クライアント
ミドリは、愛車のBMNを売ったそうだ。
家も売りに出し、中古のマンションに引っ越したらしい。
それも、会社のため、家族がバラバラにならないため。
だからミドリは、自分の大好きだったキャネルも全て売ったそうだ。
中小企業の下請けの建設会社というものは、取引先の大手の建設会社が傾けば、もちろん下請け会社も危なくなるものだ。
ならば別の取引先から仕事を取るしかない。
ミドリは、色んな建設会社に頭を下げ仕事を貰えるように走りまわってるらしい。
「よっ。京子、元気か?」
東京に行った時に、レコード会社tracks Japanで元カレのマサトとあった。
マサトは、さすがに少しは老けたが変わらない。
「オレさ、離婚するかも」
マサトは唐突に言った。
「あー。浮気でもしたんだ?」
マサトは、確か5歳下のモデルと結婚したはずだ。
「まあ。それも、あるけど。子供のことでさ。カミさん、教育ママになってよ。オレは子供が行きたい高校、大学に行かせたいんだけど。カミさんは、一流大学、一流企業、バンドなんかさせないわよっと、すごい剣幕でさ。意見が合わないわけ」
はー。マサトも、子供の大学を考える歳になったのか。
老けるはずだ。
「京子先生、相談に乗って下さいよ」
マサトは、ちょっと冗談ぽっく言った。
「丁重にお断りします。」
私はリョウタが騒ぐから、面倒くさいことを言うマサトにイラついた。
「先生、社長来ましたよ」
江口さんが私を呼んだ。
tracks Japanの社長、冴馬孝太郎。50歳。
私が作ったピアノ曲をプロデュースした人。
まだ小さいレコード会社だった。
「京子ちゃん、久しぶり。大学生の時と変わらないね」
余りにも無理があるお世辞に、苦笑しながら私は社長に挨拶をした。
「今度、我が社のコンサートホールを作ろうと思ってる」
今度はコンサート会場か、かなり手を広げるみたいだ。
「うちの所属のアーティストが、自由にライブが出来るホールが欲しいと思ってね。」
「規模はどれくらいですか?」
私は社長に聞いた。
ライブハウス規模か、アリーナ規模が、それが問題だ。
「アリーナも考えたけど建築費もかかるだろうし、制限も出てくるし、構築時間もかかるから、やはりZeppt規模くらいのスタンディングホールかね。」
どうやら、ほとんど決まってる話らしい。
「設計士には頼んでるから、出来上がったら、すぐ工事にに入りたい。建設会社は友人の東高橋建設だけなんだけど」
東高橋建設と言えば、かなりの大手の建設会社だ。
「大手の建設会社ではコンサートホールくらいなら、下請け業者に頼むだろうけど、水増し請求したり、施工が雑だったり、ことごとく下請け業者に裏切られてるらしく、良い下請け業者を自分で探してくれるなら、優先に工事に入ってやると友人に言われてね。京子ちゃん、どっか知らない?」
2週間後、ミドリから連絡があった。
「大手の東高橋建設から、仕事を頼まれてね。うちの旦那の会社は作業も丁寧で評判いいと聞いたからって言うのよ。やはり旦那の腕は確かよ。見てくれる人は見てくれてるのね」
ミドリは、泣きながら私に言った。
「ミドリが一生懸命、旦那さんを助けたおかげよ」
私はミドリに、そう言った。




