誰よりも働いてます。
「ぎゃー、むかつく。むかつく。あの女。夜、スナックで働いてるからって、何がそんなに、偉いのよー。ずっと専業主婦だった私を、見下してるのよ」
花江は、休憩時間に怒りで吠えていた。
なんでも花江の高校の同級生が、半年前に離婚したらしく、三人の子供がいるので、夜働きだしたらしい。昼は、結婚当初から働いてるスーパーのパートをしてるらしい。
「離婚したとたん、花江は気楽でいいわねーって、上から目線よ。自分は三人の子供を食べさせるために、必死に働いてるのよって、寝ないで働いてるアピールよ。私に昼は、昼寝してるんでしょーと言うのよ。むかつく。」
確かに掛け持ちで、仕事するのは大変だと思うが、そういう働いてる自慢をわざわざ花江にする暇があるなら、寝てないほど忙しくないように思える。
「昼は友達の店の手伝いしてるって言ったら。友達の店でしょう?それも気楽じゃなーいって言われた。自分は夜は、オヤジの相手を仕方なくしてるのよ。これも子供のためよ。花江みたいに旦那の給料をあてにしてる主婦と一緒にしないで、ほしいわーだってよ。佐知子のやつー。離婚した途端、手のひら返しやがって。高校からの付き合いだったけど、もう友達やめるわ」
まあスナック勤めは自分で選んだから、仕方ないだろうし、スナック勤めが嫌なら他にも夜の仕事がある。牛丼屋や、コンビニ、ファミレスなど。田舎のスナックの時給より、そっちのほうが時給が良い気もする。
私の先輩も離婚したから、娘さんを大学行かせたいために昼夜働いてるが、そういう寝ないで働いてますアピールなどはしない。文句いわず自慢もせずに必死に働いてる尊敬できる先輩である。
スーパーに行ったら、従業員入口の外でタバコを吸っているパートらしき女性がいた。今時、中に喫煙室があるだろうに客から見える外で制服きて、タバコをふかして見た目もよくない。
三角巾をしてるということは、レジではなく、裏で食品管理してるパートだろう。
そのパート女性のふかしたタバコの煙が、駐車場にいる客から丸見えだった。
「京子、あいつよ。スナックで働いてる高校の同級生の佐知子。夜昼働いてるならタバコ代、節約したらいいのにね」
スーパーに来た花江が私に言った。
いまいち危機感も、切迫感も必死さも伝わらないな。
「佐知子さんっ。いつまで休んでるのよ。休憩時間とっくに過ぎてるのよっ」
社員らしき30代の女性が、佐知子さんを呼びにきた。
「私は夜も働いて、疲れてるのよ。タバコくらい、ゆっくり吸わせてよ」
佐知子さんは、社員らしき女性に歯向かった。
そのスーパーが、夜はスナックで働いて下さいと強要したわけでもないだろうに、スーパーには掛け持ちしてるから休ませろというのは、関係ない気がする。
土曜日のディナータイムに、子供が三人で来た。
高校生くらいのお姉さんと中学生の弟と、小学生の妹と言った感じだ。
「お姉ちゃん、ピザも食べたいー」
小学生の妹がお姉さんに言った。
「だめっ。お姉ちゃんのお小遣いではピザまで無理なの。パスタだけにして」
自分のお小遣いで、食べにきたのだろうか。
「お姉ちゃんのバイト代入ったらピザ食べれるから、それまで我慢して」
バイトして妹たちに、ピザ食べさせて、あげようとは、偉い。
「京子ー。旦那、飲み会だから食べに来た」
花江が娘さんと食べにきた。
「あら。朋美ちゃん、兄弟だけで来たの?お母さんは?」
「お母さんは、夜の仕事です」
どうやら、あの兄弟は花江の高校の同級生、佐知子さんの子供らしい。
「たぶん今夜は帰ってこないと思います。土曜日は、いつも帰ってこないから。今日ガスがつかなくて、夕飯つくれないから、三人で食べに来たんです。弟がRSKのファンで、イケメン店長のお店に行きたいと言うし」
母親が帰って来ないって、田舎のスナックなんて12時で終わるでしょうが。リョウタのファンで、お小遣いで、食べに来たなんて涙がでそうだ。
「佐知子、子供達だけにして、何してるのかしら」
花江は、佐知子さんに、呆れていた。
「たぶん。名須川というオジサンのとこじゃないかな」
朋美ちゃんが、花江に言った。
「名須川って、名須川秋夫?まだ、付き合ってたの?!」
その名須川という男性は、花江の高校の同級生らしい。
佐知子さんと高校のとき、付き合ってた男性らしい。
結婚してから、再会して不倫していたらしい。
離婚の原因は、不倫がバレたらしく元旦那が怒りまくったらしい。
はあー。恋をするのは勝手だけど、子供たちに夕飯の用意くらい出来ないものだろうか。
未成年の子供達だけにして家を開ける。
そんなに男が大切か?
「シェフからピザのサービスです。オレに会いに来てくれたから、お礼だよ」
リョウタが、 佐知子さんの子供達にピザを運んだ。
「わー。ピザだー」
子供達は喜んでいた。
「来てよかったー。お母さんといるより、嬉しいー」
小学生の妹がピザを美味しそうに、頬張って言った。




