終戦
どうやら座り込んでいるのは俺だけじゃなかったようだ。シャルも全ての精神力を魔法に詰め込んだようで、緊張の糸が切れたかのようにパタリと倒れこんでしまった。
しかし、俺たちの他にもミハエルたちも座り込み、今起こったことを呆然とみていた。
「あ、あははっ、これは夢か?」
既に姿を消したオークがいた場所を見ながら乾いた笑みを見せるミハエル。
その状態のまましばらく休むとようやくミハエルたちは現実を見ることができたようだ。
とその瞬間にシャルの勧誘が始まった。
「ねえ、君、どうしてあんなやつのパーティにいるんだ? 俺たちと一緒に来ないか?」
「そうだ、きっとそのほうが君のためになるよ」
そこまで熱烈にパーティに求められたことがないシャルは「あわわ……」と慌てふためいている。
そして、何度も俺の方を見ていた。
もしかして、俺にどう断りを入れようか迷っているのだろうか?
仕方ないので俺はシャルに声をかける。
「俺に遠慮することはないぞ。シャルの好きにしたらいいぞ」
それを聞いたシャルは笑顔を見せてミハエルたちに頭をさげる。
「すみません、私はやっぱりハクさんと一緒に行きます」
もしかしてさっきの悩んだ様子は俺に断られないか心配していたのだろうか?
ミハエルたちも断られるとは思っていなかった様子で驚きを見せていた。
「どうして!?」
「私がここまで戦えるようになったのは全てハクさんのおかげなんです。だから私はそんなハクさんの力になりたいんです」
俺は特に何もしていないのに、あの時声をかけたことを想像以上に喜んでくれていたようだ。
「それに、あなた方は以前私がパーティを組んでくれと言った時はあざ笑って去っていきましたよね?」
あっ……。あいつら、そんなことをしたんだ……。
もしかしたら、そんなことをしたのも覚えていないのかもしれないが……。
今のキョトンとした表情を浮かべるミハエルを見て俺はそんな感想を抱いた。
それから俺たちは真っ白になっているミハエルたちを置いてさらに先へと進んでみることにした。
すると扉を開けたところで変な模様の描かれた床を発見する。
もしかするとこれがワープポイントというものだろうか?
せっかくなので試しに乗ってみることにした。
ミハエルが……。
俺たちは本当に乗るか迷っていたのだが、勝負に負け、お金も払い、さらに有能な人材も逃していたことに気づいたミハエルはいつまでもここにいたくなかったのだろう。
目の前にあるのがワープポイントだと気付くと真っ先にそこに飛び乗っていた。
そして、姿が消えるミハエル。
うーん、これは成功でいいのかな?
姿を消したまま戻ってこないミハエルに俺はどうするか迷ってしまった。
しかし、覚悟を決めてその模様の上に乗ると周囲の景色が溶けるように消えていき、代わりにこのダンジョンの地上一階層にあった様々な模様の部屋に戻ってきた。
その中の模様の一つが光っていたのでもう一度そこに乗ってみると再びオークの部屋の奥へと戻ってきた。
「どうでした?」
心配そうに聞いてくるシャルに俺は親指を立てていう。
「大丈夫だったぞ。ちゃんとワープポイントだ!」
それを聞いて安心した皆が順次ワープポイントに乗ってダンジョンの地上部に戻っていった。
「そういえばグランはこれからどうするんだ? このダンジョン内だけのパーティだったけど、もしグランがよかったら……」
「いや、俺はまだこのパーティにいる資格はないよ。もう少し自分を鍛えて、それで改めて入らせてもらうよ」
グランは何か自分に足りないところを見つけたのだろう。
オークと戦ってからはずっと思い悩んでいるようだったので、声をかけてみたが、やはり、【槍術】スキルが低いことを気にしているのかもな。
これは経験を積むしか仕方ないので、グランには頑張ってもらわないとな。
「そっか……、わかった。また、いつでも声をかけてくれ。歓迎するからな」
「あぁ……」
俺はグランとがっちり握手を交わすと彼が去っていくのを見守った。