Just Iike you
やはり、松子さんは、妊娠をしていた。
「店長や駿さんには、言わないでください。カンジくんに迷惑かけたくないんです」
迷惑かけたくないって、カンジくんに言わないつもりなの?
未婚の母になるつもりなの?
「松子さんの両親は知ってるの?」
私は、おっせかいババアのように、松子さんに聞いた。
「両親には、言わないです。言ったら、結婚もしないなら、おろせって言われます。私、カンジくんの子供産みたい。絶対、産みます」
うわー。決意は固いようだ。シングルマザーになるつもりのようだ。田舎での未婚の母は、かなり世間的に厳しいだろう。
リョウタと、駿くんには、言わないで言われたけど、このままで、いいのだろうか。
「カンジくん、今、何処にいるんだろうね」
私は、リョウタに、さりげなく聞いた。
「なんか、北海道にいるらしいよ。だから、もうすぐ日本横断終わるらしいよ」
「でも、東京に帰るでしょう?」
「どうだろ。日本横断に行く前は、彼女いたらしいから。日本横断に行くときに別れたかどーかは、駿くんも知らないらしい」
ええぇー。カンジくん、東京に彼女いたの?!それは、ちょっと、カンジくん、酷いのではないだろうか。
はあー。私、このまま黙ってていいのだろうか。
いずれ、お腹も大きくなるし、隠しとおせるものでもない。
別れって、なんだろう。
私は、リョウタと、いつか別れがくることを覚悟して、付き合っていた。
別れるために、付き合ってるのはおかしい。そう思う人もいるだろう。
でも、相手の将来を思えば、そうするしかない。
自分の気持ちだけを押し付けても、いつかは、心が離れていくのではないだろうか。
私が感じたのは、別れがきても、リョウタと付き合ったことは、無駄じゃなかったなって。いつまでも、心の中に温かいものが残るって思った。
別れたときは、辛いけど、後悔しない想いだった。
松子さんは、カンジくんと、出会ったこと、別れたこと、嫌な想いになったのだろうか。
違うよね。
田植えが始まるので、忙しくなる5月始め。
昼は暖かいけど、夜は寒い。
「寒いー。花冷えだー。閉めて、早く帰ろ」
私は、リョウタに、言った。
「京子・・。見て」
看板を入れに行ったリョウタが言った。
ぎゃーー。
私は、悲鳴をあげた。
そこには、また熊のように、髭面の髪がボウボウのカンジくんがいた。
「東京?東京のアパートは家賃勿体ないんで、旅にでるときに、解約したんですよ。家具も電化製品も売り払って、旅の資金にしたんで、オレ、東京には家ないんですよ。東京の彼女?日本横断するって言ったら、『ふざけんなっ』て、フラれました」
カンジくんは、パスタを食べながら、言った。
で、ここに、来たわけだ。
「カンジくん、余計なお世話かもしれないけど、カンジくんが、この店にいること、松子さんに言ったから。来るかどうかはわからない。」
私は、カンジくんに言った。
やはり、妊娠のことは、カンジくんに言うべきだと思う。
「カンジくん・・」
松子さんが、店に来た。
「松子ちゃん」
松子さんと、カンジくんは、抱き合っていた。
「笹原さん。参ちゃったよー。」
松子さんのお父さんが、今度は、台所を直しに来て母親に言った。
「すごいイケメンの婿がきちゃってさ。孫も産まれるんだよ。いっぺんに、跡継ぎが、次の代まで、出来ちゃってよ。今の若い人は、順番考えないから、困るなー。」
一応嫌そうに言ってたが、松子さんのお父さんの顔は、とても嬉しそうだった。
カンジくんは、この町の人になった。
松子さんのお父さんの大工の仕事をすることになって、松子さんの両親と、松子さんの祖父母と、同居することになった。
「金のない婿でよ。オレは、いきなり婿と同居は、嫌だったんだけど、お金ないんじゃ仕方ないしなー。ほんとは、若い人と同居なんて、嫌なんだよ。」
松子さんのお父さんは、言葉と裏腹に、顔は、嬉しそうだった。
「困るなー。イケメンの婿なんてよ。産まれてくる孫も、可愛いに決まってるようなもんだしよー」




