二股。
金曜日のディナータイム。
「いらっしゃいませ。あっ、久しぶり」
リョウタが、カップルのお客様を見ていった。
「店長、久しぶりです。今日、実家に来たんで、久しぶりに彼と来てみました」
そのカップルは、うちの店がオープンした時から、来てた高校生カップルだった。彼は、地元に就職したみたいだが、彼女の方は、都会の大学に行ってるみたいだ。まだ付き合ってたみたいで、安心した。
8時も過ぎ、オーダーストップもし、店内は、常連の花江親子と、真吾くん、紀香ちゃん夫婦と、そのカップルだけになった。
「相変わらず、パスタ美味しいー。来てよかった」
カップルの彼女が、言った。彼女は、桜子ちゃんという名前だ。
「桜子、話がある」
パスタを食べて、ご機嫌の彼女に、彼は言った。
「別れてくれないか」
えっ。今、別れ話をここでいうか?!
私とリョウタと、花江親子と、真吾くん夫婦と、アルバイトの安奈ちゃんは、手が止まった。
「真梨子が、妊娠した。だから、真梨子と結婚する」
彼が、気まづそうに言った。
「真梨子って。私の親友の真梨子?」
「うん。」
どうやら、彼は、桜子ちゃんの親友と、二股かけてたようだ。親友の方は、彼と同じく地元に就職したみたいだ。
「いつから、二股かけたの?」
桜子ちゃんは、信じられないという顔で聞いた。
「一年前から、桜子が、学校で忙しいとかで会えなくなったから、真梨子に話を聞いてもらってたりしたら、付き合ってた」
「今まで、二人で、知らないふりして、私と付き合ってたの?」
「なかなか言いづらくて。真梨子も、言わなくていいといってたし」
「ひどいっー。二人とも最低っー。二人して、私をバカにしてたのね」
桜子ちゃんは、堪えきれず、発狂した。
「でも、そういうことだから。じゃな」
彼は、そう言って席を立った。
桜子ちゃんは、泣き出した。
「ちょっとお。待ちなさいよっ。アンタ二股かけて、騙したんだから、彼女に慰謝料払いなさいよっ」
花江が、彼に怒鳴った。
「はあ?別に婚約してたわけでもないのに、なんで慰謝料払うんだよ?うっぜーんだよ、おばさん」
彼の方は開き直ったようで、花江に吐き捨てるように言った。
「年上に向かって、その口の聞き方はなによっ。どういう躾されて育ったのよ。このブサイクがっー。」
出ていく彼に、花江は罵声あびせた。
人の彼氏にブサイクって、いちおう、桜子ちゃんは、4年も付き合ったのだから、それはないような。
「うっ。うえーん」
残された桜子ちゃんは、泣き続けた。
「あんな男、別れて正解よ。親友に手をだすなんて、最低な奴ね」
花江は、泣いてる桜子ちゃんところに行った。
厳しいことを言うようだが、その桜子ちゃんが親友と思っていた友達は、桜子ちゃんを親友と思っていなかったのだろう。桜子ちゃんと都合よく付き合っていたのに違いない。だから、簡単に人の男に手を出せるのだろう。
「京子っ。もうオーダーストップしたんだから、こっち来なさいよ」
花江が、私にホールに来るように言った。
「安奈ちゃん。デザートの準備お願いね」
私はアルバイトの安奈ちゃんに、言った。
「私、彼も親友も、いっぺんに失いましたー。初めての彼だったのにー。4年も付き合ったのにー。ひどいー」
桜子ちゃんは、泣き続けている。
「店長を見なさい。こんなイケメンの男がいるのよ。桜子ちゃんが付き合ってた彼なんて、たいしたことなかったわよ。レベルアップするのよ。あんな男のために、落ち込んでる時間もったいないわよ。イケメンは、探せばいるのよ」
花江の得意のイケメン持論を語り始めた。
「店長ー。イケメンの友達を紹介してください」
桜子ちゃんは、泣きながら、リョウタに言った。
「オレの知り合いみんな、結婚してて。バンドのメンバーなら、二人独身いるけど」
「Avid crownの誰ですかー」
桜子ちゃんは、Avid crownを知っていて、都会のライブにも行ってたらしい。
「ベースのカンちゃん。ドラムは彼女いるから」
リョウタは、カンちゃんを薦めた。
「えっ。ベースの人ですか?イケメンじゃないですよー」
どさくさに紛れて、桜子ちゃんは、カンちゃんに失礼だった。
「でも、優しいよ。浮気なんて、絶体しないと思う」
リョウタは、カンちゃんをフォローした。
「考えときます」
桜子ちゃんは、カンちゃんでは、満足しないようだった。
「そういうクソ女いるのよ。私の同級生にもいた。人の彼氏や旦那を寝とる女。人のものばかり欲しがるのよ。そんな女とは、縁きったほうがいいですよ。その彼とクソ女は、どーせ長続きしないと思います。」
紀香ちゃんが、言い出した。
「田舎ってさ。狭いとこで浮気するからな。身近な女で、すまそうとするんだよ。どーせ、いずれ足がつくのにな」
今度は真吾くんが言い出した。
確かに、田舎は、職場で、W不倫とか多かったりする。友達の彼氏と付き合ったりは、ありえないことでもない。
「さっ。みんな、安奈ちゃんが、チーズケーキ作ってくれたから、みんなで食べましょう。安奈ちゃん、アルバイト明日で、終わりなの」
私は、皆さんに言った。
「私も彼に二股かけられて、クリスマスイブにフラれたんです。でも、この店にきて、美味しいケーキ食べたら、悲しみが和らぎました」
アルバイトの安奈ちゃんは、そう言って、桜子ちゃんに、チーズケーキを渡した。
「ありがとう」
「安奈ちゃん。美味しいー。これじゃ、すぐにでも、パティシエになれるわよ」
花江は、チーズケーキを、食べて絶賛した。
「美味しいー」
桜子ちゃんも、チーズケーキを食べて笑顔になった。
土曜日。
アルバイトの安奈ちゃんがアルバイト最後の日だった。
「安奈ちゃん。お疲れさまでした。一生懸命働いてもらって、助かりました。これ少ないけど、アルバイト代です」
私は、安奈ちゃんに、アルバイト代を渡した。
「でも。私は、勉強のために、働かせて頂いたので、アルバイト代は、頂けません」
安奈ちゃんは、躊躇した。
「安奈ちゃんに手伝ってもらって、助かったから、私と店長からの気持ちなので、受け取ってください」
「ありがとうございます。私、修行して、いつか、この町にケーキ屋を開きたいです」
「うん。楽しみに待ってる」
そうして、安奈ちゃんは、都会へ行った。
何かを始めるのに、年は関係あるのだろうか。
勉強するのに、年は関係あるのだろうか。
もう、遅いと、何もしなかったら、何もできない。
でも、動き出すのに、やはり、きっかけは必要かもしれない。
日曜日に、リョウタのお父さんから電話があった。
「リョウタ、お母さんが倒れた」