってますよ」
「お前みたいな足手まといを連れてか?」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべるお父様。
そうなのだ。ハクに使える魔法スキルを教えてもらってから、ようやく私はまともに戦えるようになったが、それまではこの家でも足手まとい扱いだったのだ。
そんなお父様を見返すには……お父様がダンジョンに潜った記録を超えるしかないだろう……。




