孤児院のダンジョン
孤児院があった場所は小さな扉がついた建物を残して跡形もなく消え去っていた。
「うそ……」
その場で崩れ落ちるシャル。
子どもたちが避難した様子も見受けられない。
いや、この扉の中に避難してる可能性も……。
さすがにあの騒音だ。俺たちの他にもたくさんの人が何事かと様子を見にきていた。
そこで俺は冒険者組合の受付のお姉さんがいることに気がつき、その側による。
「あっ、ハクトールさんもいらっしゃってましたか……」
「一体これは?」
「これはダンジョンですね。ただ、こんな町の中に出来ることなんて……」
受付のお姉さんでも困惑しているようだった。
確かにこんな町中にダンジョンがあるなんて聞いたことがない。
「ここに住んでいた子らはどうなったか……知ってますか?」
「いえ、どこかで保護してるわけではありませんので……。もしかするとあのダンジョンの中に——」
あの中に取り残されてる可能性もあるのか。
ダンジョンということは魔物が闊歩しているはずだ。そんなところにいて長く生きていられるはずがない。
「ハクトールさん、申し訳ないのですが、中にいる子らを救出に向かってもらえないでしょうか? この町に今いる冒険者の中で一番レベルが高い人があなたがたなのです」
確かに一時期も十一階層まで潜れる冒険者がいないと言っていたもんな。どんな場所かもわからない以上、できるだけレベルの高い冒険者に……それはよくわかる。
ただ、未知の場所だ。どんな危険があるかわからない。
さすがに俺一人では決めかねるな。
そう思い、パーティメンバーの顔を見渡す。
まだ無事かもしれない。そうわかるとシャルの顔つきが変わった。
この表情は一人でも行くといいそうだ。
ミーナとニャーは大丈夫として、あとはニコルか。
「これからあのダンジョンに入ろうと思う。ただ、どんな危険があるかわからない。だから、無理にとは言わない。嫌ならここに残って——」
「いえ、ボクもいきます!」
ニコルもやる気みたいだ。これなら安心だ。
「わかった。シャルも行くよな?」
「はい、何としてもあの子らを助けてみせます!」
グッと握りこぶしを作りやる気を見せるシャル。ただ、気合を入れすぎるとどこか空回りしそうだ。その辺の手綱もしっかりと俺が握らないとな。
「ちょっと、私たちには聞かないの?」
ミーナが少しふてくされながら言う。だって今も行きたそうにそわそわしてるんだし、聞かなくてもわかるんだけどな。
俺は投げやりに聞く。
「ミーナとニャーも当然行くよな?」
「当然ね」
「にゃー!」
よし、それじゃあ早速入るか。
俺は小さな建物の扉に手をかけて、グッと一息飲み込んだあと、その扉を開けた。




