地下五階層
そして、階段を見つけて降りた先、そこはとても広い空間が広がっているだけだった。
俺たちの向かいの壁には扉が付いており、おそらくその先が進むべき道なのだろう。
しかし、それが容易ではない理由があった。
「グオォォォォ!!」
目の前には武器は持っていないものの体長二メートルは優に超えてるであろう豚面の魔物——オークが立ちふさがっていた。
そして、先にこの階層にたどり着いたのであろう、ミハエルたちが満身創痍で壁際まで追い詰められていた。
「くっ、ここまでか……」
呼吸を荒げ、悔しそうにオークを見つめるミハエル。するとその時俺と視線があう。
その視線は「くっ、笑うなら笑え」とでも言っているようだった。
ただ、このまま放っておくと殺られてしまうとわかっていて放置する事もできない。
それにミハエルは強気で口を固く結んでいるがあとの二人は抱き合ってガクガクと目に見えるほど震えていた。
俺は大きく息を吐いた後に【詳細鑑定】を使う。
『オーク、レベル6』
【怪力、レベル5】
【棍棒術、レベル3】
【体力、レベル5】
【知能減、レベル3】
最後の【減】というものは初めて見た。あまりいい効果ではなさそうだ。それにやはり力が強いようだ。まともに受けると俺ではとても歯が立たない。
俺だけじゃなくて、戦闘スキルを持ってるグランでも厳しいかもしれない。なら——。
「シャル、とびっきりでかいのを唱えてくれ! ミーナはシャルの強化とオークの弱体化を!」
「うん……やってみる」
「わかったわ」
「俺は何をしたらいい?」
シャルとミーナは早速準備を始めてくれる。するとグランが俺に聞いてくる。他にする事は……いや、これはグランも嫌がるだろうけど……、やるしかないよな。
「グランは……これは嫌だろうけど頼めるか?」
「あぁ、任せてくれ」
自信ありげに言葉を言い放つグラン。それなら遠慮なく頼もう。
「わかった。グランはあいつらを守ってやってくれ。死ななければそれでいい!」
ミハエルたちを指差して言う。
グランはその言葉を聞いて「本当に助けるのか?」と視線で訴えかけてくる。
言ってしまえばグランもあいつらに見捨てられて死にかけてたんだよな。確かに助ける義理はないかもしれないが、このまま放置しても居心地が悪いだけだ。
俺が頷くと渋々ながらミハエルたちの方へと向かってくれた。
あとは俺が自分の役割を全うするだけだ。
俺の仕事……それは周囲の状況確認といち早く危険を仲間に知らせることだ。
これは【詳細鑑定】のスキルを持っている俺が一番向いている。
といってもこの部屋は一通り調べた結果、オークとミハエルたちしかいないことはわかっている。なら何も問題はないだろう。
そして、オークがミハエルたちにとどめを刺す前にミーナとシャルの魔法が完成する。
「□△◯□□、ファイアー」
「◯◯◯□、魔法強化。◯◯◯□、魔法弱化」
まずはシャルの体が黄色く光り、その後、オークの体が赤く光る。強化と弱化が無事に効いた証だ。
その後にシャルの魔法が発動するが、杖の先から出た火の玉は今までとは比べ物にならないくらい大きく、また、太陽のような輝きを放っていた。
あれ、このまま撃たせるとまずいような……。だって、オークの先にはまだミハエルたちがいるのに……。
という心配もむなしく、シャルはそのまま魔法を放つ。
それがオークにあたり、悲鳴にならない悲鳴をあげる。
「グォォォォ…………」
それが次第に小さくなっていき、ついにはその火の玉に飲み込まれてしまった。
しかし、その火の玉はそれだけでは止まらずに先へと進んでいく。
そして、そこにはミハエルたちがまだ立ち尽くしていた。
「やばい! 逃げ……」
全てを言い切る前に火の玉は爆発し、そこにいた人たちは跡形もなく消え去ってしまって……いなかった。
どうやら火の玉は爆発したわけじゃなく、シャルの力によって消滅したようだ。
魔法を出したり消したりは使った本人の意思でできる。それは魔法スキルを持たない俺には知る由もなかったことで、無事にミハエルたちが生きていたことに安堵し、その場に座り込んでしまった。