掃除(シャル視点)
この家はたくさん掃除する場所があります……。
玄関を開けてすぐの広いホール、広い居間に大きなキッチン。
しっかりとした食堂もある上に、魔石動力を使ったトイレや浴槽もある。
しかも、二階にはそれぞれ一部屋ずつ割り当てても余るほど沢山の部屋がある。
これだけを掃除するとなると気合いを入れないとダメですね……。
俄然気合いの入ったシャルはグッと手に力を込めて握りこぶしを作ると掃除用具を取り出して、まずは目に付く一階の部屋から掃除していく。
あまり住んでいなかっただけあって細かな埃がたまっている。
一人ゆっくりと一部屋一部屋きれいに掃除をしていく。
やっぱり部屋がきれいになっていくと嬉しくなってきますよね。
自然と笑みがこぼれるシャル。
あとは二階だけ……。
そう思ったときに玄関の扉をノックする音が聞こえる。
お客さん? 一体誰だろう?
不思議に思いながら玄関の扉を開く。
「はーい、どちら様ですか?」
「私は冒険者のマグラナイドというものだ。この館の主、ハクトール殿はご在宅か?」
マグラナイドさん? 初めて聞く名前かも……。もしかして、私と一緒にダンジョンに入る前の知り合い?
うーん、私じゃどう相手にして良いのかわからないし……。
「申し訳ありません。ハクトールさんは今お出かけをされてまして、いつ帰ってくるのかわからないのですが……」
「そうか、わかった。また当人が在宅しているときにでも寄せてもらう。掃除中に邪魔したな」
マグラナイドさんが私の手に持っている箒に視線を落とす。
さすがにお客さん相手に見せるものじゃなかったと私は慌ててそれを背中に隠すが、その様子がおかしかったのか、マグラナイドさんが笑みを浮かべ、そして、帰って行った。
後に残された私は恥ずかしさからその場にしゃがみ込み、しばらくワナワナと震え、動けなかった。
しばらくしてようやく気持ちを切り替え、動くことが出来た。
みんなが帰ってくる前に早く掃除しないと……。
階段を上がろうとすると玄関の扉が開く。
「ただいまー」
ハクさんの声が聞こえてくる。
どうやらもう帰ってきてしまったようだ。
「おっ、かなりきれいになっているな」
ハクさんが褒めてくれる。でも、まだ全ての部屋が終わっていない。
「すみません、まだ上の階が終わっていませんのですぐにしてきます」
慌てて階段を上がろうとするとハクさんが止めてくる。
「気にするな。一日で掃除が終わるなんてそもそも思っていないし、シャルが好意でしてくれていることだ。感謝こそすれ、怒ったりなんて絶対にしないから」
ハクさんはそう言って私に近づいてきて頭を撫でてくれる。
それが嬉しくて……、でも恥ずかしくて、私は顔を下に向けてしまった。