35歳という狭間。
「なんで、シンが京子さんの事務所に入るんだよ。だったらオレだって京子さんの事務所が良かった」
ルキアくんが誰からかシンくんが私の事務所に入ることを聞いたらしく、電話がきた。
ルキアくんは、メジャーデビューしたわけだし大手の事務所がいいはずに決まっている。
ルキアくんの所属事務所は、tracks Japanの子会社の事務所である。
私の個人事務所に入っても意味がないだろう。
「マネジャーが変わったんだ。前のマネジャーは、20代の男性マネジャーでアイドル好きだから、俺たちのバンドの担当になって不満そうだったけど、今度の新しいマネジャーはベテランで35歳の女性で、バリバリ仕事出来るかんじ。」
ルキアくんのバンドのマネジャーは女性になったらしい。しかも35歳。
前田杏香。35歳。国立大出身。大学卒業後、広告代理店に就職し5年働いた後に、今の事務所に転職したらしい。
ルキアくんのバンドの前は、人気のある女性アーティストの担当だったらしい。
「どうして、あの新人アイドルを使う必要があるんですか。Terezishonの新曲のMVのイメージじゃないです。あの新曲MVに女性を入れる必要ないです。TerezishonのMVは彼らのだけで充分いけます。アイドルは出演させる必要ない。彼らのファンにも不満でます。アイドルは邪魔ですっー」
音楽監督に反論してる前田杏香の声が、スタジオに響き渡った。
「大手の事務所の新人アイドルの子で、今度、tracks Japanからデビューするから、その関係で使うしかないんだよ。まあ同じレコード会社だからプローモション兼ねてだから、しかたないよ。」
若手の音楽監督も大手事務所には、逆らえないようである。
前田杏香さんは納得いかないようだった。
「前田さん、いいよ。仕方ないよ。お上には逆らえない。」
ルキアくんは言った。
ルキアくんだって、いいわけない。
自分のバンドの新曲MVに、新人アイドルがプローモションのために出る。それじゃあファンだって、ガッカリするだろう。
次の日。
「前田っ。どういうことだっ。直接、AOSに行って、新人アイドルを出演させるのを断ったそうじゃないか。あの大手の事務所に行って何やってんだ。うちの親会社のtracks Japanだって怒らせるだろっ。勝手なことするなー。前田、おまえは、しばらく自宅待機してろ。担当外れてもらうかもしれない。マネジャー職からも外れてもらうかもしれない」
部長の怒りは相当なものだった。
大手事務所所属、しかもtracks Japanからデビューする新人アイドルの出演を拒否し、逆らった子会社である事務所は立場がない。
「前田さん、謹慎だって?前田さんも、やりすぎなんだよなー。適当にやってればいいのに」
20代の男性マネジャー達が話をしていた。
「35歳でガツガツしてて、女で仕事出来たって男より仕事出来ちゃ、可愛くないよね。あれは一生嫁に行けないな。あーいう年上女房は絶対やだね。アハハー」
適当に仕事をやってる若手男性マネジャーが、手を抜かず仕事をする女性をバカにする。
適当にやってれば疲れないかもしれない。
無難かもしれない。
適当に上司、クライアントを持ち上げて、それでいいかもしれない。
でも前田さんは、ルキア達のバンドらしさをMVに出したかったし、ルキアくんのバンドのファンにも喜んでもらいたいし、それを一生懸命することが悪いことには思えない。
「京子さん、前田さんが、マネジャー職を外されるかもしれない。前田さん、オレらのために一生懸命やってくれたのに、どうして前田さんがマネジャー辞めなきゃいけないだろう」
ルキアくんから、電話が来た。
前田さんが処分を下されることを気にしていた。
「前田、明日tracks Japanの役員がくるから、tracks Japanに私と一緒に来なさい。処分は覚悟しとけ」
自宅待機をしていた前田さんに、部長が電話した。
tracks Japanの会議室で、前田さんと部長は待っていた。
Terezishon担当の秋元さんがいた。
江口さんもいた。
「エグゼクティブアドバイザーの京子先生です」
江口さんは、前田さんと部長に紹介した。
「この度は、うちの担当マネジャーが勝手なことをして申し訳ございませんでした」
部長が私に謝り、部長と前田さんは私に頭を下げた。
「Terezishonの新曲聴きました。いらないでしょう。MVに女性アイドルは。アイドルを使うとバンドらしさが出ない。Terezishonのファンの気持ちを考えるとアイドルを使ったら残念なMVになるわね。アイドルは、なしで行きましょう」
部長は、私の言葉に驚いてるようだった。
「前田さん、あなたの判断は正しいです。Terezishonとファンの気持ちを優先してくれて、ありがとうございます。これからもTerezishonのマネジャーを宜しくお願いします」
私がそう言うと前田さんは、また頭を下げた。
35歳の独身女性が一緒懸命をしてると、あれだから結婚出来ないと馬鹿にする人もいる。
でも35歳。
仕事も恋愛経験も中間になり、全てに挟まれてるように、身動きできない。考えなきゃいけないことも沢山ある。
将来のこと、過去のこと、人間関係を考えて、それでも一生懸命仕事をしている。
温かい家庭があると結婚した友人には自慢され、見下され。長年付き合った彼には、あっさり若い女性に行かれ、親にも結婚しないなんて親不孝もんと言われ、
それでも一生懸命、生きてる。
前田さんにも一生懸命やったご褒美が、いずれ来るかもしれない。




