初ダンジョン
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「ほ、本当にいいのですか!?」
少女は目を輝かせながら聞いてくる。感激のあまりか、少女は無意識に俺の手を握っている。
「あぁ、もちろんだ。ただ俺もこれだぞ、いいのか?」
確認の意味も込めて俺は白色の冒険者証を見せる。
冒険者レベル【1】
【名前】 ハクトール
【年齢】 18
【性別】 男
【使用武器】 剣
【所持スキル】 鑑定
ここの記載事項は自己申告になるため、偽装する人もいるらしい。しかし、パーティを組むときとかに見せたりするものになるので、俺は素直に書いていた。
(けっ、戦闘スキルも持たねぇクズか! 鑑定所に帰りやがれ!)
パーティ相手を組もうとしてた時に言われた言葉、それが脳裏によぎる。そして、誰もパーティを組んでくれず俺は一人でダンジョンに入ろうとしたのだが……。
少女に見せた途端、今までの記憶がよみがえり、何か言われるのだろうか、今回も断られるのかと不安になり、固唾を飲み込む。
「スキルを持っていらっしゃるのですね。すごいなぁ……、私なんてこんなのですよ……、本当にいいのですか?」
少女も自分の白色冒険者証を恥ずかしそうに見せてくる。
冒険者レベル【1】
【名前】 シャルロッテ
【年齢】 15
【性別】 女
【使用武器】 なし
【スキル】 なし
「パーティに入れてくれそうな人もいたんですけど、この冒険者証を見せた途端に断られて……成年の儀? を受けてから出直してこいって言われて……このダンジョンの前なら誰か連れて行ってくれるかもと思ったのですが——」
結果は惨敗だった……それは俺と一緒に来るということでわかる。ただ問題は——。
「もしかして、成年の儀を聞いたことないの?」
「は、はい。孤児院のママは教えてくれませんでした」
あっ、孤児院育ちなんだ……。
教会が親のいなくなった子を育てるために設立した場所だ。
そこでは成人になるまでの生活を見てくれる。そのあとは里親が見つかる子、孤児院でそのまま働く子、よそに勤める子、冒険者になる子、様々だった。
ただ、普通は食べていけるようになるまで面倒見てもらえるものだが……。
「そこで冒険者になることを選んだんだね」
「あっ、いえ、私のところはほとんど職が用意できないので、見つからなかった子は強制的に冒険者に放り出されてそれっきりです……」
それだけで少女のいたところがあまり良くない孤児院だということがわかる。そんなところなら成年の儀を受けさせるようなことはしないだろう。もしかすると普段の栄養も足りてなかったのかも……。
「それで……、こんな私でも一緒に連れて行ってくれますか?」
少女——シャルロッテは不安げに聞いてくる。もちろん、彼女のスキルを知ってる俺からすると断る理由がなかった。
そして、ダンジョン前までやってくる。ダンジョン入り口は魔物が外に出てこないかを騎士の人が見張っていた。
ダンジョン内で取れた素材は売却時に一割、国に納めることになっている。しかし、ダンジョン内の素材は生活の必需品になっており、それなりの値段で売れていた。
それが危険がありつつもダンジョンに潜る人が後を絶たない理由でもあった。
「お前たちは騎士ではないな。冒険者証を」
ダンジョン内に入るにはパーティの誰かが冒険者証を持っている、もしくは騎士であることが必要だ。
今回は俺の冒険者証を見せておく。
「うむ、初ダンジョンか……。くれぐれも命を大切にしてくれよ。ダンジョンで落とした命は返ってこないんだ……そういっていても命を落とすものは多々いるがな。よし、問題ないな。行ってくれ」
一通り冒険者証を確認した騎士の人は俺にそれを返してくれる。
「ありがとうございます」
俺はお礼だけ言うと中に入っていく。そんな俺に続くように軽く頭を下げたシャルロッテも一緒にダンジョンへ入っていく。