自分にないもの。
「京子っ。いつまで、喋ってるんだよ。もう30分も喋ってるんだぞ。いい加減にしろっー」
リョウタが、電話口に、わざと聞こえるように言った。
『リョウタさん、また嫉妬してるみたいですね。じゃあ、またね。社長さんー』
そう言って、ルキアくんは電話を切った。
「ライブの話してたのよ。つまり仕事の話なの。なんで、あんな風に聞こえるようにいうのよ。感じ悪いよ」
私は、リョウタに言った。
「ふんっ。若くて、イケメンのルキアくんと喋って、嬉しいくせに」
もうー。東京のライブでの打ち合わせしてたのに。ルキアくんは、東京にいて、会って打ち合わせ出来ないんだから、電話で、するしかないのに。
「不倫したら、許さないからなっ」
なんで、そういう方向に持っていくかな。
「許さないって、もし私が不倫したら、別れるの?」
「わ、別れないけど」
リョウタは、最近、ルキアくんに嫉妬して、いちいち面倒くさい。
「私が、リョウタと恭ちゃんを裏切って、不倫する女に見えるの?だったら、ひどい。」
「見えないけどっ。京子は、そんなことする女じゃないって分かってるけど。ルキアくん、若くてイケメンだし、オレだって心配になるだろっ」
「ルキアくんより、恭ちゃんのほうが若くて、イケメンだよ。」
そう言って、私は眠っていた恭ちゃんを抱き締めた。
「まあ。確かに、恭のほうが、若いけど」
休憩時間に、リョウタがコンビニ行ったとき、まかないを食べながら、花江が言った。
「それは嫉妬しても仕方ないじゃない。相手はルキアくんだもの。しかも、京子、ルキアくんに告白されたんでしょう。それじゃリョウタくん、気が気じゃないわよ」
でも、ルキアくんと電話すると、いちいち、ネチネチ、グチグチ言うから、たまったもんじゃない。これじゃあ、ライブの話が進まない。
「京子だって、リョウタくんが若い女と仲良くしてたら、嫌でしょう。」
「うーん。最近は仕方ないかなって思う。私、41歳だし、顔だって、スタイルだって、確実に老けてきてるんだから。リョウタが、若い女の人、仲良くするくらいは仕方ないかなって。あんまり縛ったら、かえって浮気されそう」
「そういうの。リョウタくん、かえって気にするんじゃないの。京子は自分に関心ないんだって思ったら、どうするのよ」
花江は、私と違って感情が豊かだから、わかりやすいが、私は仕方ないって、引いてしまうとこあるから伝わりにくい。
「人って、自分にないものを持ってる人に、嫉妬してしまうよ」
花江は、まかないを、たらいあげて言った。
ルキアくんにあって、リョウタにないもの。若さ?
でも私から見れば、リョウタもルキアくんも、年下だし、どっちも若い。
リョウタも、若い人に嫉妬するようになったのかー。リョウタも、年をとったんだね。
「京子、靴下脱がして」
「京子、耳掃除して」
「京子、着替え」
リョウタは、嫉妬してると、あれやって、これやってと要求が強くなる。
恭ちゃんより、手が掛かる。
「パパー。絵本読んでー」
リョウタが、恭ちゃんに絵本を読んでるうちに、下で洗濯物たたもう。
「パパ、どうして、柴犬のタロウくんは、お母さんを探しに行ったの」
絵本の内容は、柴犬のタロウくんは、他の家で飼われるために、お母さん犬と離ればなれになった。しかしタロウくんは、お母さん犬に会いたくて旅に出たのである。
「お母さんに会いたいから。お母さんのそばに居たいからだよ」
リョウタは、恭ちゃんに言った。
「恭だって、ママと離れたら嫌だろう?」
「嫌だー。ボクはママのそばに、ずっといるー」
洗濯物を畳んで、二階に行くと、リョウタは、ベットで、読み聞かせをしてるうちに寝てしまったらしい。
恭ちゃんは、絵本を見てた。
「ママー。愛してる」
恭ちゃんが、私に言った。愛してるって言い方、誰に教えてもらったんだろう。
「パパが、ボクに言ってた」




