レベル。
「まあ。ケンちゃん、久しぶりー」
下で、母親が、驚いてか、声が響いた。
「京子、ケンちゃんよー」
私が二階から、下に降りていくと、幼馴染みのケンちゃんが来ていた。
「京子ちゃん。すごい若い。美人のままだね」
近所の家の野々村健介。私の3歳上だ。小さい頃、ケンちゃんと、私の兄と、よく遊んだ。ケンちゃんは、東京の大学をしたあと、一流企業に就職し、しばらく外国勤務だった。最近、日本の本社に移動になり、部長になったらしい。
「お世辞は、いいわよ」
私は、ケンちゃんに言った。
ケンちゃんは、背が高く、44歳のわりには、スタイルがよく、落ち着いた感じの男性になっていた。
「えっ。誰?おばさんに、こんな大きなお孫さん?」
ケンちゃんが、ついてきたリョウタを見て言った。
「ケンちゃん、違うわよ。息子よ」
お母さんは、笑いながら言った。
「息子?京子ちゃんに、弟いたっけ?」
ケンちゃんは、また驚いた。
「はあ?誰が、弟だよっ」
リョウタは、ムッとして言った。
「ケンちゃん、婿よ。娘婿のリョウタくん」
「えぇー。こんな若い旦那さん?!京子ちゃんが結婚して帰ってきたとは、聞いてたけど。年下かあ。びっくりだな」
「誰、こいつ?失礼な奴だな」
リョウタが、またまたムッとして言った。
「幼馴染みのケンちゃんだよ。小さい頃、よく遊んだ」
「そうそう、よく遊んだね。京子ちゃんとは、一緒にお風呂に入った仲なんだよ」
ケンちゃんは、わざとか、意味ありげにリョウタに言った。
「なんだよ。それ」
リョウタは、私に、どういうことだ?みたいな顔して聞いてきた。
「3歳のときの話だよー」
リョウタは、ふんって、顔をした。
「そんなことで、嫉妬するんだ?やっぱり若いから子供だねー。旦那さん」
ケンちゃんは、挑戦的にイヤミをリョウタに言った。
リョウタは、ムッとしてたが、オッサンを相手にしてられないって感じだった。
ケンちゃんは、休みをとれたので、一週間くらい実家にいるらしい。奥さんとお子さんは、来なかったらしい。
「なんなんだよ。あのオッサンっ。むかつくっ」
ケンちゃんが帰ったあと、リョウタは、怒っていた。
「一流企業の部長かなんかしんないけど、感じ悪い」
ケンちゃんとは、ケンちゃんが大学の時以来、会ってなかった。優しい近所のお兄さんっていうイメージしかない。
兄が店に来た時に、ケンちゃんが、帰ってきてると教えたら、
「へえー。久しぶりだな。すごい美人の奥さんと結婚したとは、聞いたけど。」
懐かしそうに兄は言った。
「でも、京子のこと、好きだったのかなーと、オレが高校ん時、思ってたな。そういう記憶」
兄よ。余計なことは、言わなくていい。
リョウタが休憩時間にコンビニに出掛けた時、偶然、ケンちゃんに会った。
「こんにちは。京子ちゃんの旦那さん」
ケンちゃんは、自分からリョウタに声をかけた。
「オレ、京子ちゃんのファーストキス奪ったんだよ」
ニヤリと笑って、ケンちゃんは、リョウタに言った。
「だ、だから、なんですか」
リョウタは、動揺しつつ、平静を装った。
「オレ、あの頃は、京子ちゃんと結婚すると思ってた。それが、こんな若い旦那さんとは。京子ちゃん、顔で選んだみたいだね。お店、京子ちゃんがオーナーなんでしょう。京子ちゃんは、頭いいから、こんな頼りない旦那さんで、バランスとれてるか」
皮肉たっぷりに、リョウタは言われた。
リョウタは、すっかり、イジケてしまった。
なんで、リョウタに、そんなこと言うのよ。ケンちゃん、嫌な感じ。
ファーストキスだって、私が高校生で、ケンちゃんが大学生の時、勝手に、ふいうちに、されただけ。
私は、ケンちゃんのことを、近所のお兄さんにしか見えなかったから、ファーストキスの相手という認識もない。
休みの日に、ショッピングモールで買い物をしてると、ケンちゃんに、偶然会った。
「京子ちゃん」
私は、ケンちゃんの顔をみて、怪訝そうにした。
「なんで、リョウタに、あんなこと言ったの?ファーストキスを奪ったとか、人の旦那さんにいうなんて、ありえない」
「えっ。昔のこと言っただけだろ。そんなことくらいで、怒ってんの?京子ちゃんの旦那さん、嫉妬深いんだ?面倒くさいねー。」
ケンちゃん、少しバカにしたように笑った。
「リョウタは、純粋なの」
嫉妬深いと、違う気がする。
「純粋って、一応、子供いて父親なんだろ?いつまでも、少年の心とか言わないでくれよ」
やはり、人って変わるんだ。一流企業の部長かなんか知らないけど、上から目線だ。
「ケンちゃん。底意地悪いね。そんなんじゃ、会社の若い部下に嫌われてるよ。イヤミなオッサン、むかつくって言われてるよ。それじゃあ、出世したって、嫌われもののオッサンになっただけだよ。部下からの信頼度は、0ってなわけ。わたし、性格の悪いオッサンは、嫌いだから、じゃねー」
私は、ケンちゃんに皮肉たっぷり言って、別れた。
でも、なんか、年をとるって、寂しい。
優しい心を持った兄のような人が、年をとり、どこにでもいる会社の嫌な上司みたいなオッサンになってて、気持ちが汚れていくんだね。
若い人を、ひがむって、みっともないな。
自分も、若いときが、あったのに。
「リョウタは?」
家に帰って、母親に聞いた。
「上に行ったのかしら?さっきまで、ここで、『京子が、帰ってこない』って、泣きそうだったのよ」
私は、二階に行った。
部屋に行くと、リョウタがいた。
「リョウタ。大好きだよ」
私は、そう言って、リョウタを後ろから抱きしめた。
リョウタは、安心したように嬉しそうに微笑った。
花江の娘さんの由衣ちゃんが「この町のイケメンは、レベルが高い」って言ってた意味が解った気がする。




