くじら
「はぁ、はぁ、これでなんとか五階層……」
息が上がりながらもなんとかボス部屋の前までやってきた。魔物は普通に倒せるのだが、やはりこのダンジョンの環境が俺たちを苦しめていて、思いの外進みが悪かった。
「ひとまず今日はこの階層のボスを倒したら戻ろう……」
上の階層でこれなら魔物が強くなってくる下の階層だと何か対策を取らないとまずいかもしれない。
特に階段を探して歩くとそれだけで体力を消耗してしまうから……。
「とりあえずボス……だね。どんな魔物が現れるのかな……」
ゆっくりと部屋を確認するが、その姿は見当たらない。シャルが心配そうにしているが、まだ五階層……そこまで強いボスでもないはずだ。
「大丈夫、まずは僕が鑑定をするから他の皆は周囲を警戒。魔物を生み出すタイプならシャルがそれを倒していって。ニャーはボスを撹乱して」
「「はいっ!」」
みんなの返事を確認したあと、俺はボス部屋の扉を開ける。
ボス部屋もあいも変わらずに砂浜の環境であった。
そして、ボスの姿は見当たらない……。つまりはワームのように地面に潜っているのだろう。
鑑定で地面を集中して調べると、魔物の評価を発見する。
【名前】 アースホエール 【種別】 ボス魔物 【レベル】 5 【所持スキル】 《鈍感、レベル6》 《地中移動、レベル2》 《自然回復(レベル6)》
【詳細】 地中を移動する巨大な鯨。その大きな体で獲物を押しつぶした後で悠々自適に捕食していく。
く……じら? なんだか嫌な気がする……。
「ニャー、少し離れるんだ!」
「んにゃ?」
僕の声を聞いて二人はその場を離れる。それと同時にアースホエールが姿を現す。
「にゃにゃ!?」
「お、大きいです……」
体長十メートルはあろうかというほど大きなクジラを見て思わずシャルとニャーが声を漏らした。ただ、それでも怯まずにニャーはアースホエールに向かって切りかかる。
「んにゃっ!!」
かけ声と共にアースホエールに切りかかると普通にその部分に傷がつく。
「思ったより柔らかいにゃ」
簡単に傷をつけられたことからニャーは必死にアースホエールに切りかかっていた。しかし、傷は簡単につくもののアースホエールは全く気にした様子がなかった。
「全く効いてる気がしないのにゃ……」
すぐに後ろに引いて呟いてくる。
たしかにあれだけニャーが攻撃したにもかかわらず、アースホエールは変わらずに土の中を泳いでいた。
しかもニャーが最初の方に切りつけた部分はすでに自然回復で治っていた。
「ニャー、一旦下がって! シャル、魔法の準備をお願い!」
みんなにそれぞれ指示を出していく。
するとニャーが後ろに下がり、シャルが魔法を使うために集中し始める。
「弱い魔法だと効果がないかもしれないから強めの魔法でお願いね」
「わかりました!」
目を瞑り集中を続けるニャー。その間もアースホエールは悠々自適に泳いでいる。
まるで俺たちを狙う意思はないかのように……。
それでも、この魔物を倒さない限り次の階層へといけない。まるで時間稼ぎをしているみたいだな……。
思えば動きにくい砂浜もまるで冒険者を倒そうとしてるわけじゃなくて、ただ疲れさせて撤退させようとしてるだけに見える。
とりあえず考えていても仕方ない。この階層をさっさと突破しよう。
土から飛び出てくるアースホエール。その瞬間にシャルは魔法を唱える。
「ファイアー!!」
十分すぎるほどの魔力を使って唱えた火の魔法は巨大なアースホエールの体すら飲み込んでそのまま壁へと衝突する。
そして、甲高い鳴き声をしながらアースホエールはその場に倒れて魔石と一本の太く長い紐のようなものに姿を変えていた。
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『困ってるお隣さんを助けたらご飯を作りに来てくれることになった』
あらすじ
俺の隣の部屋には美澄楓という美少女の高校生が住んでいた。
ただ、特に接点もなく過ごしていたのだが、ある日困っていた彼女を助けてしまう。
その翌日、コンビニの袋を持って返ってくる俺を見て、彼女が言ってくる。
「そんな不摂生をしたら駄目です。助けてもらったお礼に私が作らせていただきます」
それから毎日彼女がご飯を作りに来てくれるようになる。
ただ、それだけだったはずが、次第にお互いが惹かれあうようになっていき――。




