ミーナの事情
47AgDragon先生よりシャルのFAをいただきました。活動報告にて公開させていただいております。
呆然としていた俺たちだが、当然そんな一言で納得がいくはずもなく、あわてて男の人を追っかけて事情を聞く。
「ど、どういうことですか?」
「どうもこうも、ミーナ様はご婚約なさるんだ。だから今後は花嫁修業をなさるから冒険者なんてしている暇はない。その袋に入っている物はあなたたちにお世話になったから渡して欲しいと頼まれたものだ」
それだけ言うと今度こそ男は去って行った。
ミーナが結婚するのか……。確かに貴族出身のミーナならいつそんな話が来てもおかしくない。
というかそんな子によく冒険者をさせていたものだと思う。
そういう事情なら仕方ないだろう。むしろパーティを組んでいた俺だからこそ応援しないといけない。
ただ、最後にあえずに別れとかそんな寂しいことはないだろう。
俺はシャルの顔を見る。シャルも一度頷いてくれる。
「じゃあ、ミーナの家に行くか」
そう意気込んできたのは良いものの大きな家が建ち並ぶ貴族街、流石に俺たちだけだと浮いている気がしてならない。
俺は鑑定所もしていたこともある一般人だが、シャルは孤児院育ち、ニャーなんて奴隷だ。
俺ですら場違いに思えるのにこの二人は余計そう思っている……いや、ニャーはそんなことないか。
ニャーは興味深げにあちこちを見て回っていた。
一方のシャルは俺の後ろに隠れて恐る恐る進んでいく。
そして、ミーナの家の前にたどり着く。
大きな扉の前に立つと俺はシャルたちの顔を見渡す。
頷いてくれたのを確認すると大きく息を吸って、ノッカーに手をかける。
そして、二度コンコンと叩くと扉が開いていった。
「どちらさまでしょうか?」
中から背筋を伸ばし、キチンとした身なりの執事が笑顔を見せながら聞いてくる。
「あ、あの……、俺たちはミーナ……さんとパーティを組んでたもの……ですが」
こういった場はあまり経験したことなく流石に緊張で言葉に詰まってしまう。
「あぁ……、お嬢様のお知り合いの方でしたか。申し訳ありません、お嬢様は今——」
「爺や、いいわ。中に入ってもらって」
奥から聞こえてきたのは俺たちになじみのあるミーナの声だった。
「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」
爺やと呼ばれた執事の人に案内され俺たちは応接間に連れてこられた。
ここも本当に応接間かと思えるほど広い。少なくとも俺たちが今泊まっている宿の部屋の四倍は大きかった。
しかも、価値はどれほどのものか、普通に見ただけではわからないが、様々な装飾が掲げられていて、まさに貴族の部屋って感じがした。
「こちらにどうぞ」
執事の人がわざわざ俺たちのイスを引いてくれる。そこに座るとミーナがこの部屋に入ってきた。
しかし、その姿は深紅のドレス姿で俺は唖然として見てしまう。
「ハク様、ラーノルド家へようこそ。本日はどういったご用でしょうか?」
頭を下げて聞いてくるミーナのその姿は上品な貴族の令嬢そのものだ。ただ、普段のミーナを知っている俺からすればその姿は違和感しかなかった。
「爺や、お客様にお茶の準備を」
「はい、お嬢様」
執事の人が頭を下げて部屋から出て行く。それを笑顔で見送ったミーナは執事の人の姿が見えなくなったとたんに大きくため息をつく。
「はぁぁぁ……、もう、慣れないことをすると肩がこるわね」
「えっ?」
急にその態度が戻ったことで俺は困惑の表情を浮かべる。
「婚約が決まったからって正しい言葉を使いなさい! 花嫁修業をしなさいうるさくって……。なんとかハクたちに使いの者を送ることは出来たんだけど、こなかった?」
「いや、ちゃんと来たが、パーティ組んでた仲間とあれで別れなんて寂しすぎるからな」
俺がそう言うとミーナが驚き、そして、笑みをこぼす。
「そっか……、私がいなくなったら寂しいのか……。でもごめんね、婚約はどうしても断れなくって……今後も私はいなくなるけど冒険者、頑張ってね」
ミーナは少し寂しそうな笑顔を見せてくれる。
すると扉をノックする音が聞こえる。そのとたんにミーナの雰囲気が変わり、始めに見たお嬢様の雰囲気になる。
そして、執事さんが用意してくれたお菓子と紅茶を貰ったあと、俺たちはミーナの家を後にした。




