口出す人。
私の料理本が、発売された。
それが、なかなか売れているらしい。
1ページだけ、リョウタの横顔の笑顔の写真を載せたのだが、それがまた、かなりの好感度があったらしく、なぜかイケメンを捕まえられる料理の本という噂がたち、そんな訳で売れてるわけである。
増刷が決まったくらいである。
リョウタが、休みの日に近所の本屋に言った。
「あっ。これこれ、京子の料理本。売れてるらしいよ」
「えっ。先輩、パスタ屋のシェフと知り合いなんですか。」
サラリーマン二人組が、私の料理本を見て話していた。
「中学の同級生だよ。中学ん時、京子、かなりモテてさ。まあマドンナみたいな存在だったんだよ」
40代にみえるサラリーマンの方が言った。
「同級生かあ。いいですね。オレの友達の間でも、こういう奥さんだったら、良かったよなと言ってますよ。美人で料理できて、仕事も出来て旦那さんを支えて、理想の奥さんですよ」
後輩のサラリーマンが言った。
「確かに。京子、あの旦那さんに尽くしてそうだもんな。いくら年下のイケメンの旦那とはいえ、オレらの手の届かないマドンナと結婚できるんだもんな。羨ましい。京子が奥さんだったら、毎日早く帰るよ」
リョウタは、そのサラリーマンの話を全部聞いていた。
私が部屋にいると、慶子から電話がかかってきた。
「今、リョウタくんから私に電話あったわよ」
「リョウタが?なんで?」
「京子の料理本の増刷をやめてほしいって。これ以上、京子が理想の奥さんになって、他の男に奥さんにしたいと思われたら嫌だからだって」
ええっー。リョウタ、そんなこと言ったのー。は、恥ずかしい。
リョウタが本屋から帰ってきた。
「リョウタっ。慶子に、電話したでしょう。なんで、あんなこと言うのよっ。恥ずかしいわよっ」
私は、リョウタを怒った。
「別に恥ずかしくないだろ。これ以上、他の男に京子の料理本見てほしくない。」
リョウタは、全く悪びれない。
「恥ずかしいでしょうっ。私、41歳よ。世間じゃオバサンなのよ。それを他の男に、奥さんにしたいと思われたくないって。私みたいなオバサンを奥さんにしたいと思うはずないでしょう。若くて可愛くて、料理できる女性が、いくらでもいるでしょうー。もう慶子に、私の仕事のことで、直接言うのやめてよね。旦那が口出しするのも恥ずかしいよー」
私は、リョウタを責めた。
「だってよ。さっき、本屋で京子の同級生というサラリーマンが、本屋で喋ってたんだよ。理想の奥さんだとか。マドンナと結婚できて羨ましい。京子が奥さんだったら、毎日早く帰るって。理想の奥さんなんだってよ。オレの奥さんなのに、そんなの面白くねーよ」
同級生って、いったい誰よ。こんな田舎で、ペラペラ喋るなって言うのよ。誰、聞いてるか分からないよね。
「あの料理本の料理。オレに作ってる料理だよな。それを他の男が食うの耐えられない。他の男に料理なんか作るなよっ」
それを言われても、私は、シェフだからお客様に料理を作る仕事である。
でも、慶子は増刷はするとリョウタに言ったそうだ。
慶子は心配されて、いんじゃないのと笑っていたが、恥ずかしいつーの。旦那が、そんな理由で仕事に口出すなんて恥ずかしい。
「いらっしゃいませ」
ランチタイムが、落ちついた頃にスーツ姿の40代のサラリーマンか入ってきた。
「笹原京子さんに、お会いしたいのですが」
そのサラリーマンに言った。
「お名前、お伺いしてよろしいでしょうか」
リョウタが名前を聞くと、サラリーマンは、リョウタに名刺を渡した。
「私、レコード会社tracks Japanの江口と申します」
tracks Japanと言えば、かなり大手のメジャーレーベルのレコード会社だとリョウタは思った。
私はリョウタに言われて、そのサラリーマンに会うためにホールに出ていった。
「先生、お久し振りです」
そのサラリーマンは、私を見て言った。




