迎えに来る。
なぜか私は、東京にいた。
tracks Japanの江口さんから、懇願され、渋々きた。
例の私の曲で、映画のピアノ曲をする20歳の音大生がスランプに落いってるらしい。
「私には、無理です。荷が重いです」
音大生は、泣きわめいていた。
レコーディングまできて、それはない。
なんでも、20年前に私の曲を弾いたピアニストは、今は世界的なピアニストなっており、それを超えるように弾けないらしい。
別に超えろとは、誰もいってないと思うが。
神木音祢さん。20歳。
「音祢ちゃん、先生来てくれましたよ」
私がアドバイスなど、出来るのだろうか。
「はじめまして。kyokoです」
私の作曲者名は、kyokoである。ありきたりだが。
「先生、私、サユカさんみたいに弾けません」
サユカさんとは、今は世界的ピアニストになったピアニストである。
「サユカさんのようには、弾くことはないわ。20歳の音祢さんのピアノを聴かせて。私が、この曲を作ったのは、20歳の時です。」
音祢さんは、私の前で、ピアノを弾いた。
感想。可もなく不可もなく。無難。普通。
コメントしようもない。
特に、私の曲が好きだということも感じられない。ただCDデビューに、映画のタイアップになるし、言われて弾いてるだけ。そんな感じ。
自分の好きな曲を弾いたほうがいいのでは?という感じがした。
サユカさんとの違いは、そこかもしれない。
サユカさんは、私の曲を気に入ってくれて、ぜひ弾きたいと言ってくれた。
でも、話題の20歳のピアニストだし、そこまで曲に思い入れがなくても、売れるんですかね?
「監督が、音祢さんのピアノで、オッケーださないんですよ。映画のイメージのピアノじゃないって。でも映画は、どうしても先生の曲使いたいっていうんです。」
江口さんが困ったように私に言った。
「別の曲でやるしかないんじゃないですか。音祢さんの弾きたい曲を弾くしかないですね」
話題は、たぶんピアノじゃなく、顔だろう。音祢さんは、美人ピアニストと、もてはやされてきたのだろう。
モデルの仕事もしてるらしいし、CD発売は、話題にもなるだろう。
「先生、弾いてください」
江口さんが、私に無茶苦茶なことを言った。
「無理です。私、自主レーベル立ち上げたばかりですよ」
「CD出すってことじゃなく、映画で使うピアノ曲は、先生が弾いてくれれば」
私は、プロのピアニストじゃないんだから、監督が、ますますオッケーだすわけがない。
疲れた。
何処にも寄らないで、帰ろう。
『社長さん。メジャーレーベルから、話がきてるんだけど、どう思う?あんま知らないメジャーレーベルなんだけど』
ルキアくんから、LINEがきた。
「社長さん、東京に来てるなんて、ラッキー」
私は、ルキアくんと、東京駅に近いファミレスで、あった。
「社長さん、仕事できたの?」
「そう。仕事」
リョウタから、メールがきた。
『まだ終わんないの?』
返事しないと、しつこく、よこすからな。
『仕事は、終わって、ルキアくんとファミレスいるよ』
リョウタに、返信した。
「たぶん。演歌とか多いメジャーレーベルだと思う」
演歌が多いレーベルが、新しくビジュアル系部門でも、始めるのだろうか。
「ルキアくんが、気が進まないなら、やめたら?焦らないほうがいいよ。」
「本当は、近かったら社長さんのレーベルがいんだけど」
でも、ルキアくんは、メジャーに、なれる素質を持っている。
若いしビジュアルもいいし、歌も上手いし、サービス精神旺盛なところとか、センスもある。確実に宣伝してくれてメジャーレーベルのほうがいいと思う。
ルキアくんと食べながら、色々とバンドの話をした。最終で帰ればいいだろう。
「あっ?!」
ルキアくんが、びっくりして、声をだした。
なんだろうと、ルキアくんが、見てる方向を見ると、リョウタが立っていた。
「京子、なんだよ。ルキアくんと会ってるなんて」
リョウタは、走ってきたのか、息をきらしていた。
まさか、走ってくる距離じゃないよね。ヘリコプターででも、来たのだろうか。
「もうー。バンドの話をしてたの。」
リョウタは、私の隣に座った。
「リョウタさん。すげー。心配で、東京まで来たんですか」
ルキアくんは、リョウタの嫉妬深さに驚いてた。
「リョウタさん、本当に一途に社長さんを愛してるんだね」
リョウタは、まあね。と言った勝ち誇った顔をした。
「でも、付き合ってるときに、浮気したのよ」
私は、ルキアくんに言った。
「えっー。浮気したんですか。それじゃ、だめですね」
「ルキアくんに言われたくないよ。ルキアくんみたいに、手当たり次第じゃないからね」
リョウタは、挑戦的に言った。
「オレは、一途ですよ。ただ、熱しやすく、冷めやすいだけですよ。短期集中です」
「じゃあ、京子のこと、もう冷めたんだろ?」
「社長さんとは、まだ相思相愛になってませんから。始まってないから、冷めませんよ」
「まだ?まだって何?」
リョウタは、むむむっという顔をした。
「あぶねー。東京まで、来て良かった」
普通。新幹線で、東京まで、来るかね。
一方、家では。
「あれ?リョウタくんは?京子もいないし、ゆっくり飲めると思って、青森の地酒買ってきたのに」
父親がリョウタと宅飲みしようと思ってたらしく、母親に聞いた。
「京子が、ルキアくんと会ってるのが心配らしく、東京まで、迎えに行きましたよ」
「東京まで?それまた、大変だな」
父親が、感心したように言った。
帰りの新幹線で、リョウタはグズグズ言ってた。
「ビール飲んだら?」
私は、売り子さんが来たのでリョウタに言った。
「駅まで車で来たから」
「私が運転するから、いいよ。」
そう言うと、ビールを買った。
「あっ。お義父さんに、お酒買えば良かったな」
リョウタは父親との宅飲みをキャンセルして来てしまったことを、気にしたようだった。
「別にいんじゃない。うちの県にも、美味しい地酒あるし」
ビールを飲んで、リョウタは寝てしまった。
まあ。疲れただろうな。メールみて、すぐ新幹線に飛び乗ったのでは。
リョウタの安心しきった寝顔を見ていた。




