初魔法
一呼吸おいてシャルが落ち着くのを待つ。
スキルなど持っていないと思っていたのに突然の告白。さすがに驚くか……。ただ、こうなるとスキルの詳細を教えてしまうと驚き程度ではすまないかもしれない。
仕方がないのでシャルが持っている【魔法威力強化、10倍】のスキルは黙っておくことにする。その方が彼女のためでもあるだろう。
「ほ、本当に私にもスキルが?」
「確かにあるぞ。俺は鑑定スキル持ちだからな。なんだったら試してみるといい。ちょうどここは広い空間だからな」
他の通路が三メートル程度の広さであったことを考えると十メートル四方の広さがあるここは十分すぎるほどの広さだ。
初魔物討伐も果たしたことだし、ここらで休憩を取るのも手だろう。それならせっかくだし、間近で魔法も見てみたい。
もしかしたらスキルを持っていない俺にも使えるかもしれないし。
淡い期待を持ちながら言ってみる。するとシャルは疑問におもいながらも試してみるようだった。
「えっと……、初めはどうするんでしたか?」
「俺に聞いても、俺はスキルを持ってないからな」
「ですよね……」
乾いた笑みを浮かべながら目をつむり瞑想をするシャル。そして——。
「◯◯□◯、ファイアー!!」
シャルが詠唱を唱えるとその手から大きな……、とても大きな……、シャルの背丈よりも大きな火の玉が出てくる。そして、それはまっすぐ先に飛んでいき、壁に激突して大きな爆発を引き起こした。
壁は崩れることがなかったが、あまりの高威力に俺は開いた口がふさがらなかった。
一方のシャルは魔法を撃てたことには感動してるようだが、この威力が普通のものだと思い込んでいる。
これならむしろ俺の出番がないかもしれないな……。俺ってむしろ邪魔になるだけ?
思わず自分の存在意義について考えてしまった。
ただ、まだ使い始めて間もない……ということもあり、使える魔法は【火魔法】のファイアーと【聖魔法】のヒールのみだった。
ヒールの方は試していないが、ファイアーの威力を考えるとどんな重病でも治してしまいそうだ。
「わ、私が魔法……し、信じられないです」
シャルは自分に魔法が使えたことに感動していた。
「せっかくだから次の魔物はシャルが倒してみる?」
「が、頑張ります」
グッと握りこぶしを作り気合を見せているシャル。
その可愛らしい見た目と裏腹に魔法の実力は心強かった。
開けた部屋からさらに奥へと進んでいく。このあたりになると所々に骨のようなものが落ちている。
「あの……これって……?」
怯えながら聞いてくるシャル。
「あぁ、人の骨だな。ここから先は危険みたいだな」
そういったとたんに俺の服をキュッと掴んでくる。
いくら魔法の力を持ってても怖いものは怖いよね。
俺はそれに気付きながらも何も言わずに先へと進んでいった。
すると通路の先に先ほど見たゴブリンの姿が見えた。
これなら初めての相手にちょうどいいかもな。
シャルも先ほど俺が簡単に倒していたのを覚えていたのだろう。どこか安心した様子だった。
「や、やりますね」
グッと気合を入れてオドオドとしながら手に持つ棍棒に力を入れる。
ただ、相手のゴブリンが細めでニヤリと細く笑んだことに違和感を感じ、【詳細鑑定】を使用してみた。
『ゴブリン、レベル10』
【剣術、レベル1】
【棍棒術、レベル3】
【対人スキル、レベル3】
明らかに人と戦い慣れているといった感じだ。
それなりに高いレベル。ここら辺に人骨が転がっていたのはもしかしてこのゴブリンの仕業なのだろうか?
そう分かってしまうと急に相手ゴブリンが強そうに見えてくる。
おそらくゴブリンだと油断させて、その隙にあの棍棒で急所を叩いてくるのだろう。
「シャル、気をつけてね」
「はい、わかりました」
念のために俺はシャルに注意を促しておく。