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74 対談1

急いだので短めです。

 皇城の一角に位置する貴賓室。その内装は華美でなく、調和がとれた整合性のある美しさを内包していた。調度品や壁は色が統一されており、焚かれたハーブは極上の香りを漂わせ、いかなる者も心を落ち着かせる。室内のどれをとっても一級品で、客を精一杯もてなそうとする帝国の誠意が見て取れた。

 そんな部屋に相応しいのは、友人と談笑するときのような和やかな雰囲気。

 しかし、現在室内にはおよそそれとは似つかわしくないものが流れていた。

 殺気、といえば分かりやすいだろうか。

 表面上は笑顔でも、慎太の心は穏やかではなかった。


「そんなに緊張するなよ、お互い知らない仲じゃないだろ? まずは久闊を叙そうぜ?」


「あ、ああ……」


 直樹には、何故彼が怒っているのかまったく理解できなかった。

 将軍となり、人を束ねる身になってから多少なりとも他人の心中を察せるようになった気でいたが、今このとき彼が何を考えているか、どのような思惑があるのか全く見当がつかない。


 今思えば、彼は昔からそうだった。天才的に頭が良くて運動もでき、容姿も恵まれていて非のうちようがない。故に、彼が何を考えているのか理解できる人は一人しかいなかった。


 ――柊恭平。彼だけが慎太という人間を理解できた。


 だからこそ、今アイツがいればと思惟してしまうのも無理はなかった。

 しかし恭平がいない以上、自分がやるしかない。

 慎太にソファに座るように促し、その対面のソファに腰掛ける。背の低い机をひとつ挟んで向き合う形になる。


「久しぶり、だな……」


「ああ、本当にな」


「……」


「……」


 会話が続かない。

 殺気を垂れ流す相手にどのような言葉をかければいいというのか。


「直樹将軍、対談できるのはあと五分ほどです」


「あ、ああ……」


 秘書になりきっている帆華が冷静に言葉を下す。

 慎太と向き合わなくていい彼女が羨ましく、横目に一瞥すると彼女は小刻みに体を震わしていた。

 それもそうだろう。殺気も理由に事足りるが、勇者を震え上がらせるだけの要因がもうひとつあった。


 ――――――――――――――― 

 四条慎太 ???歳 男 レベル???

 ???

 職業:???

 称号:???

 ―――――――――――――――


 相手とまみえたときに必ず行うようにしている、鑑定。敵を知ることが勝利への近道であり、実際その通りだった彼からすれば視界に映ったものは信じられなかった。

 その原因を追究しようとするとこんなウィンドウが出現した。


 ――――――――――――――― 

 ・能力差が著しいため詳細不明 

 ―――――――――――――――


 勇者でレベルも48ある自分と、慎太の能力差が鑑定できないほどあるという事実。それは、戦えば間違いなく死ぬことを意味していた。

 ありえない。恭平に次いで、ユニークスキルすら獲得したというのにこれは何なんだ。

 色々と零したい愚痴があるが、まずはやるべきことがある。


「率直に聞こう。何をしにきた?」


 相手の目的、及び真意を知ること。そして敵対しないこと。

 後者は既に遅いのかもしれないが。

 慎太は横柄に答える。


「会議をしにだ。どっかの誰か(・・・・・・)が神官長を殺したらしくてな、新しいのが入用になったんだと。だから、その調達も兼ねて今後の関係をどうしようかっていう話だ」


「使者、なんだよな?」


「ああ、神聖国の勇者っていう肩書きで来てる。お前がいるから俺は偽者扱いされそうだが。なんか使者って括られてたしな」


「あ、いやすまない……」


 彼の機嫌を損ねるのは得策ではない。今後は使者ではなく勇者と呼ばせるように周囲を徹底させようと決意し、話を転換させる。


「そ、それで。そっちの勇者はどんなことをやってるんだ? こっちは毎日書類仕事に追われてるんだが」


 慎太は立ち上がり、部屋の隅に置いてあったティーセットを手に取る。手馴れた動作でティーカップに紅茶を注ぐと辺りに仄かな香りが咲いた。


「掃除だな。雑魚の。今、帝国が揺れてる所為でウチに色々変なのがきやがるからそういうのを片付けてる」


 帝国と神聖国は様々な条約を結んでおり、その中に帝国が神聖国を保護し守るといったものがある。だが、それは現状では満足に発揮されておらず、その尻拭いを彼がしているということなのだろう。

 帝国が不安定なのは直樹が皇子を暗殺したからなので、少し罪悪感を覚えてしまう。

 慎太がティーセットを一式テーブルの上に運んでくる。腰を下ろすと、足を組んで静かに紅茶を啜った。


「……聞きたいことはそれだけか?」


 面倒だと言いたげに慎太が言った。


「まあ、とりあえずは」


 すると、直樹の言葉が呼び水だったかのように周囲に散布されていた殺気の気配が濃厚になった。

 途端に重量と密度を帯びたような威圧に、直樹と帆華、二人の勇者は冷や汗を禁じえない。

 鉛のように重くなった顔を上げると、ちょうど慎太がティーカップをソーサーに戻しているところだった。


「そうか。それじゃあ、俺もひとつ聞かせてもらおう」


 一呼吸おいて、直樹にとって最悪の言葉が投げかけられる。


「あのとき、何故俺を見捨てた?」


 慎太の双眸が剣呑な光を放っていた。

次話も書き始めてるので早めに更新できると思います。

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