ラーノルド家当主
ミハエルに連れてこられたのはミーナの家だった。
そんな俺を慌てて追いかけてくるニャーとシャル。
ニャーはともかくシャルは息を切らしていた。
「よし、行くぞ!」
唾を一度飲み込むとミハエルはノッカーを叩く。
「どちらさまですか?」
前に俺たちを応対してくれた執事の人が声をかけてくる。
「ミーナさんのことについて話したい」
ミハエルがきっぱりと言い放つ。
「かしこまりました。ちょうど旦那様がいらっしゃいますのでそちらにご案内させてもらいますね」
既に何人か案内しているのかもしれない。執事の人はこなれた対応で応接間へと案内される。
そして、応接間に入る俺たち。
向かいには荘厳そうな男の人が座り、まるで値踏みをするように俺たちのことを見ていた。この人がミーナのお父さんなのだろうか?
「どうぞ、お座りください」
執事の人に引かれた椅子に座る。
ただ、ジッと凝視されているので、どうにも緊張してしまうな。
「それでお主達は何の用だ?」
向かいに座る男の人が低い声で言う。
それに威圧されてしまったミハエルは口をつぐんでしまう。
仕方ないので俺がミハエルの聞きたかったことを聞く。
「ミーナさんがアンドリュー・ブリュッセルさんとご婚約なさると聞いて……、それは本当のことでしょうか?」
男の人の威圧に負けないように視線を合わせたまま、言い放つ。
「あぁ、本当のことだ。それがどうした?」
「失礼な物言いかもしれませんが、ご婚約相手の方……、素行のほうに問題がある方になりまして……。そのことについてご存じかと思い参上させてもらった次第です」
「あぁ、そのことな。もちろん知っている。だが、我が家訓として女子が生まれたときは強き男と婚約させると決まっているのだ。その基準であるクルードフの地下十階層突破をあの男は成し遂げた。しかも、そんな強い男からの求婚だ。断る理由はなかろう」
……ということはつまり、俺たちがダンジョンの地下十階層を走破したら同じように婚約する権利が貰えるのか……。
それを聞いてミハエルの目に光がともる。
ただ、俺は少し気がかりな点があった。
もし、そのアンドリューさんとの婚約をミーナが望んでいるのなら……俺はそれを応援したい。
ただ、そうじゃないのなら……ミーナが自由に恋愛出来るように俺が名乗りを上げてやるのもやぶさかではないな。
つまり、もう一度ミーナと話さないことには結論がつかないわけだ。
とそう思っているとちょうどミーナもこの部屋にやってくる。
その顔は一瞬嬉しそうに輝いたかと思うとすぐに下を向いて沈み込んでしまった。
「少しミーナさんと話をさせてもらってもいいですか?」
少し気になったので俺は向かいに座る男の人に聞いてみる。
「あぁ、かまわんよ。私は別の用もあるからな。では私は失礼するよ。君たちももしミーナの婚約者に立候補したいなら地下十階層を攻略してやってきてくれたまえ」
高笑いをしながら男の人はこの部屋を出て行った。
「それで、ミーナ。少し聞かせてもらってもいいかな?」
「なによ、私は話すようなことはないわよ」
顔を伏せながら言うミーナ。それでも俺は確認しておかないといけない。
「時間もないからはっきりと聞くよ。ミーナはアンドリューさんと結婚したいの?」
「婚約してるんだから結婚するしかないじゃないの」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない。ミーナの気持ちを聞きたいんだ」
俺はグッと顔を近づけて聞く。
するとミーナは目を潤ませ始め、それを手で拭いながら涙声で言ってくる。
「したいわけないじゃないの! あんな男となんて……。それでも婚約は絶対なのよ。どうすることもできないのよ。だから——」
感極まったのか、次第に声を大きくしていくミーナ。それが聞けたら俺は満足だった。
「わかった。なら俺たちに任せろ!」




