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09 恐慌

「『殴打』――ッ!」


 慎太の雄叫びに意識が引き起こされる。

 慎太のスキルによる一撃でワイルドウルフが後退する。


「俺達が戦う! てめぇらは後ろに引っ込んでやがれ!」


 必死の形相に気圧されるクラスメイトたち。彼らは哀れな死者に一瞬視線を留め、瞬時に撤退を決意した。

 誰もああなりたいとは思わない。


「皆月さん!」


 僕は彼女を振り返る。


「うっ、おえぇぇ!!」


 彼女は慄き震え、吐いていた。全身を抱くようにして、歯をガチガチと鳴らす。瞳の焦点が合っていない。


「いやだ、死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない!」


 僕はもしやと思い、鑑定を使う。

 結果は、予想通りだった。


 ―――――――――――――――  

 皆月愛莉:恐慌 16歳 女性 レベル1 

 人族

 職業:契約師

 ――――――――――――――― 


 恐慌状態。これは一種の状態異常だ。

 僕が恐慌に陥らなかったのは、耐性が高かったからに違いない。

 これは厄介だな……。

 クソッ、仕方ない。


 ―――――――――――――――

◇以下のスキルを取得しますか?

    

 ・リカバリー

 ――――――――――――――― 



「イエスに決まってんだろ!」


 即行で状態異常を回復する魔法を取得する。

 背後では慎太が必死の攻防を繰り広げている。あいつが死なないうちに態勢を整えなくてはいけない。


 レベル1である僕のMPは少ない。当然多くの魔法やスキルを使うことは出来ない。使う魔法の系統は絞られる。

 今必要なのは、敵を引き付ける前衛と、回復と援護を担当する後衛。

 現状の火力では、慎太だけではワイルドウルフを斃すことは出来ない。僕が加わっても趨勢が傾くかは分からない。でも、現状加勢でき、戦闘に特化した魔法職は僕しかいない。       


 だから、僕が必然的に援護を買って出ることになる。でも、先に言った通りMPの関係から回復役を兼任することは出来ない。

 そこで皆月さんに『キュア』を取得してもらったわけだが、現在彼女は恐慌状態にある。一刻も早く復帰してもらわないと前衛が瓦解し、後衛の僕らは戦うことすら出来なくなる。

 『リカバリー』に使うMPすら惜しい。


「『集え精霊。光魔の柱。天上の光の輝きよ、彼のものを癒したまえ。我が魔を以て癒しとする。『リカバリー!』」


 柔らかな光が彼女を包む。次第に震えは収まり、瞳の焦点が合う。


「わ、わたし……」


 微かな声で呟き、僕を見る。


「なんで……柊くんは大丈夫なの?」


 それは恐慌状態のことを指しているのか。

 それに対する答えは出ている。


「レジスト。僕は状態異常に対する耐性が強いんだ」


 呪いを掛ける側が呪いに弱いのでは話しにならない。きっと、そういうことなのだろう。


「それより、立てるなら早く!」


 僕は慌てて彼女を引き連れ慎太の援護へと赴く。

 慎太は満身創痍になりながらも懸命に応戦していた。だが、それは決して善戦と呼べるものではない。苦戦もいいところだ。


「MPが半分切った!」


 こっちを見ずにバックステップで攻撃を回避して告げる。

 『鑑定』がMPを使用しないスキルである反面、『殴打』はMPを使用する。だが、それは微々たる量で、一回使ったくらいじゃそう簡単にMPは減らない。それなのに、MPが半分を割る事態に陥っている。更に言えば、ワイルドウルフの方は傷を負ってはいるものの動きに支障が出るほどのものではない。状況は限りなく悪い。


 慎太が『殴打』でワイルドウルフをノックバック。同時に、拳が出血する。あれは諸刃の剣なのか。


「慎太、下がれ!」


 僕は攻撃魔法『風刃』(ウィンド・カッター)の詠唱を終え、ワイルドウルフの首筋に向けて高速で射出する。

 微かに空間が揺らぎ、風切り音が聞こえたと思ったらワイルドウルフの首から鮮血が迸った。

 首を切断するまではいかなかったが、ダメージを与えることはできたようだ。


 その隙に後退した慎太に皆月さんが『キュア』を掛ける。

 慎太が『戦士』(ウォリアー)で皆月さんが『僧侶』(ヒーラー)、僕が『魔法使い』(ソーサラー)というわけだ。


「助かった、もういい」


「四条くん!? まだ完治してないのに!」


 慎太がこれ以上の回復を断ったことに悲嘆する皆月さん。慎太は狼の方へと向き直る。


「贅沢いってる暇はねぇみたいだ」


 視線の先には、立ち上がるワイルドウルフ。首元から血が滴っているのに堪えた様子は微塵も感じさせない。

 僕のMPは残り6割といったところ。やれるのか?


「いや、やるんだ」


 僕は呟く。出来る出来ないの問題じゃない。やらなければ、出来なければ死ぬ。これはそういった次元にある。

 僕は魔法を発動するべく構えた。


「もう一度『風刃』(ウィンド・カッター)を使う! 敵を引きつけてくれ!」


「分かった!」


 ワイルドウルフに向かっていく慎太の背を見て、僕は魔法の詠唱を開始した。 

 こうして、戦いは泥沼化していった。

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