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75 対談2

 重圧が沈黙となって押し寄せる空間の中、直樹がゆっくりと口を開く。


「……え?」


 それはなんとも間の抜けた声だった。仮にも将軍が出していいような声ではない。

 その声音に応じるように殺気の濃度が上昇していく。


「テメェ、シラ切るつもりか?」


「い、いやそんな気は毛頭ない!」


 慌てて大声を出す直樹。その声にあてられて帆華が正気に戻った。途中で意識を失ってしまっていたようだ。


「将軍、そろそろお時間です」


「少し遅れると伝えろ。……慎太、俺たちの間には見解の相違があるみたいだ」


「何だ? 言ってみろ」


 帆華が一礼して退室していったのを横目に直樹は解説する。


「慎太が牢に入れられてた期間は四、五日程だ。悪いけど、そんな短期間じゃ助けにいけなかったし、運よく五日目に助けに向かうことができたがそのときには既に慎太はいなかった。逆恨みされる要素がない」


「い、五日だと……?」


 慎太が瞠目する。虚言を呈しているのではないかと直樹を窺うが、彼の表情は真面目そのものだった。

 困惑と共に殺気が薄れていくのを感じながら直樹は続ける。


「ああ、五日だ。その間、俺たちは姫に洗脳されて魔宮へ。柊と皆川は二人だけで魔宮に行っていた」


「そうか……。嘘じゃないんだな?」


「嘘じゃない。何なら他の連中にも聞いてみるといい」


 その言葉に慎太は微かに頷いた。どうやら信じてもらえたようだ。

 直樹が安堵する反面、慎太はどこか確信めいたものを感じていた。


 ――そういえば、神官長に妙な物を渡されたような気が……。


 いつもならその程度の記憶はすぐに思い出せるのだが、何故か思考が靄がかって思い出せない。まるで、何かの弊害みたいに所々思い出せない記憶がある。

 慎太は軽く息を吐くと、疲れてるのだろうなと自分を納得させた。


「そういえば、姫が一週間後に処刑されるのは知ってるか?」


「ん? ああ、聞いたな。まあ、妥当なところだろ」


「皇子と一緒に脱獄の邪魔しやがったときは心底腹が立ったな。あいつらの所為で皆月は死んだし、柊もなんかおかしくなった」


 あのとき、皇子に迫られた二択。自分がとった行動はどっちつかずなもので、結果的に皆月が死んでしまった。自分は本当は柊を見捨てて皆月を助けるべきだったんじゃないか。そう思い出すと堂々巡りのような思考に苛まれてしまう。


「皆月、死んだのか……」


「柊も善処したんだがな、俺たちが足を引っ張っちまった。……そういえば、真っ先に慎太の牢獄に行くように提案したのも柊だったな」


 暗い話を避けるように、頭を振って話題を転換する。


「恭平が?」


「ああ、時間がなかったにも関わらずな」


 ああ、やはり。やはり間違っていたのだ。慎太は胸中で歓喜する。

 唯一無二の親友が慎太に害を為すことなどしてくるわけがないし、現に彼は行動で示してくれた。

 まったく、何故自分は彼を殺そうなどと思ったのだろうか。甚だ馬鹿馬鹿し――



 ――違う。


 頭の中で誰かが否定する。


 ――あいつは泥棒だ。オレたちから眼を盗んでいった。あれがないと元に戻れない。だから、

 

 ――殺さないといけない。


 ああ、そうだった。殺さないと。何を勘違いしていたんだ俺は。 

 あいつは殺さないといけない。

 殺さないといけないんだ。


「それで、今恭平は?」


 殺気は霧消したが、剣呑さの残る鋭利な双眸が直樹を縛り付ける。


「柊はいずれこの国を潰すために戻ってくると言っていた。これは推測に過ぎないが、恐らく王国にいるんじゃないかと思う。ウチとあそこは仲が悪いから」


「確かに、取り入りやすいかもな」


「でも、帝国は王国と戦争することになるから、もし柊が王国にいたら巻き込まれるかもしれない」


 直樹の話を聞いて慎太は確信する。

 間違いない、柊は王国にいる、と。彼の性格や行動を知悉している慎太にとって、柊の行動を予測することなど容易い。


(帝国の周辺で、帝国を滅ぼすのに手を貸してくれる国。勇者の権限が強い国。協力の要請を取り付けられなくてもメリットのある国。こんな感じで、あと予防線が張れる国で一番都合がいいのは確かに王国だ)


 柊は大損することを嫌うので、最悪を想定して物事を組み立てる傾向にある。親友なだけあって、慎太はそれをよく分かっていた。


「そうだな。先に見つけた方が保護しておくことにしよう」


「それが一番だ」


 続けて慎太が言う。


「あと、疑って悪かったな」  


「いや、誤解が解けてくれてよかったよ」


 誤解以上の何かが慎太を襲ったわけだが、それを知らない直樹は最上の結果を得られたと内心喜んでいた。

 二人はソファから立ち上がり、気だるげに室内から出る。


「さて、あまり遅れないうちに円卓に向かわないと」


「将軍も大変だな」


「慎太も出るんだろ?」


「クソかったりぃ……」


 それぞれ思い思いの愚痴を吐いて円卓へと足を進めた。

  






「二人とも、五分の遅刻です」


「すまない」


「わりぃな」


 円卓へ向かうと、その扉の前で真鍋帆華が屹立していた。二人が来るのを待っていたらしい。

 彼女は二人と嗜めると、恭しい所作で扉の把手に手をつけた。

 扉は黒を下地にしており、その上に彫金された金があしらわれている。結構な重量があるが、勇者の一人である彼女からすれば大したことはない。

 二人の代わりに先陣を切って室内に入っていく帆華。追従するように二人が続く。


 中はとても広く、謁見の間と同じ匂いを漂わせていた。

 昼にも関わらず光を灯すマジックアイテムが使用されており、必要以上に明るい。その光が照らす先にあるのは黒塗りの丸状の机。今まで何度も繰り返し言われてきた円卓だ。

 リノリウムのような床をカツンカツンと音をたてて進む。

 すると、円卓に腰掛けていた長い赤髪の女性がつり気味の瞳を細めて口を歪めた。


「ずいぶんと遅いな、直樹殿」


「すいません」


「まさか無駄話でもしていたわけではないだろう?」


「……ベルベナ殿。その発言は」


「クソ失礼だなソイツ」


 それはお前もだろ、という言葉を返したくなるような発言が隣が聞こえた。慎太である。


「オレが話すことがあったから遅れた。それを無駄話だと?」


「すまない、失礼した」


 まったく誠意のこもっていない謝罪を受け、二人は円卓の席に腰掛けた。

 ――帝国三将軍のうちの一人、ベルベナ。彼女は直樹が将軍となった日以来、彼を目の仇のように扱うようになった。それは直樹がベルベナに恥をかかせてしまったことが原因なので、報いを受けるのも仕方ないとは思うが、やはり心地の良いものではない。しかも、このようにたまに見境なく使者にも無礼が及ぶことがあるので、国を脅かす種になりかねない。故に、現在進行形で皇帝を悩ましている。

 因みに、グライン将軍は無害であり先ほどからだんまりを決め込んでいる。


「あ、えー、それでは円卓会議を始めましょうか」  


 帆華が戸惑いながらも議事を進行しようとする。

 しかし、そこでまたしても遮る声が上がる。


「いえ、その前に。使者殿、その兜をとってはもらえないか?」


 ベルベナの言葉に、その場にいた全員の視線が慎太の兜に集まった。彼はこの部屋に来る前に被りなおしていた。いわずもがな、自分の正体を秘匿するためである。


「いくら他国の者とはいえ、皇帝の御前で失礼というものだ」


 そのもっともらしい考えに、慎太は微かに舌打ちを漏らした。

少しずつペースを取り戻していきたいです。

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