休息日
宿ではやはり俺の想像通り、夜中にシャルが布団に潜り込んできた。
自分のベッドがあるにもかかわらず……。
まぁ大人数が当然の孤児院にいたのだ。一人が寂しく感じるのはわかるし、特に何かしてくるわけでもないのでそのままにしておく。
もちろん俺から手を出すなんてありえない。
確かに年は近いらしいが、見た目が……なぁ。
どう見ても子供にしかみえないシャル。
さすがになにも起こらずに安心して過ごすことができた。
そして、翌朝。
俺たちは朝食後に町へと出てきた。
ダンジョンのすぐそばの町だけあって武器屋、道具屋といったお店はすごく流行っている。
しかも、そういったお店は一店舗だけではなく複数あった。
鍛治の腕や特殊スキルがついてる武器、何の変哲もない武器、安い店、高い店、いろいろあるので、どのお店に行くかも結構重要だった。
しかし、今までの俺たちはあまりお金を持っていなかったため、いいお店には行けなかったが、今日は違う。
ジャラジャラとお金の入った袋から音がなる。
せっかくだからこれを機にいい武器でも買おうかな。
にやけながらそんなことを考えていた。
そんな時に露店から大きな声が聞こえる。
「らっしゃい、らっしゃい。奴隷は、奴隷はいらんかね? 戦闘奴隷、性奴隷、家事奴隷と様々な奴隷を揃えてるよー。良心的な値段で販売してるから是非見て行ってくれ」
恰幅が良く、いい服をきた男が声を張り上げている。
しかし、こういったお店は大抵店をしっかりと構え、営業なんかしていないところのほうが信用できる。
どうせ大した奴隷もいないのだろうと横目ながら【詳細鑑定】をする。
【剣術、レベル1】
戦闘奴隷として売ってる奴隷なのにレベル【1】のスキルしか持っていない。
こういった奴隷を買っても役に立たずに死んでしまうだろう。
しかも性奴隷はもっとひどい。この奴隷は病気持ちだった。おそらく長く生きてはいられないだろう。
家事奴隷はそれに適したスキルすら持っていない。
ひどい店だ。
軽蔑をしつつその横を通り過ぎようとした時に一人の少女を発見する。
小さめの背丈、茶色くボサボサの髪、そんな髪の中から見え隠れしてるネコ耳。どうやら獣人の少女みたいだ。
その少女は地べたに座り込んでジッと俺を見ていた。
普通の奴隷は全てを諦めたように目に意思を感じられないがこの少女は違った。
必死に何かを訴えかけてくる強い目をしている。
これは何かあるのではと俺はその少女を【詳細鑑定】する。
【短剣術、レベル1】
【瞬間加速、レベル1】
【運の良さ、レベル1】
様々なスキルを持っている。結構有能な少女なのかもしれない。しかし、扱いは良くないように見える。
少女の体はいたるところに傷があり、また、食事もあまりもらえていないようで体はやせ細っているように見える。
「ひどい……」
シャルは俺が見ていた獣人の子を見て、声を震わせていた。
そして、俺の服の裾をつかむ。なんとなくだけど、シャルの言いたいことを理解した俺は奴隷商の男の前に立つ。
「どうかされましたか?」
にやにやといやらしい目つきで、手のひらをこねくり回しながら言ってくる奴隷商。
「いや、奴隷を買いたいのだが……あの、獣人の値段はいくらだ?」
「いやー、お客さん、お目が高い。あの獣人は特に身体能力に優れているチーター族の獣人でございまして、少々お値が張ってしまうのですが……」
すると奴隷の少女が必死に首を横に振っていた。
しかし、この男が本当のことを言っている可能性もある。念には念を入れて【詳細鑑定】を使用しておく。
【種族、猫族の獣人】
どうやらこの男の言っていることは間違いのようだ。ならここは――。
「それならいいです。猫族の獣人が欲しくて声をかけたんですけど。値段もそれほどかかりませんからね。いやー、残念だなー」
急に演技をしたので棒読みみたいになってしまったが、それでもこの奴隷商には効果があったようだ。もしかしたらほとんど売れていないのかもしれない。
背を向けた俺をあわてて掴んでくる。
「も、も、申し訳ありません。チーター族の獣人は別の子でした。この子は紛れもなく猫族の獣人になります。お値段は……こちらになります」
男は指を二本立ててきた。金貨二枚と言うことだろう。
【相場、金貨1枚】
しかし、【詳細鑑定】で金額の相場を掴んでいた俺はそれよりも少し安い値段を言う。
「それは高い。銀貨六枚でどうだ?」
銀貨十枚で金貨一枚分の値段だ。相当安めに言ったのだが男はかなり悩んでいた。
それほどお金に困っているのだろう。こんな詐欺まがいの商売をしているのだから自業自得だ。
「銀貨八枚。これが限界になります」
男が渋々俺より高い値段を言ってくるがそれだと相場以下になっている。
しかし、それに気付かれるともっと値段を上げてくるかもしれない。
俺は悩んでいる素振りをしながら渋々了承する。
「わ、わかった。それで買わせていただこう」
「あ、あの……ハクさん……。私も半分出させてください」
もしかしたら最初にシャルが頼んだことを負い目に感じているのかもしれない。
でも、奴隷のお金を折半にすると後々所有権とかでやっかいなことになるかもしれない。
なのでここは断っておいた。