目指せ!よき相談役!
前の作品を読んでなくても大丈夫なように書いたつもりですが分かりにくかったら申し訳ありません。
幼い頃、天井に頭をぶつけたら前世の記憶を思い出した私こと、小野内心。
しかもここは乙女ゲームの世界で自分は悪役に転生してしまったらしい。
えらいこっちゃと思ってるうちに時は過ぎてなんやかんやと乙女ゲームの舞台である私立八重学園に入学をしちゃったのである。
しかもこの学園、妖の血を引く生徒やその“ご飯”になる生徒がいたりとなかなか特殊なとこなのだー!
「うぅ…」
「あんた何いきなり泣きだしてんのよ。」
「行く先未来のことを考えたら憂鬱にね。」
「どんだけ将来悲観してるのよ…。」
呆れたように言うのは斉藤奈々(さいとうなな)。
ちょっとシャイガールな私の数少ない友人である。
ちょっとツンデレが入ってる見た目ボーイッシュなかわゆい子です。
「小野内さん」
どこかひんやりする声に呼び止められていやいや振り向くと、綺麗な微笑みを浮かべた美人さんが立っていた。
少し長めの前髪がさらりと揺れる。
「今日の放課後、空いてますか?」
「い、いや、申し訳ないがちょっと用事があってね。」
「有難うございます、いつもの所で待っていますね。」
「え、ちょ、空いてるなんて言ってな」
「あなたが暇人でよかった。それではまた。」
にこりとまた笑うとわたし達を追い越してさっさっと歩いていってしまった。
今日もダメだった、なんで奴は毎回話を聞かないんだ。
「今日も見事なスルーだったわね。最後にちょっと貶すところもさすがだわ。」
「ああ…困ったものだよ…。」
「あたしとしてはあんな美形とお近づきになれたら嬉しいけどね。」
「…」
ボーイッシュな見た目に合わず美形が好物な斉藤奈々である。
先ほど話しかけてきたのは、氷永雪路というやたら美人だがれっきとした男である。
この乙女ゲームの攻略キャラで、
名前を見てなんとなく察しはついていたが、彼には雪女の血が流れているらしい。
彼の周りはいつもどこかひんやりしているので夏になったときは便利かもしれないなあとちょっとわくわくしてる。
彼との交友のきっかけは入学式のとき目の前で倒れかけたところを私が必死に支えたのが始まりである。
彼は少しばかり病弱体質であるようだった。
次の授業は移動教室だ。
化学の授業で面倒だが毎回、化学室に行って授業を受けなくてはいけない。
特別教室は少し離れたところにあるので移動が面倒なのである。
「お、きた!心ー!教科書みせてくれー!」
化学室に着いたわたし達を出迎えてくれたのは我が幼なじみ、金野頼人だった。
既に席についてぶんぶんと手を振っている。
そんな頼ちゃんに近付きながらやれやれと呆れた顔をつくる。
「我が幼なじみはだらしないやつだ。」
「うっせ!…あれ、お前教科書なくね?」
「類は友を呼ぶということだよ、頼ちゃん。」
「したり顔でいってんじゃないわよ。」
ばしりと後頭部を叩かれて少ししゅんとする。
今私が持っているのは筆箱とノートのみ。
もうお分かりだろう、私も教科書を持ってくるのを忘れてしまったのだ!
「頼人くん、良かったら私の見せてあげる。」
「えっ!」
「お!まじ?見せてもらうわ、さんきゅー!」
「ま、待ちたまえ!私は?ねえ、私は?」
見せてくれるってさっき言ってたじゃないか!
化学の先生は少しばかり厳しいというか変わった考えの人で、居眠りは仕方ないかもしれないが教科書類を忘れるものは論外という人だ。
教科書を忘れる、つまり授業を受ける気がないということになるらしい。
まだ居眠りのほうが許せるというい変わった考えの人だ。
教師まで個性的なのがこの私立八重学園なのだー!
「イケメンに見せる方が幸せよ。」
「この裏切り者…。」
「あら、雪路くんの隣、空いてるわよ。」
ひくりと頬が引き攣る。
辺りを見回すと顔見知りの隣には勿論、その友人たちが座ってるわけで。
誰も座っていないテーブルかもしくは氷永雪路の隣だけが空いていた。
彼は別に疎まれているとかでなく雰囲気とか見た目とか諸々で遠巻きされている。
遠くでキャーキャー言われるが誰も近寄ってこないタイプだ。
本人は煩わしくされるよりそれがいいんだろうと、そう思っていた。
「氷永くん、隣いいかな?ついでに教科書を見せてくれると有難いんだが。」
「おや、暇人さんは物忘れまでするようになったのですか?救いようがなくなってきましたね。」
「そこまで言われるとさすがに傷付くんだが…」
ふん、と鼻を鳴らした氷永雪路は教科書をこちらはずらしてくれた。
授業がはじまり入ってきた化学教師は教科書忘れが2人もいることに一瞬まゆを吊り上げたが、
見せてもらってるという努力(?)を認めてくれたのか何も言わなかった。
次の時間は昼休みだ。
奈々ちゃんはさっさっと違う友人の元へ行ってしまった、今日も捕まえられなかった…。
結局いつも通り頼ちゃんと食べることになる。
今日は春のぽかぽか日和だったので裏庭にあるテーブルでお昼にすることにした。
「なんでお前くっついてくんだよ、食いづらいだろうが」
「氷永くんの隣に座ってたからちょっと寒くてね」
「ああ、そういやアイツ雪女の血ひいてるんだったか…」
そういって黙ってしまった頼ちゃんはこの前のことを思い出してるのかもしれない。
先日、健康診断と称した“ご飯審査”なるものが行われた。
この学園は妖ものの血を引く人間がいるわけなのだが、彼らは普通の食事も必要でいわゆる人の生気も必要らしい。
でなければ理性がなくなっていって最後は妖に限りなく近くなってしまい人に有害なモノになってしまうということだ。
大抵の人は生気を奪われると寿命が縮んだり病気になったりと命に関わる危機に陥るが、
たまに生気を奪われてもケロリとしていたり少し貧血気味のようになるだけの人がいるらしい。
その人たちは妖の血を引く生徒たちの“ご飯”となるわけだ。
私の幼馴染はそのご飯審査のとき、鬼の血が流れていたことが発覚した。
普通に人間だと思って過ごしていた頼ちゃんはまだそのことを受け入れられないようだった。
前世の記憶からわかるのはヒロインが入学する1年後にはもう吹っ切れていること、それは悪役である私が彼を励まし続けたからであるということ。
悪役の道から逸れたい私だが、こればっかりは放ってなんかおけるわけがない。
「頼ちゃん頼ちゃん」
「なんだ」
「私のパンをあげよう。お前の好きなあんドーナツだぞ。」
「俺いつからあんドーナツが好きになったんだ?」
相変わらず慰め方が下手だなと頭をぐりぐりされる。
軽く目を回してるうちに私のパンはあっという間に頼ちゃんの胃の中に収められてしまった。
「これカレーパンじゃね?」
「おや、見た目がちょっと似てるからうっかり」
そして放課後。
特別教室がある特別棟の、空き教室。
そこで彼は待ち構えていた。
「きましたね。」
こちらをちらりと一瞥した氷永くん。
教室の真ん中にぽつんと2つ、向かい合わせにして置かれた机と椅子のうち1つに腰掛けていた。
私も黙って空いてる方に座る。
この感じには先生との面談を思い出すがこの場合先生とは私のことである。
おや、意外かな?私もとても意外に思う。
「あなたの言う通りに最近話題の本をこれ見よがしに読んでみましたが流行に敏感なのねと遠巻きに噂されるのを聞いただけでした。」
「…そうか。」
ぐっと両の手のひらで顔を覆う。
なんでこんな、
「しかし、消しゴムをさり気なくに落としたところ隣の席の山田くんが拾ってくれました。」
「…それで?」
「有難うございます、どういたしまして、と。」
「教科書に乗ってそうな会話だな…。」
なんでこんな友達欲しがりくんに捕まってしまったのだろうか…!
前世で優しげな微笑みをしつつお腹真っ黒と聞いていた彼だが、ただ友達が欲しいけど素直になれない残念な美形だった。
ただし毒を吐くときだけ素直になるというひねくれ具合だ。
「結果としては隣の席の山田くんと会話できたのでよしとしましょう。」
そういう彼は陽の光を浴びて銀の髪と金色の瞳がきらきらと輝いてとてと綺麗だ。
なのに、
「残念すぎる…」
「…なにか言いましたか?」
「いえ、何も!言ってない!」
ごほんと誤魔化すように咳をすると真面目な顔を作る。
「ま、まあ山田くんとやらと話せたようでよかったじゃないか」
「そうですね。それで次はどうすればいいでしょうか?」
「ううむ…」
この際はっきりいうが自分だって友達少ない。
まずこの古風な話し方のせいでどうも初対面の人はびっくりするらしく。
なおそうかなとも思うのだけどフツウに話してみて違和感がやばかった。
そうしゃべる前までは面白がってた幼馴染みがすごく微妙そうな顔するくらい違和感がすごかった。
これには前世の記憶の先入観もあるかもしれない。
ともかくそんな感じで私もそこまで対人スキルがすごいわけではないのだ。
そこで私はぴんときたのだ。
いつも隣にリア充の見本みたいな奴がいるじゃないかと!
「よし、それでは次に私の友人と友人になるのはどうだろうか?」
「ふむ…、あなたの友人というと斉藤さんのことでしょうか?」
ミーハーなところがあるところ思い出したのか少し嫌そうに顔をしかめた。
だが、私はそうじゃないと首を振った。
「金野頼人、私の幼馴染のことだよ。」
その名を聞いた氷永くんの顔はさっきと比べものにならないくらい歪んだ。
思わずびくりと体を揺らしてしまう。
「…彼、ですか」
「え、そ、そんなに君たち仲悪かったかな?」
「いえ、一方的というか、彼とは友人になれない気がするのですが」
君ってそんなに頼ちゃんのこと嫌いなの?と少し恐る恐る聞いてみる。
誰でも自分の一番の友人を否定されたびっくりするだろう。
しかし氷永くんは逆です、と首を振ったのだった。
曰く、彼は私と貴方が親しくするのが気に入らないらしい。
曰く、彼は私が貴方に接触するとき射殺すような目でこちらを見ていると。
曰く、そもそも貴方達は付き合っているのだと思っていたと。
ぽかんと口を開けた顔が面白かったのかくすりと笑った氷永くんはつん、と私の頬をつつくと
彼との交流の仕方は少し考えた方がいいと思いますよと言った。
その言葉に、ゲームでは頼ちゃんは頼人は私に依存している、そんな設定を思い出した。
「ところで、」
少しの沈黙のあと氷永くんはポツリと切り出す。
今だ間抜け面を晒していた私は慌てて表情を引き締めたのだった。
そういったきり彼はなかなか口を開かない。
なんでもスバズバいう彼らしくないなあと私は首をかしげた。
「私達はここでこのような密会を度々してきたわけですが」
「密会ではないと思うけどね」
「その間にまあそれなりに話すようになったわけで」
「まあ挨拶くらいはするようになったね」
「こ、この、」
「ここの?」
「この関係は一般的に友人というものにならのではないでしょうか!」
口元を手で覆ってそっぽ向きながらそう言ったこの友だち欲しがりくんに、折角引き締めた顔がまた間抜け面へと変貌してしまった。
そしてはっとして、同じように口元を覆う。
「確かに!君の言う通りじゃないか!」
「!!」
確かに言う通りだ。
普段の罵倒だと思ってた会話も気のおけない友人同士だからこそのようだし、
この放課後の密会、いや、話し合いもいわゆる高校生が放課後の残って遅くまでおしゃべりするあれじゃないだろうか?
なんてこった!攻略キャラとはあまり関わらないようにと心掛けていたのに…!
「それで友人同士なのですから名前呼び、するのはどうでしょうか?」
「!!…そ、それはなんだかレベルが高くないかい?」
あまり下の名前で人を呼ばない私はそのことがとても難しく感じる。
幼馴染みでさえ照れて名前が呼べなくていまだあだ名呼びである。
例外の奈々ちゃんの場合苗字で呼んでいたらなんかムカつくと理不尽に後頭部を叩かれて名前呼びとなったのだけどね!
お互い、すごく真剣になかなか間抜けなことについて考えていた。
「…さきにどうぞ。」
「え!今から?しかも私からかね!?」
「私だって貴方なんか名前呼びを許可したことに動揺してるんですよ」
「言い出したのはそっちなのに理不尽!」
睨むようにお互いをみる。
意を決して私は小さく息を吸った。
「ゆ、雪路、…くん」
かなり恥ずかしくなったので少し俯きながら、思いのほか小さな声だった。
がたりと急に氷永くん、ゆ、雪路くん?が立ち上がった。
「これはまた別の機会にしましょう」
「え、ちょ!ちょっと待ちたまえ!」
すたすたと振り向かず歩いていってしまった彼の横顔が夕日のせいか赤く見えた。
よ、よかった、怒ってる顔では、ない…ような?
私にだけ呼ばせて逃げるとはなんてやつだ。
明日はあいつをへっぴりごしと呼んでやろう!
そう意気込む私だが倍返しをくらうのがわかるのはあしたになってからだった。
夕日が差し込む教室でぼんやりとふと思う。
先ほどの雪路くんの言葉。
頼ちゃんは原作通り、なんだろうか。
いいや、いいや、そう思うがその考えはなかなか断ち切れない。
悪役なんて、いやだ。
私は笑っていたい。
幼馴染みの隣で、新しい友人たちの隣で。
やっぱり私は、よきライバル役を目指します!
でも最近はよき相談役にもなれるんじゃないかなと思ってきたのである!
そんな彼女に相談したいことがあると他の攻略キャラたちに話しかけられるのは今から半年後のことである。
前回のが説明ばっかりだったのでキャラと絡めたくて続きを書いてみました(˘ω˘)
絡めたのかな…?
雪路くんのキャラがかなり想像と違っててどうしてこうなった状態。