凶化
門番の兵に案内されて俺たちはすぐ側の部屋へと連れてこられる。
そこは薄暗く、部屋の隅には蜘蛛の巣が張っていて、埃っぽい倉庫だった。
「あの……、どうしてこんなところに?」
「今回の話は万が一にも訊かれるわけにはいかないからな」
門番が声を潜めて言ってくる。
よほど重要な依頼なんだろうな。色々と条件もあったし、差出人は未だに不明。
ただ、これだけのことができる差出人なんて数人しか考えられない。
「わかりました。それなら、ニャーも周りを警戒しておいてくれるか?」
「うにゃ? わかったのにゃ」
ニャーが周りに意識を向けてくれる。これで何かあってもすぐに反応できるだろう。
「シャルも念のために魔法の準備だけしておいてね」
「は、はいっ」
うわずった声で返事をするシャル。さすがに門番が目の前にいて緊張している様子だった。
「大丈夫、何かあっても俺がいるからな」
そっと耳元でささやいて軽く頭をなでてあげる。
するとうれしそうに目を細めていた。
そして、シャルが落ち着いたところで話を再開させる。
「それで依頼の話に戻りましょう。依頼主は王族の方ですよね?」
「よくお気づきで……。そうです、こちらは王女様からの依頼になります」
王女様か……。
わざわざ俺に頼んでくるところを見ると何か調べてほしいものでもあるんだろうか?
「それで内容は?」
下手に話を長引かせる理由もないのですぐに依頼の中身について尋ねる。
「依頼内容はこの国について調べることだ。正確にはこの国の国民について調べること。どうにも王女様が違和感を感じていらっしゃる様子でな」
国民の調査か……。それくらいならこの国にある鑑定所でも行えることだろうけど……。
「もしかして、その調査の場所に鑑定所も含まれているのか?」
「あぁ、すべてだ。もちろん俺たちもな。で、どうだ? 受けてくれるか?」
「その前に報償についても教えてくれないか? これだけの依頼となると相当の時間がかかる。それなりの褒賞をもらえるんだろうか?」
「大丈夫だ、それは好きなものを言ってくれと言われている」
まぁ相手が王女様だもんな。そのくらいのことを言ってきても不思議ではない。
「わかった、それじゃあ早速お前達を鑑定させてもらうがいいな?」
「あぁ、やってくれ」
門番の返事を聞いた後、俺は鑑定を行った。
『剣術、レベル3』
『盾術、レベル5』
『礼儀作法、レベル3』
まずはいままで話していた門番は普通のスキルしか表示されていない。
特におかしなところもないので問題なしと言うことだろうな。
「あんたは大丈夫だ。次はそっちの……」
門を守っていた方の門番に声をかける。
「俺だな。さっさと調べてくれ」
『剣術、レベル4』
『火魔法、レベル3』
『凶化、レベル1』
凶化? さっきは普通のスキルに見えたけど、何か違和感があると考えたら違和感しか浮かばなかった。
更に凶化を調べてみる。
『凶化』
持っている人物の理性を失わせて犯罪を行わせる。その間の意識はなく、レベルに応じた時間が経過すると元に戻る。凶化主を止めるとスキルも消える。
これか! もしかしたら今回探してほしい能力というのは……。
俺が鋭い視線を送っていることに気づくと門番が少し慌てた様子を見せていた。
「ど、どうしたんだ? この俺に何か変なところでも?」
「あぁ、見つけた。ただ、これの治療方法はすぐに見つからなさそうだけどな」
その凶化主というのを探さないとなんともできなさそうだ。
「そうか……、わかった。それならお前はもう門番に戻っていてくれ。余計な話を聞かれると困る」
「はっ!」
ここまで案内してくれて申し訳ない気持ちが出てきたが、これも仕方ないだろう。
「さて、俺が大丈夫なこともわかったところで自己紹介だ。俺はブライド。一応門番長をしている。よろしくな」
ブライドが手を差し出してくるので、それを握り返す。