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閑話 べりあるの一日

お待たせしました。待望の一話です。

  べりあるの朝は早い。

 午前六時、陽が昇り始めた頃合にべりあるは目を醒ます。彼女は寝袋から顔を出すと、俊敏な動作で着替えを開始し、その僅か数秒後には馬車の荷台から姿を現す。

 地面に降り立つと大きく伸びをする。朝もやの残滓を肺に取り込み、心地よい呼気と共に吐き出した。

 ゴシックドレスのスカートがそよ風に舞う。その光景は彼女の燃えるような紅髪と切れ長の双眸、まだ幼さが残る端整な顔立ちと相俟ってどこか幻想的な雰囲気を醸し出す。


「よっしゃ! 今日も頑張んぞ!」


 雰囲気は一瞬でぶち壊された。

 彼女の主人曰く、アホらしく笑うべりあるは今日も元気いっぱいだった。

 べりあるは言いつけ通り、寝袋を片し着替え終えたので次の段階に移行する。


「ほいっ!」


 能天気な掛け声で生活魔法を発動。水を発生させ勢いよく顔に浴びると、犬のように体をぶるぶると震わせ水を払う。

 そのまま魔法を維持し、持ってきた木製のコップに水を注ぐと口をゆすぐ。

 やがて水を吐き出そうとしたところで、一人の幼女がやってきた。


「べりある様。私にも水を分けてほしいでございます」


 腰まで伸びた茶髪と、頭上でぴこぴこ動く猫耳。メイド服を彷彿とさせるふんだんにドレープをあしらった黒白の服装。愛嬌のある顔とマッチした外装は、当人の魅力を余さず引き出していた。そんな彼女を見て、つい一週間前までは浮浪児だったと誰が分かるだろうか。

 特徴的な語尾を持つ彼女は尻尾をゆらりと揺らしながら、丁寧にべりあるに伺う。


「がらがらぷぇーっ! おう、いいぞ!」


 もちろんべりあるは彼女の頼みを快く引き受けた。べりあるは主人の躾もあってか、優しいのだ。とても悪魔とは思えない幼女である。


「ありがとうでございます」


 ネコ耳幼女――シェイラは恭しく頭を下げるとべりあるから水をコップに注いでもらう。

 豪快なべりあると違い、可愛げな音をたててうがいを済ませるとシェイラはべりあるに向き直る。


「それでは、私は聡様と瀬名女王様を起こしに行くのでございます!」


「あたしは恭平な!」


 彼女たちはそれぞれ二手に分かれ、自らの主人に起床を知らせに行く。

 シェイラは荷台に、べりあるは一人野宿する恭平の元へ。

 べりあるは別段早起きを意識しているわけでもなく、善意から主人を起こすわけでもない。

 では、何故彼女はこのような行動を取るのか。


「恭平! 朝だぞ! 起きてあたしにエーテルよこせコラ!」


 彼女は打算から動いているのだ。

 恭平はべりあるとある約束を交わしていた。それは、自分を早朝に起こしてくれたらエーテルを一本あげるという約束だ。一日10本と、追加でこれを合わせるとべりあるは一日で11本のエーテルを消費していることになる。その一本一本を大事にするべりあるにとって早朝の一本は死活問題なのだ。


「ああ、もう朝か。魔法の練習しないと……」


 やがて恭平は緩慢な動作で起き上がり、眠たげな瞼を擦る。

 彼は約束通りべりあるにエーテルを渡すとローブを羽織って森の方に歩いていった。

 彼曰く、最近手に入れた魔術書に記された魔法を習得するべく奮起しているのだとか。だが、そんなことはべりあるにとってどうでもよかった。


「エーテルうめえぇぇぇぇぇ!!」


 彼女はただ好物が貰えればそれでいいのだ。







「聡様、お疲れ様なのでございますよ!」


 それぞれの鍛錬が終わった頃。帰ってきた聡を見るなり、待機していたシェイラはあらかじめ用意していたタオルを差し出した。


「ありがとうでござるよ」


 忍者が汗を拭き取り終えると、すかさず水が入ったコップが差し出される。

 デキる幼女である。


「ふーん」


 いつもの光景を眺めていたべりあるは興味なさげな声を出し、ふと気づく。


 ――恭平にも同じことしたらエーテルもらえるんじゃね?


 忍者の様子を見る限り、天にも昇るほど嬉しそうに見える。あの行為には、彼をそこまで感じさせる何かがあるのだろう。

 ロリコンという言葉を知らないべりあるはそのように推察する。

 べりあるは早速シェイラの行いを真似てみようとして、しかしタオルがないことに気づく。


「うー……」


 タオルがないとどうしようもない。恭平からエーテルを貰うことは不可能だろう。

 自分のドレスの袖を引きちぎり代わりにしようかと思った瞬間、彼女は忍者が馬車を磨くときに使っていた布を思い出した。

 ああ、あれもタオルだな、と。

 彼女は知る由もないが、この旅程で一番雑務をこなしているのは忍者である。人に扱き使われることに快感を覚える彼はパーティーの中で少なくない貢献をしていた。

 べりあるは忘れる前にと、急いでその布を探す。荷台の中をひっくり返す勢いで探していると、暫くして目的の物を見つけた。


「おー、タオルだな、うん」


 シェイラが渡していたものとは何処か違うような気もするが、布であれば問題はないだろう。

 せっかくだからと、気をきかせてその布を濡らしておく。濡れていた方が体を拭くときに気持ちいいだろうと思ったからだ。べりあるにしては珍しく良い機転だった。


「おい恭平ー!」


 荷台から飛び出し、森の方から歩いてくる主人にべりあるは大きく手を振る。


「ああ、べりあるか。どうした?」


「あのな、お疲れ様だな!」


 労いの言葉と共にべりあるは駆け出した。

 恭平の元まで一気に駆け寄ったべりあるは、シェイラがしたように濡れた布を差し出す。  


「これで汗拭いてくれ!」


 ――エーテルは貰った。


 そう確信した彼女の予想は、突如顔を歪めた恭平によって破られる。


「お前、何言ってんの?」


 険のある声がべりあるに突き刺さる。

 べりあるは激しく動揺する。


 ――なんでこれじゃダメなんだ!?


 彼女はわざわざ水に濡らしてまできたのだ、それを無碍にされるなどあってはならない。

 恭平の視線がべりあるの手元の布に固定される。

 彼はため息を吐くと、ゆっくりと口を開く。


「べりある、それ雑巾」


「雑巾ってなんだ?」


 なんとべりあるはタオルと雑巾の区別がついていなかった。

 にも関わらず、濡らしたりと本来の用途を直感的に理解したあたり彼女は冴えているのかもしれない。無論、そんなことをしても恭平の気を逆撫でるだけなのだが。

 よく分からないが、エーテルが欲しい一心でべりあるは雑巾を押し付ける。


「まあ、細かいことは気にしねーで使えよ!」


 ポイッっと雑巾が放られ、ビシャっと恭平の顔に張り付いた。

 その表情に浮かぶのは、べりあるの想定したものとは真逆のもの。

 純然たる殺気だった。


「べりある、お前今日エーテル抜きな」


「ふぁぁぁあぁぁぁああああ!?」


 幼女の悲しげな絶叫が空に木霊した。

 ちなみに、後ほど恭平は許してくれた。






「ごっそさんした!」


 みんなで朝食を食べ終わると、影宮はシェイラを連れて近隣の森へ、恭平と不動は馬車に乗り込み王都への走行を再開させる。


 ひとつ注釈を加えておくと、影宮がシェイラを連れて行くのは単純にレベル上げと職業取得のためだ。この世界において、神殿で容易に職業を取得できるのはごく一握りの者だけであり、通常は個人の行動如何によって決まる。それは裏を返せば、なりたい職業の研鑽を積み、成果を出せれば特定の職業につくことも不可能ではないことを意味する。


 故に、影宮は自らの技術を弟子としたシェイラに教え込むことによって暗殺者(アサシン)職業(クラス)を会得させようとしているのだ。レベル上げはそれに付随する結果でしかない。

 いくら彼が幼い女性を愛する紳士であっても、やるときはきちんとやるのだ。……弟子を見つめる視線が若干の熱を帯びていることは否めないが。


 一方、恭平と不動はというと、二人は不動が新たに召還した魔物に馬車を牽引させ王都への道程を進んでいた。馬車の速度はべりあるが引いていたときと比べると格段に落ちる。だから、安心して影宮達を置いていけるのだ。


 馬車の荷台で過ごすそれぞれの時間は異なる。不動は種々雑多な鞭を並べ、今夜使用する物はどれにしようかと懊悩し、その対面に身を緊張させながら恭平が万能薬の生産に勤しんでいた。

 彼は時折「ランニングコストが……」などと意味の分からない言葉を口にする。もしかするとそれは、定期的に顔を合わせる商人と何か関係があるのかもしれない。


「柊君、今日はべりあるちゃんについていかないの〜?」


「今日はオットマルさんと会う日じゃないしね。それに、あいつも僕がいないときの方が気を抜けるだろうし」


 手元から目を逸らさずに恭平が答えた。

 不動は、ふ〜んと納得すると再び鞭選びに没頭する。

 そんな二人を乗せて馬車はゆっくりと進んでいく。のんびりと、しかし確かな足取りで一歩ずつ。

 燦々と降り注ぐ陽光は、今日も平和だということを何よりも示唆していた。







 その頃、べりあるは白亜の建物を前に仁王立ちしていた。

 眼前の建物は素人目にも急ごしらえされたものだと理解できる。塗料が塗られていない部分、取ってつけられたような不恰好な扉、剥き出しの窓。しかし、それでも周囲のものと比べると十分に立派だった。

 彼女がいるのは、恭平たちが先週まで滞在していた街、そのスラム部分である。

 本来ならべりあるがここに行くのを恭平は躊躇うだろうが、それを容認するだけの理由がここにはあった。何しろ、彼自身この建物の建造に関わっているのだからそれを知らないはずがない。 

 より仔細に言えば、この白亜の建物を建てたのは恭平だ。


 ――ヒイラギ私設孤児院。それがこの建物の一応の名称。平たく言えば、恭平が建てた孤児院である。随時改築予定。

 そんな孤児院に集う子供の数はこの一週間で50人を超えていた。身元の保証、居住地、何より安全を得られるのが大きい。利に聡い子たちは真っ先にやってきた。


「べりあるちゃんおはよー」


「おう、アイちゃんおはよ!」


 外に水を汲みにやってきた友人にべりあるは元気良く挨拶する。

 アイリス、この孤児院で生活している少女だ。大人しそうな外見と柔和な物腰が特徴で、少しフリルのついたワンピースを着ている。

 アイリスは、よいしょと掛け声を出し水がたっぷりと入った桶を持ち上げる。

 その足元はおぼつかなく、取っ手を握る手はぷるぷると震えてさえいる。


「アイちゃん、それあたしがやる」


「ありがとう、べりあるちゃん」


 いつもの如く、べりあるが桶を受け持つ。

 レベル40越えの彼女からすれば、こんなものはなんともない。

 二人は軽く談笑しながら孤児院の中を歩く。

 アイリスはべりあるの孤児院初の友人であり、最も付き合いの長い親友だ。だが、そんな彼女でもべりあるが悪魔とは知らない。

 悪魔の証左である、頭に生えている短い双角は姿を消している。レベルが上がり、より変身能力を使いこなせるようになったべりあるの努力の成果だ。彼女は今、人間に擬態している。


 両者が対照的な白と紅の髪を揺らしながら進む先には開けた一室があった。

 孤児院の、厨房に繋がる広間である。

 だだっ広い広間では無数の子供たちが思い思いに過ごしていた。遊具は少ないが、助け合い、分け合うことを長いスラム生活で知る彼らは決して取り合うことはしない。日本の児童に是非とも見せてやりたい光景だ。


 二人は子供たちの間を横切り、厨房へと向かう。

 そこでは雇われた主婦たちや、料理の経験がある人たちが昼食の下ごしらえをしていた。

 べりあるはいつもの場所に桶の中の水を零さないようにゆっくりと置く。


「あら、べりあるちゃんとアイリスちゃん。いつもありがとうね」


 一人の婦人が振り返り、満面の笑みを見せた。


「気にすんな! こんなのなんともねー!」


「運んでいるのはべりあるちゃんですし、それに私たちは料理を手伝えませんから……」


 それから二人は何言か言葉を交わし、一礼して去っていく。と同時に、清澄な鐘の音が院内に響いた。

 アイリスが慌てたように駆け出す。


「いけない! べりあるちゃん、授業始まっちゃうよ!」


「おっ、いけねー!」


 周りの子供たちも慌てて遊具を仕舞い、それぞれの教室へと散っていく。


 ――児童たちへの教育。

 これが、ここが通常の孤児院とは違うところだ。恭平がべりあるを通わす理由のひとつでもある。

 この世界では教育は受けられない人数の方が多いため、受けていただけで職に就けることが多々ある。それだけ箔がつくのだ。

 子供たちはそれを理解しており――学校など貴族の子供だけが行ける夢のまた夢の場所なので――ありがたく授業を受けている。


 振り分けられた教室に入ったべりあるたちは、それぞれ紙(恭平が商会に製法を教えたもの)を板切れに敷きペンを構える。

 孤児院で行う授業は午前中だけ。教師も商会の中で手の空いた者だ。正式な教師ではない。

 だが、それでも子供たちは真剣に授業を聞いていた。皆それぞれやりたいことがあるからだ。

 その最たる例がアイリスであり、彼女のペンは終始忙しなく動いていた。まさに生徒の鑑である。

 ちなみに、べりあるは授業中ずっと爆睡していた。

 




 最後の授業になって欠けていたクラスメイトが一人登場する。

 メイド服(っぽい物)を着用したシェイラだ。その背後には虹色の長髪を棚引かせる美青年の姿がある。不動の召喚獣の一体、ペガサスのクオルラだ。今は人に擬態しているが、彼がここまでシェイラを運んできたのだ。


「みなさん、遅くなったのでございますよ!」


「シェイラちゃん、こんにちは」


「よくきたなシェイラ!」


 子供たちがわらわらとシェイラの元に集まる中、クオルラが芝居じみた動作で髪を掻きあげる。


「フフン、この美麗で輝かしいヴォクが! このヴォクが、連れてきたのさ!」


『あっ、ウザい兄ちゃんだ!』


「う、うざっ!?」


 子供たちの唱和はクオルラの心をへし折るには正直過ぎた。






 ショボーンと萎れたクオルラが去っていって一時間。昼食を食べ終えた子供たちは広間や庭で遊んでいた。

 庭で行われているのは白いボールを足のみで互いの陣地に押し込むスポーツ。要はサッカーである。孤児院が設立した初日、恭平が子供たちに教えたのだ。

 子供たちの中で誰が一番上手いかと問われれば、十人中十人がべりあるだと答えるだろう。

 しかし、

「ちぇー。今日べりあるきてねーぜ」 

「せっかくおれのスーパーシュートを見せようと思ったのに」

 彼女は今日、庭に姿を見せていなかった。

 



 午後からは自由時間なため、街に行くことも許される。

 べりあるはアイリスやシェイラと共に街に繰り出していた。

 街はアイリスやシェイラにとっては馴染みが深く、何の新鮮味もない場所だが見える景色は違うもののように感じる。

 それは偏に彼女たちの懐でチャラチャラと音をたてる物に起因する。

 アイリスが懐から小袋を取り出した。中には、子供が持つには少しばかり大きい金額が詰まっていた。

 アイリスは誇らしげに相好を崩す。


「べりあるちゃん、シェイラちゃん。私ね、しょーがくきんっていうの貰ったんだ。勉強できたらお金もらえるんだよ」


「それは凄いでございます!」


「アイちゃん勉強できるもんな!」


 アイリスはえへへと笑いながら続ける。


「でもね、私このお金は大切に使わないといけないと思うの。無駄遣いしたら恭平さんに悪いし、きっともっと勉強できるようにって渡してくれたお金だと思うから――」


「なー、腹減ったからあそこの屋台でなんか食べねーか?」


「べりあるちゃん、私の話聞いてた?」 


 苦笑するアイリスを余所に、シェイラも、それはいいでございますね! と追従する。

 結局アイリスも連れていかれた屋台では、焼いたモンスターの串刺しが売られていた。


「おっちゃん、これ三つ!」


「おう、嬢ちゃんか! ひとつ20ルドだから、60ルドだな!」


 それを聞いて、アイリスは高いなと思う。我慢すれば、20ルドで一日以上凌げることもできる。まだ浮浪児の頃の習性が抜けきっていないアイリスは、そんな食べ物に少し忌避感を覚えた。

 だが、べりあるからすればそれは安い金額だ。

 彼女はジャラジャラ音を鳴らす袋を取り出す。中には、沢山の銀貨と銅貨が入っていた。決して幼女が持っていて良い金額ではない。

 その財布の中身にアイリスは驚愕を禁じ得ない。


「べ、べりあるちゃん。それ……」


 アイリスの視線に気づいたべりあるは朗らかに笑う。


「あのなー、モンスターを倒して持ってくとな、お金貰えるんだぞ! な、シェイラ!」


「そうでございますよ! 私もほら!」


 次いで開けられたシェイラの財布にも、べりあるほどとはいかなくとも十分驚くに値する量のお金が入っていた。

 モンスターを狩るのは大の大人でも難しい。それは主に国や地方の騎士、もしくは冒険者が生業とするものだ。それを彼女たちは成し遂げたという。しかも、彼女たちの財布を見る限り一匹や二匹ではない。きっと数え切れないほど沢山狩ったのだろう。

 アイリスは呆然と空を見上げ、彼女たちの保護者に思いを馳せる。


 ――恭平さん、あなたは一体何者なんですか?


 こんな少女たちを抱える彼もきっと異常なのだろう。

 尊敬する人物がますます遠ざかっていったような気がした。





 べりあるは購入した串肉を二人にも渡し、街の空き地でそれを食べながら談笑に興じていた。


 話題は様々だ。

 べりあるはアイリスに問われ恭平のことを語り、彼の行動を理解できるアイリスは素直に尊敬の念を抱く。

 シェイラは己が主人である忍者を熱く語り、正体(ロリコン)を看破したアイリスを大いにドン引かせる。

 アイリスは二人がいない間孤児院で起きた面白い話や、興味のある男の子の話題を振ったりする。もっとも、後者の話は二人の友人には理解できないのだが。


 そうして時は過ぎていく。

 楽しい時間ほど早く過ぎるもので、時刻はあっという間に夕方になった。

 夕陽が沈んでいく様相を見て、べりあるとシェイラはいつものようにアイリスを孤児院まで送り届ける。


「じゃあなアイちゃん! また明日!」


「また明日なのでございますよ!」


「うん! 二人とも、また明日ね!」


 まだ遊びたい気持ちを抑え、入り口で別れを告げると、二人は街の郊外まで歩き人気のないところで立ち止まる。

 シェイラが辺りに人がいないことを確認すると、べりあるは瞬時に身をグリフォンの巨躯へと変じた。

 シェイラが騎乗したのを見届け、べりあるは沈む夕空に向かって飛び立つ。

 凄まじい速度で過ぎていく景色を背に、ぽつりとシェイラが呟く。


「楽しかったでございますね」


「おう! すげー楽しかったな!」


 べりあるの返答は明るいものだった。

 一拍置いてべりあるは続ける。


「また明日も楽しいといいな!」


「そうでございますね!」


 シェイラも心の底からそう願った。



 これはそんな彼女たちの日常。

 べりあるにとって、掛け替えのない一日なのだった。

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