87 迷宮少女は……
お久しぶりです。
私はいつも誰かに依存していた。
元いた世界では両親に。異世界に来てからは、恭平君に。
私が女だから、弱いからだとかではなくて、私が根本的に私であるが故に他者に頼ってしまう。いや、頼るなんて立派なものじゃない、もっと生々しく図々しい……そう、縋るなんて言葉がぴったりだ。
私という人物を端的に言い表せば、弱者の一言に尽きる。守られ、喰われる側のか弱い存在だ。
物語のヒロインが弱者であり主人公に守られる存在だというのなら、私はきっと恭平君のヒロイン足り得る人物なのだろう。
皆月愛莉。彼女はとても惨めで弱く、主人公に縋らないと生きていけないヒロインだ。
……卑しいにも程がある。情けないにも程がある。醜い生き方にも程がある。誰かに縋って自分はなにもしないなんて、あまりにも虫がよすぎるだろう。
結局のところ、私は自立できていないのだ。それ故に、恭平君の力にもなれず足を引っ張ってしまった。誰かを助けることもできなかった。
それは、こうして今も――。
私は変わらない。
「『転職』、『狩人』!くたばりなァ! 『複属性連弾』!」
――魔宮、地下45階。
地底にも等しい深度の階層、その閉塞的な空間の中で極彩色の光が瞬いた。
刹那の光に呼応するかのように、魔物の身体に無数の虚空が穿たれる。
光源は隻眼のウサギが手にする黒塗りの鉄塊。厳かで、どこか重厚な雰囲気を帯びたソレは素人目にも決して玩具ではないことが窺えた。
「これで、ここらの雑魚も粗方始末し終えたかの」
和服を纏った尻尾付きの妙齢の美女が典雅な挙措で口許を覆う。
彼女の背後には空気をも焦がす高熱と、元が何かすら判別できない灰燼のみが残されていた。
「どうするよ、譲ちゃん」
白ウサギが軽々と鉄塊を肩に掛け、やおら振り返る。つられるように、妖狐も後方を向いた。
二人の視線の先。そこには、灼熱の大地を意にも介さず悠々と歩む少女の姿があった。
しかし、少女は靴はおろか、まともな服すら着ていなかった。踏み出された両足は何にも守られていない素足。身を包むのは、ボロ布にも等しい貫頭衣。その姿はあまりにもみすぼらしい。
貧弱と形容されても文句の言えない有様だ。
「私は……」
両目を隠していた前髪が熱気に跳ね上げられる。
現れたのは、尋常ならざる意志が宿った双眸。それは整った相貌と相俟って凛冽さを醸し出す。
細められた炯眼は、正面をきつく睨みつけていた。
肩にかかる長髪が彼女の激情に煽られるように靡く。
「私は、早く恭平君の元へ行かなきゃいけない。踏みとどまっている時間なんてないんだ」
怒気すら篭っているように感じられる強い語調。
この姿を見て、誰が彼女を貧弱だと笑えるだろうか。
「二人とも、先へ行こう」
ウサギと妖狐の間を割って先へと進んでいく。
その後姿を見て、ウサギは満面の笑みを浮かべ彼女のあとを追う。
「……冥爛も」
「そうじゃの」
少女に促され、妖狐も歩みを再開する。
主である少女の後姿に一抹の不安を覚えながらも、これまでのように付き従う決意をして。
たとえ彼女がどのような悩みを抱えていようと、彼ではない自分では聞き出すことすらできないのだ。自分はただ付いていくことしかできない。
目の前にあるようで遠い。遣り切れない寂寥感が妖狐の胸中を透いていった。
先頭を行く彼女の瞳が不安に揺れるのを、誰も目撃することはなかった。
少ないですが、近日中に続きをあげたいと思います。
また、本作についてはいずれ大幅な改稿乃至はリメイクをしようと思っています。




