アンドリュー
そして、中に入ってきたのは以前俺が【詳細鑑定】をした相手だった。
たしかにきちんとした身なりはしているが、戦闘スキルは持っていない。俺と似たような相手だ。
しかし、その表情は自信があるといった感じに偉ぶっていた。
もしかして、以前の【詳細鑑定】は間違っていたのかともう一度試してみる。
【冒険者証、レベル5】
【運の良さ、レベル1】
【金運、レベル5】
うん、やはり間違いないようだ。
ただ、本当にこんな相手でいいのだろうかという気持ちになってくる。
だって欲しいのは強い人なんでしょ……?
まぁ俺みたいに【詳細鑑定】を使えないとそんな細かいスキルとかわからないから、どうしても冒険者証のレベルで判断することになるのだろう。
そんなことを思っているとミーナの父親が声を発する。
「こうして地下十階層のダンジョンまで攻略出来る冒険者が多数集まってくれたこと、心より感謝する」
多数と言ったときに、アンドリューが俺のほうを睨んでくる。まさか自分の他にミーナの婚約者候補が出来るとは思っていなかったのかもしれない。
「ただ、この国では一夫多妻は認められていても、多夫一妻は認められておらん。よって、お主らのどちらかを選ばねばならん。と言うことはやはり強さで競い合ってもらうしか――」
「ま、待ってください!! 俺の方が先に求婚したのにどうして?」
「より強きものを……。最初にも伝えていたとおり、それが我が家の家訓である。最低でも地下十階層……という決まりがあるだけで同じ条件のものならより強いものと決まっている」
なぜそこまで強い人を求めるのか……ダンジョンの近くにあるこの町なら仕方ないことなのかもしれない。
俺は納得していたが、アンドリューのほうはあまり納得せずにブツブツと呟いていた。
「(ちっ、魔法の力が弱いから中々婚約者が決まらないと言っていたミーナなら穴場だと思ったのに……、いや、そういえばこいつどこかで見たこと……)」
なにか首を傾げているアンドリュー。そして、俺に話しかけてくる。
「おい、そういえばお前、能なしのハクか……」
イヤなところまで名前が広まっているんだな。もう冒険者証レベル【5】になったからほとんど口に出すものもいなくなったのに……。
「もしそうでも今回のことには関係ないだろ! 俺もちゃんと条件を満たしているんだ」
それでも俺の正体がわかったとたんに急ににやけ出すアンドリュー。これは楽勝とでも思ったのだろうか? そう簡単にいくもんか。
俺はぐっと歯を食いしばった。
「では、二日後にこの家に来てくれ。その時に一対一で勝負してもらう」
「あぁ、逃げたいなら今から逃げるんだな」
アンドリューは笑いながら部屋を出て行った。
そして、部屋には俺たちとミーナだけが残された。
「本当に大丈夫なの? あんた、ついこの間まで四階層の魔物でも苦戦していたのに……」
ミーナが俺のことを心配してくれる。
「あぁ、なんとかするよ……。幸いなことに条件は同じみたいなんだ」
「同じ? 相手は十階層までクリアしている冒険者なのよ」
「俺もしているぞ。といってもシャルの魔法のおかげだけどな」
シャルの頭をポンポンと叩く。すると嬉しそうに目を細めていた。
「あんたの場合は周りにいい人が集まって……、ってもしかしてあいつも?」
「あぁ、俺が鑑定スキルを持っているのは知っているよな?」
「それしかないんでしょ?」
「まぁそうだけど……それで見た感じだとあいつも戦闘スキルは持っていない。だから俺でも何とかなるんだ」
安心させるつもりでそう言ったが、ミーナは少し曖昧な笑みを浮かべるだけだった。




