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断念。

休みの日に、ショッピングセンターで松子さんに会った。

カンジくんの奥さんである。


「松子さん、お腹目立ってきたね」

私は、妊娠してる松子さんのお腹を見て言った。

「もう動くんです」

松子さんは、嬉しそうに言ったかと思うと、私に気まづそうに、話を切り出した。


「あのー京子さん、お願いがあるんです。」

「なに?」


松子さんは、本当に言いづらそうだった。


「RSKは、東京でライブやるのを止めてほしいんです」


えっ。RSKは、東京でライブをやってほしくないってこと?


「地元や、県内でやるのはいんですけど、東京でまでライブやるのは止めてほしいです。・・東京で、ライブやったら、カンジ、東京に戻りたくなっちゃうかもしれない。子供出来たのに、カンジが、またバンドやるために東京に戻ると言われたら、嫌です。だから、RSKには、東京でライブさせないで下さい。お願いです」

松子さんは、そう言って私に頭を下げた。



松子さんは、妊娠してるので不安にもなるだろう。

カンジくんが、東京に戻ってしまうという不安を持っても仕方ない。Avid crownは東京でライブは、絶対にさせてあげたいが、駿くんと、カンジくんだって、東京でライブしたいのではないだろうか。



次の日。朝に、野菜を配達に来た駿くんに言った。

「今回は、RSKの東京でのライブは、見送ることにした」


「えっ。なんでですか?」

駿くんは、一瞬、間をおいて、言った。

「カンジくんの奥さんの松子さんから、東京でのライブは止めてほしいって、申し出があったの」

私は、松子さんと会って言われたことを、駿くんに説明した。


「オレ、RSKで、東京でライブやりたかった。カンジだって、そう思ってると思います」

駿くんは、少しガッカリしたように言った。


「でも、松子さんは妊娠して不安定になってるかもしれないから、不安にさせるのは体によくないわ。今回は松子さんの体を第一に優先にしましょう。私も同じ女だから、不安になる気持ち分かるし、駿くんだって、彩ちゃんが妊娠してるのだから、分からないわけでもないでしょう」

私は、駿くんに言った。


「彩は、妊娠してなかったら、東京までライブ見に行きたいって言ってました。そんなのカンジ、可哀想だ。カンジは、知らないこの町にきて、婿になって大工の見習いして頑張ってるんですよ。それなのに、1日くらい東京行ってライブしたっていいじゃないですか。好きなことして、ダメなんて。その方がカンジが、この町から出ていきたくなると思います。」


いつもは口数の少ないクールな駿くんが、自分の思いを言った。

「わかってる。でも家族が許可しないのに、東京でのライブを強行すること出来ないわ。」

私は、駿くんに言った。


「わかりました。」

そう言って、駿くんは、帰って行った。




「オレ、婿だけど恵まれてるな。好きなことやらされてもらって。ギターの練習出来るように、お義父さんに防音室まで作ってもらったし。妻の京子は、オレのバンドのマネージメントするくらいだし、理解ある家に婿に来たんだね」

リョウタが夜に言った。


「松子さん、カンジくんのこと好きだから、離れたくないんでしょう。好きなら不安にもなるよ。そういう愛情表現もあるんじゃないの」


でも、カンジくんに好きなことさせないのは、ちょっと違うなと思った。それは少し田舎のしきたりに添ってる気がした。




水曜日。料理教室の日。

「駿、RSKで、東京でのライブ出来なくなって、すごいガッカリしてました。可哀想で見てらんないです」

彩ちゃんが言った。


「ごめんね。やはりカンジくんの奥さんが、許可しないのに無理には出来ないわ。カンジくんの奥さんも妊娠してるし、不安にさせて胎教によくないし。」

私は、彩ちゃんに諭すように言った。


「そんなの、カンジくんの奥さんの勝手ですよ。妊娠してることを言えば自分の思い通りになると思ってるんですよ。ワガママです。自分の気持ちばかりじゃないですか。カンジくんの気持ちを、ちっとも考えてない。そんなの愛じゃない。例え、カンジくんが、東京でライブやって、また東京に戻りたくなったら、結婚してるんだもの着いて行ったら、いいじゃないですか。私は、駿がまた東京で、バンドやりたいと言ったら着いていきます。カンジくんの奥さんは保守的なんですよ。娘だから、守られてるんですよ。いざとなったら、自分の親を味方につけて、カンジくんに好き勝手させない気ですよ。やっぱり、娘は甘い。甘い。甘いんですよ」

いつも、大人しい彩ちゃんが怒り口調で語った。


「それは、あるよね。嫁は、どんなに親しくなっても、他人ですよね。何かイザコザあった時に、味方いないもんね。そのカンジさんの奥さん、親に、ちやほやされて、気ままの苦労知らずだから、カンジくんを縛るようなことしてるのよ。それに比べて、やっぱり京子先生は、すごいですよね。リョウタさんのために、事務所を作っちゃうんですもん。旦那さんのためのバックアップが、半端じゃないですよ。私は、したくても頭ないから応援するくらいだけど。真吾だって、東京で営業してたから、農家で満足する男じゃないから、RSKのマネジャーを張り切ってやってる。それなのにカンジさんの奥さんって、なんなのっ。カンジさんだけじゃなくて、みんなの夢を壊してるんじゃないのっ。むかつくー」

今度は、紀香ちゃんが、怒って言った。



彩ちゃんと、紀香ちゃんは松子さんより若い。

でも、好きな人のために田舎のでかい農家に嫁ぐくらいだから、ちょっとや、そっとの愛で着いてきたのじゃないだろう。

若いのに、しっかりした考えを持っている。


なんとか、してあげたい。

実は、私はルキアくんと、相談して、駿くんと、カンジくんが喜ぶ、とっておきのライブハウスを用意してたのである。




「松子、湯川さんちのお嫁さんが、松子に話があるって来てる。妊婦さんみたいだから、客間に通したわよ」

松子さんに、松子さんのお母さんが言った。


どうやら、彩ちゃんが松子さんに会いに行ったようだ。





私は、店休の日曜日に、店にRSKのメンバーと、マネジャーの真吾くんに集まってもらった。


「RSKも、東京でライブやります。カンジくんの奥さんの松子さんが、楽しんでライブをやってきて下さい。と言ってくれました」


私は、みんなに発表した。

彩ちゃんが、同じ妊婦として松子さんを説得してくれたみたいだ。


「やったー。東京でライブやれるー」

「カンジ、奥さんの許可とれて、良かったな」

みんなライブが決まって喜んでいた。



「ライブハウスは、GDサクションに、決まりましたー」

私はライブハウスも発表した。


「えっ、それって。visionTXが、初めてやったライブハウスじゃないですか」

駿くんが、気づいて言った。


「そうよ。ルキアくんとも話して、駿くんと、カンジくんと一緒に、初めてやったライブハウスでやって、あの時の気持ちを思い出して、ライブやりたいということで、決めたの」



「なんか、京子さんって、ただ者じゃないですね」

カンジくんが、嬉しそうに言った。




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