夢は諦めても
休みに、東京に行った。
リョウタ達が、ライブをやるライブハウスを探しに行った。
沢木さんに知り合いのライブハウスを何件か紹介してもらった。
ルキアくんの希望も聞いた。
東京の街を久しぶりに歩き回ったら、さすがに疲れた。
リョウタが25歳のとき、東京で、ライブやりたがってた。
対バンしたバンドが、どんどん上京していき、ライブをやっていた。自分も上京してみたくなるのは当たり前だろう。夢を持ち、挑戦したくなるのは、悪いことじゃない。
でも私は、それを止めた。メジャーになれるわけないと、無謀だと決めつけて止めた。
どうして、あの時、止めたのだろう。
今思えば勝手な私の気持ちだった。
だから、どうしてもリョウタに東京で、ライブをやってもらいたい。
明日は、店があるので最終の新幹線で帰った。
休み明けの店のランチタイムは、かなり混んだ。
キッチンで、私は、てんてこ舞いだった。
ランチタイムが終わり、休憩に入ると、恭ちゃんが、幼稚園から帰ってきてるから、昨日一緒にいてやれなかったから、休憩時間に、ちょっとでも恭ちゃんと一緒にいようと、思って家に帰ろうとした時、リョウタが叫んだ。
「京子っー」
私は倒れていた。
目が覚めると、リョウタが私の手を握って、うなだれていた。
いつかと、同じ光景だ。
リョウタが私が目が覚めたのに気づくと言った。
「オレ、東京でライブやらなくていい。バンドだって辞めたっていい」
また、リョウタに責任を感じさせてしまった。私が、ちゃんと体調管理しなかったのが悪いのに。
「京子ばかりに、無茶させて。オレは何もしてないのに」
結局、私のやってることはリョウタを責めてしまってる。
私は、リョウタのためにと思ってと、やったことが、こういうことになる。私、バカだ。つい夢中になって、リョウタの気持ちを考えなかった。
「面会時間終わりですよ。家族のかたは、お帰りください」
婦長さんらしき看護士さんが病室に来た。
「お願いです。妻のそばにいたいんです。妻が、こんな病室に一人じゃ可哀想なんで、オレ付き添っちゃダメですか」
リョウタは、婦長さんに、詰め寄った。
「付き添うって、ただの貧血で明日は、退院出来るんですよ」
完全看護の総合病院は、明日退院の貧血の患者に付き添うなんて、ありえない。
「お願いですっ。看護士さんっ。妻のそばにいたいんです」
リョウタは、40代くらいの婦長さんに、壁ドンをした。
「し、仕方ないですね。特別ですよ」
婦長さんは、イケメンのリョウタに、壁ドンをされて、折れたようだった。
リョウタは、眠る私の手をずっと握っていた。
店は、今週いっぱい休むことにした。
私は、年齢も考えず、自分の無茶で周りに迷惑をかけてしまった。
これでは悪循環だ。どうしたら、いいだろう。
でも、リョウタに、東京でライブさせてやりたい。
退院して家に心配して、花江や真吾くん、駿くん、カンジくんが来た。
「京子、年考えなさいよ。あんま無理しないでよ。心配するんじゃないの。京子が倒れたら、リョウタくんだって、恭ちゃんだって、みんなが心配するのよ」
花江が言った。
「うん。私。突っ走しちゃって年齢を忘れてた」
「京子さん。東京でのライブは、もう少し落ちついてからでも、いんじゃないですか」
真吾くんが、心配して言った。
でも、Avid crownに、東京で、ライブやらせてあげたい。
「京子、私、お店、手伝うわ。皿洗いだって、なんだって、手伝う。そうすれば、京子の負担少しは、減るでしょう。バイト代なんか、いらないから。これはお客さんのためでも町のみんなのためでもあるのよ。」
花江が、言った。
「私に任せなさい。」
やっぱり、頼りになる花江だった。




