キツツキ。
ランチタイムに、花江がヨガ教室の仲間と来ていたときに、花江の近所のお嫁さんの長野葉子さんがママ友と来た。
「花江さんー。こんにちは」
葉子さんは、ニコニコして、花江に挨拶をした。
「葉子さん、こんにちは。」
花江も、まけじと、笑顔で葉子さんに挨拶をした。
長野葉子さんは、38歳、小学生の息子さんがいるらしい。
うちの店に、たまに来るお客様なのだが、いつ見てもニコニコしている。怒ることが、あるのだろうかという感じだが、私とは、合わないタイプである。私は、ママ友でもないし、お客様としての付き合いしかないので、いつもニコニコでも、いいとは、思うが、疲れないのだろうかと思う時はある。
「葉子さんね。近所のお嫁さんなんだけど、誰にでも、ニコニコしてるのよ。葉子さんのお姑さん、かなり気難しい人なんだけど、同居で、よく務まってるお嫁さんで、近所の人は感心してる。でも、私は、いつもニコニコだから、こっちが、気を使って、話すことも、当たり障りのないことしか言えないわよ。なんか、私とタイプは、真逆だから、疲れちゃう」
あとで、花江が言った。
確かに、あれでは、ストレス溜まらないのかと、思ってしまう。
あと、ニコニコしてれば、世の中を渡れるという軽い考えみたいな人みたいで、私とは違うなと思った。
ああいう人に、愚痴や悪口言ったら、人格をやんわり否定されそうだ。
表向きは、良い人すぎて、面倒くさそう。
仕事終わって、リビングでリョウタと、くつろいでると、父親とお風呂から、恭ちゃんが来た。
「パパ、どいて」
私に、寄りかかっていたリョウタを押し退けて、私の胸に、もたれた。
「なんだよ」
リョウタは、ムッとした。
「ボクのママだもん」
「オレの女だ」
リョウタも、子供相手にムキになった。
「ボクのママだよっ」
恭ちゃんは、リョウタに挑戦的に言った。
「もう、やめてー。二人とも」
私は、一応、止めるふりをしたが、実際は、大好きな男二人が、私を取り合うのを見て、優越感に浸っていた。
最近、恭ちゃんは、リョウタをライバル視している。
「そんなんママべったりじゃ、幼稚園行けないだろーが」
リョウタは、恭ちゃんに、からかうように言った。
「ママと、行くもん」
「友達に笑われるぞっ。マザコン」
マザコンって、まだ3歳で、来週4歳なのに、もう母親離れしたら、私が寂しいよ。
最近、神社で、嫌な音がすると噂になり、怖がられている。
「時間は、決まってないんらしいんだけど、神社の裏の林で音がするらしいのよ」
情報通の花江が報告しに来た。
「キツツキじゃないんですか」
リョウタが、バカなことを言いだした。
「キツツキみたいな軽い音ではないらしい。怨霊をこめてような重い音らしいわよ」
噂は、どんどんオーバーになっていくようだ。
「あとさ、近所の長野さんのお姑さん。この間、お嫁さんの葉子さんを孫の教育のことで、すごい剣幕で怒ってたわよ。あんな姑じゃ耐えられない。葉子さん、よく耐えてるよね。すごいわ」
花江が、あのニコニコしてる葉子さんのことを言った。
休みの日に、花江と神社の前を通ったら、ドスドスっと、嫌な音がした。噂は、本当だったのだろうか。確かに、怨霊をこめたような音だった。
「京子、音の鳴るほうに、行ってみない?」
「花江、やめようよ。怖いよ」
「真相を確かめるためよ。行こうよ」
こうして、私と花江は、音の鳴る林のほうへ行った。
ドスっ。ドスっ。
私と花江は、その音の鳴るほうに行って、絶句した。
長野葉子さんが、ボクシングで、使うようなサンドバッグに、パンチをして、蹴りをいれていた。まるで、キックボクシングである。
「とりぁー。クソババアっー。」
「うるせーんだよお。クソババア」
「頭が古すぎるんだよお。クソババア」
「きえっー。クソババアっ」
葉子さん、叫びながら、サンドバッグに向かっていた。
それはそれは、プロのキックボクザーのような、パンチと蹴りだった。
葉子さんは、気が済んだのか、笑顔で立ち去って行った。
私と花江は、葉子さんが立ち去ったの確かめると、木に繋がれていたサンドバッグを、見た。
サンドバッグには、葉子さんのお姑さんの名前が書いてあった。
「ぎえっーー」
私と花江は、怖くなり、急いで、走って帰った。
「怖すぎる。」
あのニコニコ笑顔の葉子さんの裏の顔は、それはそれは、怖いものだった。
ギャップが、凄すぎて、怖い。
家に帰って、ソファに寝てたリョウタを起こした。
「神社に、行って、噂の音の真相を突き止めたの」
リョウタに、葉子さんが、サンドバッグを叩いてたことを言った。
「あー。田舎にボクシングジムないからな」
リョウタは、言った。
そういう問題か?
あとで、花江に聞いたが、葉子さんは、実は、隠れ格闘技好きらしい。
そりゃ。ニコニコして良い嫁ぶってたら、ストレス溜まるわね。




