キズナ。
リョウタのお母さんが倒れたと、義父さんから、連絡があり、私とリョウタと恭ちゃんは、リョウタの実家に向かった。
「母さん、大丈夫か」
病室に入ると、お義母さんは、点滴をしていた。
「リョウタ、京子さん、恭ちゃんまで来てくれたの。ありがとう」
お義母さんは、疲れきったように、顔色も悪かった。
「おばあちゃん。大丈夫?」
「恭ちゃん、こんなとこまで、来てくれて、ごめんね」
お義母さんは、かなり血圧が高かった。かなりの疲労があるみたいだ。検査のために、しばらく入院することになった。
お義母さんは、最近、リョウタのお兄さんの徹さんのことをかなり心配していたらしい。やはりお互い会社を経営しているので、取引先や業者から、お義兄さんの会社が思わしくないことが聞こえてくるらしく、夜も眠れないくらいお義母さんは、気にかけていたらしい。
お義母さんが入院では、お義父さんは、一人で大変だろうし、検査結果も、気になるので、私とリョウタは、店を休んで、リョウタの実家にいることにした。恭ちゃんも、一緒にいることにした。
お店のホームページには、都合により、しばらくお休みします。と、お知らせに、更新した。
朝は、お義父は、会社があるので、お義父さんの朝食の準備とお弁当を作り、洗濯、掃除し、昼は、お義母さんの病室に行き、洗濯したり、お世話をした。その間、恭ちゃんは、リョウタと一緒に、大人しくしてた。環境が変わり、恭ちゃんが帰りたい。と言い出さないか心配だったが、私とリョウタがいるので、帰りたいと言うことは、なかった。
リョウタの実家に来て、三日目。
「京子。親父の会社の事務員が、インフルエンザで、休むから、京子、事務を手伝ってくれないか」
リョウタが、言った。
通常、お義父さんの会社は、お義母さんが、経理、総務をしている。その他に、雇っている事務員が一人が、インフルエンザと休むと言うのだから、事務員が誰もいない状態になったわけである。
「おはようございます。宜しくお願いします」
私は、早速、お義父の会社に行った。
「京子さん。急遽。無理行って申し訳ない。決算時期だし、忙しくて収集つかないんだよ」
お義父さんは、すまなさそうに言った。
「営業の冨樫くんに、作る資料教えてもらってくれないか」
「はい。わかりました」
私は、営業の冨樫さんに挨拶した。
「先に、大至急の資料と見積書お願いしていいですか」
これくらいの量なら、午前中に終わるだろう。
私は、久しぶりに、OL時代の血が騒ぎ、すごいスピードで、パソコンのキーボードを打った。
言っては悪いが、私が働いてた会社の資料に比べれば、簡素だし、入力する量も少ない。
「社長、息子さんのお嫁さん、すごいスピードですね。事務の桜井さんと、比べ物になりませんよ。なんか、やってたんですか」
営業の冨樫さんが、お義父さんに言った。
「独身時代、都会の証券会社と商社にいたらしい」
「へえ。それでは、すごいですね」
「冨樫さん。終わりました」
私は、言われた資料と見積書を、終えた。
「もう。終わったんですか。ありがとうございます。助かりました。あと、こちらの資料を、ちょっと量が多いんですが、今週中にお願いします。」
私は、冨樫さんに言われた資料に取りかかった。
私は、資料を作成しながら、電話をとり、来客の対応し、お茶くみをし、コピーをし、事務全ての仕事をやった。
「冨樫さん、資料、全部終わりました」
「えっ。この資料全部終わったんですか。」
冨樫さんは、一周間分の資料を全部終えたので、驚いていた。
「お義父さん、私。夕飯の仕度あるので、定時で帰っていいですか」
私は、恭ちゃんのことも心配だったので、お義父さんに言った。
「うん。いいよ。京子さん、ありがとう」
そうして、私は、定時で帰った。
「社長。お嫁さん、事務の桜井さんが一周間かかってやる仕事を一日で、終わらせましたよ。すごい後継者じゃないですか。安心ですね」
冨樫さんは、お義父さんに言った。
「でも、次男の息子の嫁は、オーナーさんなんだよ。お店を経営してるんだよ。だから、こっちに来るのは難しいな」
「えっ。あの若さで、オーナーさんなんですか?かなりのやり手のお嫁さんですね」
「そうなんだよ。お店もけっこう繁盛してるみたいでさ。年は上だけど、しっかりもので、息子に、もったいない嫁さんなんだよ。」
私がお義父さんの会社で、働いている間。
「徹。来てくれたの」
お義母さんの病室に、お義兄さんが来た。
「リョウタに教えてもらってね」
お義兄さんは、久しぶりなのか、気まづそうだった。
「徹。会社の方は、どうなの?うまく行ってるの?」
やはり、お義母さんは、お義兄さんの会社のことを気にかけてるみたいだ。
私は、仕事を終えて、リョウタの実家に帰った。
「ママー。ママー」
恭ちゃんが、すごい嬉しそうだった。
「京子。家に兄さんが来た。京子に、この間のお礼を言いたかったらしいが、親父の会社を手伝いに行ってると言ったら、驚いてた」
リョウタが、お義兄さんと色々話をしたらしい。
「アニキ、母さんが、アニキのことをかなり心配してるみたいだから、行ってやれよ。きっと喜ぶよ。母さんは、アニキが一番なんだよ」
リョウタが、お義兄さんに、病院に行くように言った。
「そんなことないよ。母さんは、オレには、期待はしてたが、可愛いのはリョウタの方だよ。リョウタが家を出て帰って来なくなったとき、かなり心配し、会いたいみたいだった」
「アニキ。母さん、安心させろよ。そばに居てやれよ」
リョウタは、自分は離れて暮らしてるので、勝手だが、お母さんは、お義兄さんが、会社を継いでくれるのを望んでるかもしれないので、お義兄さんにお願いした。
夕飯は、恭ちゃんの好きなシチューにした。
お義父さんも帰ってきて、一緒に食事した。
「シチュー、暖まるな」
お義父さんは言った。
「おじいちゃん。ボク、ママのシチュー大好きー」
久しぶりに、家族団らんで、お義父さんは、なんだか嬉しそうだった。
お義父さんと、お義母さんは、リョウタが家を出ていき、お義兄さんが、結婚して、家を出ていき、いつも二人で食事していたのだろう。
帰って来なくなった息子二人を思い、心配は積み重なっただろう。
お義兄さんが、会社を継がないなら、リョウタが会社を継ぐべきなのだろう。
その時、私は、リョウタに、ついてこよう。私の両親のことも心配だが、場合によっては、私の兄にお願いするしかない。
一周間後、お義母さんは、退院が決まった。検査結果は、特に問題なかった。
インフルエンザの事務員も出勤してくるそうなので、私とリョウタは、帰ることにした。
「京子さん。徹が困ってる時にお金を貸してくれたみたいで、ありがとう。母さんに、徹が言ったそうだ。そのお金をすぐにでも私が返してあげたいが、徹にもプライドがあるだろう。自分で、会社を建て直して、返したいだろうから、もう少し待っててやってくれないか。徹が、どうにもこうにも行かなくなった時は、私が責任を持って、返します。」
お義父さんが、私に言った。
「はい。急がなくても大丈夫です」
「リョウタが、まともになって安心したと思ったら、今度は長男の徹のことで、頭痛いです。どっちも、バカ息子で、いつまでも、親は心配が絶えないよ。」
お義父さんは、笑った。
「おじいちゃん。バイバイー」
恭ちゃんは、車から、いつまでも、お義父さんに手を振っていた。
お義父さんは、ずっと、それを見送っていた。
あっ、ホームページ忘れてた。メッセージをチェックすると、50件以上のメッセージが入っていた。
「お店は、いつ再開するんですか。心配です」
「再開するのを、待ってます」
「早くパスタ食べたいです。」
お店を休んだので、お客様から、心配してくれるメッセージばかりだった。
その後。リョウタのお兄さんは、自分の会社をたたみ、お義父さんの会社を手伝うことにしたらしい。
私が貸した100万円も返してくれた。
私は、自分の親の「親は何歳になっても、子供のことを思ってるんだよ」と、しつこく言う言葉が恩きせがましくて、嫌いだった。
でも、リョウタの両親を見て思った。
離れた息子たちを、ずっと見守って、いたんだね。
どんな息子でも、見放さず、二人で心配し、二人で思い、これからも、バカ息子二人を思って行くのだろう。
そんなリョウタの両親を私は、大切にしようと、心に決めた。