余計なこと。
土曜日に、有くんがサッカーの練習の帰りに店に来た。
「京子おばちゃん。お腹すいた。なんか食べたい。拓くんもいいでしょう。」
友達を連れてきた。
「お昼は食べたんでしょう。ピザにする?」
私は、有くんに聞いた。
「うんっ。ピザがいい。」
お義姉さんは今日も仕事らしい。兄は家に莉奈ちゃんといるらしい。
「明日、サッカーの試合あるんだ。だから練習頑張ったから、お腹へった。」
「サッカーの試合。お母さん、お父さんは応援に行くの?」
「お母さん、明日も仕事だから来ない。お父さんは暑いところ嫌だって言ってたから、来ないよ」
兄も、休みくらい息子のサッカーの応援に行けないものかね。
「じゃあ。リョウタお兄ちゃんと恭ちゃんと、応援にいこうか。お弁当作っていくよ」
「うんっ。来てきてー」
有くんは両親が誰も応援に来ないからか、喜んでいた。
「拓くんも、お父さん、お母さん働いてるから来れないんだって」
有くんは、一緒に来た拓くんのことを言った。今、共稼ぎが多いから、なかには来れない親もいるだろうな。なかなかサッカーの試合の応援だからといって、仕事も休みにくいだろう。
日曜日。
「有くーん。頑張ってー」
グランドにいた有くんに手を振った。
有くんの妹の莉奈ちゃんも連れてきた。
「有くんのおじさん、カッコイイ」
「オレ知ってる。パスタ屋のイケメン店長だよ」
「うちのお父さんと全然違う。お父さん来なくていいのに」
有くんは、みんなに羨ましがられた。
「有くん、すごーいっ」
有くん、一点いれた。チームは、3-2で、勝った。
「京子おばちゃん。拓くんも一緒にいい?」
「うん。いいよ。拓くん、一緒に食べよ」
日曜日ということもあって、応援に来ている父兄は、けっこういた。
仕事で、来れない親は有くんと、拓くんだけみたいだ。
午後からも試合があるのでお弁当は、おにぎりと、おかずは揚げ物はやめて、運動に差し支えがないようなおかずにした。
「拓くんも、食べて」
「ボク、おにぎり持ってきたので」
拓くんは、コンビニのおにぎりを持ってきたみたいだ。
「沢山作ってきたから、食べて。コンビニのおにぎりは、あとで食べたら」
私は、作ってきたお弁当をすすめた。
「おにぎり、すごい美味しいー。コンビニのおにぎりより美味しいー」
拓くんは、おにぎりを美味しいと言って食べてくれた。
月曜日。
ランチタイムに、40歳前後の女性が怖い顔をして店にきた。
「シェフ呼んでください」
入ってくるなり、その女性はリョウタに言った。
「失礼ですがシェフに、どのようなご用件ですか」
「高城拓の母親です。昨日うちの息子に、おにぎりを食べさせたそうじゃないですか」
その女性は有くんの友達の拓くんの母親だった。
「笹原です。確かに、昨日サッカーの試合の応援に行って、拓くんに私の作ったおにぎりを食べさせました。勝手なことをして、申し訳ございませんでした」
私はキッチンから出ていって、拓くんの母親と話をした。
「私はね。朝、わざわざコンビニ行って、おにぎりを買って拓に渡したのよ。それを食べてこないから、どうしたのかと聞いたら、有くんの叔母さんの作ったおにぎりを食べたと言うじゃないの。拓は有くんの叔母さんのおにぎりが、すごい美味しかったって喜んでて。それって、まるで母親の私がお弁当も作ってやらないみたいじゃないのっ。拓は作ったおにぎりより、コンビニのおにぎりの方が好きだからコンビニのおにぎりを渡したのよ。それなのに他人のあなたが作ったおにぎりが、コンビニのおにぎりより、美味しいって言われて、私の立場がないじゃないのっ。私は働いて忙しいのっ。あなたみたいに、 お弁当に力入れる暇ないのよ。他人のくせにして余計なことしないでっ」
はあ。てっきり私は、他人の私が作ったおにぎりを勝手に食べさせるなと、衛生面での文句かと思った。今の子は、アレルギーあるし、素手で握ったおにぎりを嫌がるから、そう言った話だと思ったが、拓くんが美味しかったと言ったから文句言いに来たらしい。
「勝手なことをしまして、申し訳ございませんでした」
おっせかいな余計なことをしたのは確かだから、私は頭を下げた。
「ちょっとおっ。話聞いてれば、違うんじゃないのお。文句じゃないでしょう。まずはシェフに、お礼を言うべきじゃないのっ」
花江がキッチンから出てきて、その拓くんの母親に、向かって言った。
「花江、いいのよ。勝手なことをした私が悪いんだから」
私は、花江を止めた。
「ふんっ。息子が、おにぎりが美味しかったと言ったから文句を言いに来た?どう考えても、おかしいでしょう。京子はね。親がサッカーの試合を見に来れない甥のために、せっかくの自分の休みに、お弁当作って応援に行ったのよ。で、有くんの友達も親が来れないから、お弁当を一緒に食べたのよ。そこまでして文句を言われる筋合いないでしょう。息子が、京子が作ったおにぎりを食べたから、自分の立場がない?あなたのプライドのために文句を言いにきて、全く息子の気持ちを考えてないでしょうが。そんなにプライドあるなら、早く起きて息子が喜ぶような、おにぎりぐらい作りなさいよ」
花江は、延々と拓くんの母親に説教した。
「そうよね。シェフのおにぎりを食べれるなんてラッキーなのにね。プロのシェフのお弁当に勝とうというのが間違ってるわね。私達だってシェフのお弁当なら、ぜひ食べたいわよ」
ランチをしてた常連の主婦グループの一人が言った。
「衛生面も、あなたより、シェフは気を付けてると思うわよ」
もう一人の主婦も、拓くんの母親に向かって言った。
「わかりました。」
拓くんの母親はバツ悪そうに帰って行った。
でも、やはり、これからは他人の子供に、衛生面のこともあるし、手作りのお弁当を勝手に食べさせるのは、やめよう。
「みなさん、ランチタイムを中断して申し訳ございませんでした」
私はランチタイムにいたお客様に謝罪し、デザートをサービスした。
土曜日にサッカーの練習のあとに、有くんが拓くんと来た。
また拓くんに、食べさせたら母親に良く思われないだろうなと思っていたら、拓くんが私に紙袋を渡した。
「これ、お母さんに有くんの叔母さんに渡しなさいって言われた。おにぎりのお礼だって」
紙袋の中には、恭ちゃんが好きなメーカーのお菓子が入っていた。




