出入り禁止。
「京子さん、吉木さんの旦那さん、娘さんの迎えに来られないらしいですよ」
幼稚園に恭ちゃんの迎えに行くと道郎くんのママが言った。
「なんでも幼稚園に出入り禁止みたいです。」
「えっ。どうして?」
父兄を出入り禁止にするなんて、なんか、やらかしたのだろうか。
「タトゥーですよ。吉木さんの旦那さん、35歳なんですけど、若い頃タトゥーいれたらしく、それを園長にチクった父兄がいたらしく、出入り禁止。」
タトゥーと言っても、ワンポイントくらいなら、このご時世珍しくもない。
「私も若いとき、パンク好きだったから、なんとも思わないですけど、やはり、そういうの毛嫌いする頭の固い父兄いますからね。町のサッカー大会の時、吉木さんの旦那さんが出て着替えてたところ、背中にタトゥーあるのを見られたらしいです。で、チクったというわけです」
見えなきゃいいようなものだが、子供の送迎が出来なくなるなんて、吉木さんの旦那さん辛いだろうな。
家に帰って、リョウタにそのことを話した。
「あー。オレ、あん時タトゥーいれなくて良かった。京子に止めらたからな」
リョウタの場合は、私の名前を掘ろうとしたから止めた。別れるかもしれないのに、彼女の名前を入れるのは無謀だから止めたのである。
「幼稚園の出入り禁止なんて、息子の運動会も、お遊戯会も行けなくなるよ。そんなのせつないー」
リョウタはソファに寝転がって、ポテチを食べながら言った。
こいつ、他人事だな。
バンドなんて不良のすることだと頭の古い父兄がいるかもしれないから、リョウタも出入り禁止ならない可能性なんてない。
それから1週間後、駿くんからメールが来た。
『京子さん、相談があります。夜、店が終わる頃、行っていいですか。リョウタさんにも聞いてほしいし』
なんだろ。深刻そうだ。まさかバンド脱退するとか言わないといいけど。
店を閉店してから、駿くんの話を聞いた。
「オレ、タトゥー消そうと思ってます。町の噂になってて、タトゥーがある父親が幼稚園の出入り禁止になってるって。だからオレ、息子のためにタトゥーを消そうかなと考えました」
やはりタトゥーがある吉木さんの幼稚園出入り禁止は、話題になっていたらしい。
「駿くん、消すって簡単なことじゃないのよ。田舎じゃ無理だし。都会に行かなきゃならないし」
私は駿くんに言った。
「わかってます。でも、オレ、息子の幼稚園に迎えに行きたいし。だから・・」
駿くんは、悩んで悩んだのだろう。
外国じゃバンドマンに限らずサッカー選手もバスケ選手もタトゥーが当たり前になっている。しかし日本は、まだまだタトゥーに対して厳しい。
「彩ちゃんは、なんて言ってるの?」
「彩は別に何も消すことないと言ってます。息子が幼稚園に入るまで、そういう厳しさがなくなるかもよって言ってます」
吉木さんの旦那さんの場合は、園長にチクった人の言い方だろう。チクった人も自分も子供の送迎に来れなくなったら、どんな気持ちなるか考えてない。
「オレ、なんでタトゥーいれたんだろ。そん時は後のこと考えられなくて。まさか自分が親になって子供できるなんて、思ってなかった。でも息子は、可愛いし、だから迎えに行きたい」
メジャーのバンドの人は、学校の行事に参加してると聞くが、それはインターナショナルスクールとかに行ってるんだろうか。
「幼稚園に迎えに行くときは、服で隠せばいいじゃん。駿くんの場合、腕だけだし」
リョウタが、また何も考えてないようなバカなことを言った。
チクる人がいるから出入り禁止になると言ってんのに。
呑気な奴だ。
「それに駿くんがRSKやってるって、町の人は分かるんだし、今更言わないんじゃないの?そんなこと、言うやつ出て来たら、バンド否定してるし、活動止めるようなもんだし。そのチクる人の子供がRSKのファンになったら、どうすんの?子供が好きなバンドまで否定するのかよ」
リョウタの無茶苦茶な持論を聞いていた。
でもリョウタの言うことも一理ある。
駿くんがタトゥーあるのは、町の人は知っている。
バンドをやっているのを知っている。
そして専業農家の跡継ぎとして、一生懸命、農家を手伝ってるのも知っているだろう。
「駿くん。京子が出入り禁止にならないように、どうにかしてくれるよ。オレらの頼りになる社長なんだからさ」
リョウタが、駿くんに笑って言った。
はー。これだもんな。




