獣人の少女
俺は奴隷商にお金を払うと銀の首輪がつけられた少女が俺の下に連れてこられた。
「まず簡単に奴隷の説明だ。もちろん所有者の好きにつかっていい。だが、殺害すること、殺人を犯させること、罪を犯させることは禁止されている。
また、奴隷はこの首輪によって繋がれてる。この首輪は持ち主の精神力を使って電気を流すことが出来る。
そして、その威力も持ち主が操作出来る。これで奴隷に言うことを聞かせるんだな。しかも外すことも持ち主にしか出来ないようになっている。奴隷は返品が出来ないからな。今渡したらもうお前のものだ。それでいいな」
奴隷商は真剣な眼差しを向けてくる。
この辺は商売にまじめな人に見える……が何かありそうな気もする。
まぁ、これ以上悩んでも仕方ないので俺は頷いた。
「あぁ、了解だ」
「それじゃあ、交渉成立だ」
奴隷商の下から連れてきた猫族の少女。座っているときには気付かなかったが、後ろに細長いしっぽがあった。
「ご主人様がこれからにゃーのご主人様になるのかにゃ?」
俺の前に差し出された猫族の少女が聞いてくる。
「あぁ、そうだ。俺はハクトール。冒険者をしている。そして、こっちがシャルロッテだ」
俺が紹介するとシャルが軽く頭を下げた。
しかし、少女は首を傾げている。
「ご主人様がハクトールで……チビがシャルロッテ?」
「ち、チビじゃないし。まだまだ成長するよ!」
俺は乾いた笑みを浮かべる。少し口が悪いかもしれない。
だた、悪い子ではなさそうでよかったな。
俺は未だに騒いでいる少女とシャルをたしなめる。
「ところで君の名前は?」
「にゃーはニャーにゃ」
えっ? 今のが名前……なんだよな?
少し聞き取りにくかったのでもう一度確認をする。
「もう一回聞いてもいいか?」
「にゃーはニャーにゃ」
もしかして、『ニャー』というのが名前なのだろうか?
ややこしいな……。
念のために確認だけしておく。
「名前はニャーでいいんだな」
「そう言ってるにゃ」
奴隷という割には不遜な態度の少女だ。
「それじゃあ改めてよろしく頼むな」
そして、俺たちは当初の目的だった武器屋へと向かおうとした。しかし、ニャーは体がやせ細り、そのまま連れて歩くには少々問題がありそうだったので、俺たちはまずはじめに近くにある食べ物屋へと足を運んだ。
しかし、ニャーはテーブル側に立ち苦虫を噛み殺したような目つきで見ていた。
「どうしたんだ? 座らないのか?」
「座ってもいいのかにゃ?」
「……? あぁ、そういうことか。俺たちだけで食事するときは座ってくれ」
あまり奴隷を一緒の席に着かせるものはいない。それでニャーは遠慮したのだろう。もしかしたら食べ物ももらえないとすら思っているかも。
「それと、好きなものを頼んでいいぞ。俺たちはダンジョンに潜るんだからな。しっかりと食べて働けるようにしてくれないと困る」
決め手はシャルが頼んできたことだが、そうじゃなくても彼女の持っているスキルは魅力的だった。
速さを基調とした戦法を取れば十二分に戦えるだろう。
やはりニャーはご飯がもらえると思っていなかったようで、目を大きく見開き、しっぽを垂直に立てて驚いていた。
「ほ、本当にいいのかにゃ? 遠慮なく頼むにゃよ?」
しっぽを左右に大きく揺らしながら顔を乗り出して聞いてくる。
それを見た俺は苦笑いで頷くと、ニャーは嬉しそうに店員さんを呼び、大量に料理を注文していた。
そして、テーブルの上に大量に置かれた料理と格闘し始めるニャー。よほどお腹が減っていたのだろう、一心不乱に口の中に詰め込んでいたので、ほっぺにタレがついていた。
「ほら、ここ付いてるぞ」
「んぐ、んぐ、取ってほしいにゃ」
何だか奴隷と言うより妹みたいな感覚だ。
仕方なしに俺はタオルで拭ってやる。それを嬉しそうに目を細めて耳をぱたっとたたむニャー。
そして、再び料理と格闘を始めた。




