宅飲み。
幼稚園で、劇をやることになった。その配役を決めるのだが、王子様とお姫様役は、親なら自分の子供にと思うのだろうか。
「恭ちゃん、王子様やろう」
恵梨香先生が言った。
「王子様って、何するの?」
恭ちゃんは、恵梨香先生に聞いた。
「王子様は、お姫様と結婚するんだよ」
「結婚!?ボク、王子様しない。ボク、ママと結婚してるだもん、お姫様と結婚できない。重婚になっちゃう」
恵梨香先生は、重婚ということを知ってるだと驚いていた。リョウタが教えたのである。
「恭ちゃん、大丈夫だよ。お芝居だから、本当に結婚するわけじゃないから。だから、王子様やろう」
「やだ、やらない。ボク、ママだけだもん。王子様やらない」
恭ちゃんは、断固として、王子様をやらないと言った。
「恭ちゃんって、一途なのね」
若い恵梨香先生は、妙に納得していた。
劇の発表会の日。
「なんか、明奈ちゃん、お姫様なのに、不満そうですね」
劇を見ていた父兄席で、太郎くんのママが、明奈ちゃんのパパに言った。
「恭ちゃんが、王子様じゃないから、すねちゃったんですよ」
明奈ちゃんのパパは、言った。
「で、フトシくんが、王子様か。なんか、フトシくんのママ、園長先生に圧力かけたらしいですよ。うちの子を、王子様にって」
聡くんのママが言った。
やはり、自分の子供によい役をやらせたいものだろうか。将来、俳優にでも、したいのだろうか。
恭ちゃんは、劇の最中に、私と目があうと、手をふった。
「可愛い家来ですね。」
聡くんのママが言った。
そう、恭ちゃんは、家来の役になったのである。
太郎くんと、聡くんと、三人でフトシ王子様の家来役である。
「では、お姫様、王子様に、誓いのキスをしてください」
神父役の子が言った。
「いやだー。絶対いやっ」
明奈ちゃんは、キスを全力で拒否した。
「明奈、ほっぺにチューするふりで、いんだよ」
明奈ちゃんのパパは、明奈ちゃんをなだめるように言った。
「いやっーーー」
明奈ちゃんの拒絶の声が、幼稚園中に響いた。
ハチャメチャな劇は、終わった。
でも、恭ちゃんの家来姿も可愛いかった。
駿くんと、真吾くんの奥さんが、出産予定日が近いので、飲み会は、しばらく控えるようにしたらしい。
リョウタは、休みということもあり、家で飲むことにした。
「リョウタくん。このお酒、友達から貰ったから、飲もう」
父親が、日本酒を持ってきた。
「えっ。新潟の酒じゃないですか。旨そうー」
リョウタは、新潟の地酒に喜んだ。
父親は、リョウタと飲めるので嬉しそうだった。
私は、とりあえず、油揚焼いたのに、ネギ散らしただけのつまみを作ってだした。
あと、シソとチーズの春巻き。
「京子、美味いっ。居酒屋のより美味い」
リョウタは、私の作ったツマミに喜んでた。
「ママ、ボクもパパ食べてるの食べたい」
「ただの油揚だよ」
そう言って、私は、恭ちゃんに、油揚のツマミを食べさせた。
「美味しいっー」
ほんとに、油揚焼いて、ポン酢で、食べるだけなんだけど、この油揚が、地元でも有名な油揚なのである。だから、焼いただけでも、美味しいのだろう。
「リョウタ、お父さん、ご飯は自分でよそってね」
私は、いつまでも飲んでるリョウタと父親をほっといて、恭ちゃんとお風呂に入った。
「宅飲みも、いいですねー。お金かからないし」
リョウタが、父親に言った。
「そうだろ。ツマミは、京子に作らせればいんだから。今度の休みも家で飲むなら、私が、良い酒選んどくよ」
父親は、上機嫌で言った。
でも、家だと、いつまでも、グタグタ飲んでそうだなと、私は、思った。
家を居酒屋にして、二人から金取るしかない。
「ママー。ボクは、重婚じゃないから、ママだけだからね」
お風呂で、恭ちゃんが言った。
なんて、一途な恭ちゃんなの。リョウタに似てない。
リョウタも、一途だったら、良かったんだけど。
つきあってた時の一回の浮気をいつまでも、覚えてる私だった。




