休息
孤児院ダンジョンを抜けた俺たちはまっすぐ家に戻ってきた。
「なんかどっと疲れたわね」
そう呟くミーナ。
当然だ。無理やり操魔の虜スキルを取らされて、ミーナ自身のスキルも……スキルも……。
「あれっ? なんでスキルレベルがあがったままなの?」
てっきり操魔の虜がスキルレベルを上げていると思ったのだが、そうじゃなかったのかもしれない。
「どうしたの?」
驚きの声を上げた俺にシャルが不思議そうに聞いてくる。
「い、いや、なんでもないよ」
もしかするとあの魔族のスキルレベルが低かったのはあの魔族が他の魔族のスキルレベルを上げていた……つまり育成係とかだったのかもしれない。
そして、あの魔族のスキルは自身には使えない……だからスキルレベルが低いままだったとか?
所詮は想像でしかないもののあながち間違っていないように感じられた。
◇
家に戻るとベッドに倒れ込むように眠りにつく。
そして、夢らしい夢も見ることなく日が明ける。
ただ、想像以上に体は休息を欲していたようで目が覚めたときはすでに日は高く上がり、活気あふれる声が遠くから聞こえていた。
「うー、よく寝たなぁ……」
ぐっと伸びをしたあと、肩や手の様子を確かめる。
うん、何もない。絶好調だ。
ぐっすりと寝たおかげで体の調子は思いの外よかった。
ただ、こんな時間になるまで誰も起こしに来てくれないなんて……。
いつもなら誰か起こしに来てくれるよね?
それができない状況……そう考えて俺は最悪の光景を思い浮かべる。
い、いや、そんなことない。そんなことないはずだけど……。
ちょっとした不安がいつの間にか大きなものとなり、居ても立っても居られなくなった俺は足早に部屋を出るとまっすぐにシャルの部屋へと向かう。
手には回復薬等が入ったカバン。
鑑定画面もしっかりと発動している。
念のために腰には剣を携えている。
強い魔物とか相手だとこの剣はあってなきようなものだけど、それでも持っているだけで随分と気が楽になる。
そして、シャルの部屋の前に立つ。
右手はドアノブをつかみ、その姿勢のまま少し息を飲む。
いったい何が出るのか……。
無意識にドアノブを掴んでいない左手は腰の剣を触っていた。
再び目を閉じて大きく息を吸い込み、覚悟を決めると扉を開け放つ。
「えっ!? な、なに?」
そこにはちょうど目の前には服を着替えている途中のシャルの姿があった。
驚きの顔を浮かべ、一瞬固まったあと、手に持っていた服で自分の体を隠すシャル。
あっ、無事だったんだ……。
元気なシャルの様子を見ると俺はホッとため息を吐く。
しかし、シャルは顔を真っ赤にしてワナワナと震えていた。
どうしたのだろうと思った時に初めて気づく。
あっ、シャル、まだ下着姿だった……。
そう理解すると同時に響くシャルの悲鳴。
それを聞き俺は慌ててその部屋を出て行った。