ここにいることが。
「ルキアがメジャー?」
リョウタが、駿くんとスタジオで話をしていた。
「ええっー。あの大手のtracks Japanから」
駿くんは、また驚いた。
「なんで、マサトさん関係かな?」
駿くんはマサトのバンドもtracks Japanなので、その繋がりだと思ったらしい。
「違う。京子が推したらしい」
「ああ。スタジオ設立したとき、tracks Japanから花来てたよね。」
「その辺の事情は、勝手に言えないんだけど京子の推薦だからみたいだ」
「なんか、京子さん、ただ者じゃない感じはしてたけど、そうなんだ」
「なんか。ルキアくんのためには、そこまで、するんだなーって、思ってさ」
リョウタは、やっぱりメジャーになりたいのだろうか。
インディーズのままでは、物足りないのだろうか。
「そうかな。ルキアには、ただ紹介しただけでしょう。あとはレコード会社に任せるわけだし。仕事ですよ。でも、リョウタさんは、京子さんが全面的にバックアップしてるわけだし、自主レーベルまで作って、お金もかけてるし、力の入れ具合が全然違いますよ」
リョウタは、駿くんにメジャーになりたいかと聞いた。駿くんは、もう東京に行く気はないと言った。
「孫が産まれて、親父の嬉しそうな顔見たら、孫と引き離せないですよ。それに、オレは東京行っても、バンドしかできない。何もできない。家族を食わすために何もできないと思う。だから、ここから、もう出ようとは思わない。だから、こんな田舎でバンド活動できるようにしてくれた、リョウタさんと京子さんに、すげー感謝してます。」
リョウタが、スタジオから帰ってきた。
すっかり宅飲みになってしまったリョウタを父親が、近所の焼き鳥屋に行こうと誘った。
「いらっしゃいっ。笹原さん、お婿さんといいですね」
焼き鳥屋の店長が、言った。
「リョウタくん。真吾くんと駿くんに子供が産まれて、リョウタくんも二人目欲しくなったんじゃないか」
父親はリョウタが二人目が欲しいだろうと思ってか、言った。
「いや。どうしても欲しいってわけじゃないんで。子供が二人もいて、オレの世話もじゃ、京子が大変ですよ。だから、いいです。」
「なら、いいけど。リョウタくんが二人目欲しいなら、京子に仕事を休ませて不妊治療させたほうがいんじゃないかって、母さんと話をしてたんだよ。そのこと京子に言うと怒るだろうし」
父親は、心配してたのか言った。
それとも周りは、子供が二人。三人いるから、うちも二人は欲しいという考えなんだろうか。
「いや。いいです。京子に大変な思いさせたくないので。たぶんプレッシャーにもなるだろうし。オレは、京子と、恭が、いればいいです。あと、お義父さんと、お義母さんがいれば」
リョウタは、父親に、気を使ったのか、付け足したよう義両親も入れて言った。
「そうか」
父親は、安心したようにビールを飲んだ。
人のために思ってることが、恩着せがましく思われたりしないだろうかと、言えないことがある。
人の思いなんて。どれくらい思ってるかなんて、見えなくて、説明できなくて、表せない。
こんな小さなことだって、嬉しそうな顔をしたリョウタが好きだった。
それは、父親になったリョウタでも、今も変わらない。




