囮
翌日、俺とブライドは王城の前で堂々と居座っていた。
理由は簡単でここなら嫌でも目立つ上に行き交う人の様子も探れると言うことだ。
ただ、朝からじっと待っているのだが、昼過ぎになっても一向に変化が起きない。
ずっと鑑定画面を調べている俺としてはそろそろ文字を見るのがつらくなってくる。
「来ませんね……」
「そうだな。いや、もう来てるのか?」
「いえ、僕の鑑定に変化はありませんので今のところ何もないと思いますよ」
「そうか……」
ブライドも少し残念そうな表情を見せる。
さすがにこうやって長々と待っているのは彼にとっても苦痛なのだろう。
何かしているのならまだしもジッとしているだけだからな……。
「でも、さすがにそろそろ来るんじゃないか?」
ブライドは剣に手をかけていた。
どうしたのかと思ったが、周りの雰囲気がガラッと変わった気がした。
「これは?」
「わからん! ただ、ただ事ではなさそうだな」
周りの住人がじわりじわりと俺たちの方に近付いてくる。
「追い払うことは……?」
「さすがにこれだけの数を相手に一切傷を付けずに……というのは無理だ」
近くの住人を鑑定で調べてみる。
『生活魔法:レベル1』
『短剣術:レベル1』
『凶化:レベル2』
前に見た一人凶化のレベルが高い。
より操られていると言うことだろうか?
とにかくここにいるのはまずそうだ。
「どこか逃げる場所は?」
「いや、これだけの数で攻められたら二人とも助かる手段はないだろう。ただ、一つだけ可能性はある」
ブライドは俺の目をしっかり見てくる。
「お前だけ逃げろ! その間くらい時間を稼いでやる!」
「だ、ダメですよ! そんなことをしたら――」
「いや、すぐにお前たちが助けに来てくれるだろう? それにただでは転ばん。これをお前に渡しておく」
ブライドはそう言うと俺に大きな宝石が付いたネックレスを渡してくる。
「これは探知のネックレスだ。特定のものがある方向に光が浮かぶ魔道具だ。そして、その特定のものというのが――」
ブライドは自身の剣を触る。
「この剣だ! つまり俺が捕まることで犯人の居場所がわかるんだ。そこで助けてくれさえすれば全て解決だ!」
「わ、わかりました」
ブライドからネックレスを受け取ると彼は剣を抜き放つ。
「さぁ、俺が退路を切り開く。そこから逃げろ!」
そう告げるとブライドは思いっきり剣を振りかぶった。
そして、それを振り下ろすと衝撃波が起きて、住民達を吹き飛ばしていった。
「さぁ、逃げろ!」
ブライドに言われた瞬間に俺はその方向へ逃げていった。
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『社畜さん、ヒモになる〜助けた少女は大富豪の令嬢だった〜』
あらすじ
ブラック企業で働く有場健斗は夜、コンビニに行く途中で車にぶつかりそうになっていた少女を助けて、代わりに怪我を負った。
気がつくと病院で寝かされていた俺は上司からの電話で病院を抜け出そうとする。
するとそこに助けた少女が現れて宣言してくる。
『命を助けてくれたお礼に私があなたを引き取って養っていくと決めました――』
この少女は大富豪の令嬢でその宣言通り、あっさりと俺はその大企業へと引き抜かれてしまう。
業務内容は少女と一緒に過ごすこと……。
こうして俺は社畜からヒモへとジョブチェンジを果たしてしまったのだった。




