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70 邂逅

「あれって恭平のおかげだったんだな!」


「ああ、感謝しろよ?」


「おう! あんがと!」


「どういたしまして」


「あたしのためにももっと狩ってくれよな!」


「いやお前も手伝えよ」


 僕らは言葉を交わしながらのんびりと谷の中を歩いていく。

 僕によって破壊しつくされた光景は既に途切れ、今は無骨な石壁に囲まれている。

 空を切り取るように聳える石壁は高く、とてもよじ登れそうにはない。飛行手段をもっていないと脱出は厳しいだろう。

 まあ、僕と忍者はそれをもっているわけだし、万が一何かあっても峡谷を破壊すれば済む話だ。


「なあ恭平。あたしたち歩いてていいのか?」


「影宮のことなら大丈夫だ」


 魔眼で忍者の位置は把握しているので、そう焦ることもない。

 僕はハイエーテルの瓶に口をつけながら答えた。

 もちろん、べりあるにもエーテルは渡している。そのおかげで彼女はとても機嫌がいい。


「影宮は強いのか?」


「ユニークスキルがあるんだから楽勝なんじゃないかな」


 何か忘れているような気がするけど、まあ気のせいだろう。

 やがて数分もしないうちに忍者がいる場所に到着。

 そこで見た光景はあまりにも情けないものだった。


「ああぁぁぁぁ! 死ぬ! 死ぬ! これ無理だって!」


「影宮?」


 忍者がキャラを崩壊させながらドラゴンから逃げ回っていた。

 そこで僕は漸く思い出す。


「そういえば、影宮のユニークスキル封印したままだったな」


「そうでござるよぉぉぉぉぉ! 早く解いてぇぇぇぇ!」


「まあ、もういいだろ」


 僕はもう十分に影宮のことを信頼できる。

 彼のユニークスキルを縛ることは彼にとっても僕にとっても不利益にしかならない。

 僕は断罪の剣を手に取ると、影宮に向かって投擲した。

 トスッという擬音がぴったりな刺さり方。影宮が瞠目する。


「【断罪の剣】、封印を解除しろ」


 剣が紅く輝き、忍者の瞳に活力が戻る。

 忍者がユニークスキルを取り戻した。

 その事実が彼の胸中の恐怖を払拭し、歓喜で満たす。

 僕は忍者の体から剣を消すと、口許に笑みを浮かべながら尋ねる。   


「手助けいる?」


「無用でござる」


 忍者は腰から二刀の短刀を引き抜くと獰猛な笑みを浮かべた。

 逆手に握られた二刀の短刀の刃は暗闇を連想させるように黒い。素人目でも、それが特殊な武器だということが分かる。

 忍者が構えたのも束の間、即座にドラゴンが襲いかかってきた。

 相手は先程僕が狩った赤龍と同種の個体。全身を硬い鱗で覆っており、頭部には凶悪な角が二対生えている。

 レベルこそ僕が狩ったドラゴンには劣るものの、その見る者を畏怖させる圧倒的な偉容は変わらない。

 本来なら高ランクの冒険者達が束になってやっと勝利の目が見えてくる相手。それを忍者はどうやって一人で相手するのか。

 目を血走らせ、豪腕から伸びる鋭利な爪を振り下ろしてくる赤龍に動じずに、忍者はただ静謐な双眸を向ける。

 刹那、その体が掻き消えた。


「グルッ!?」


 豪腕が地を破砕し、礫が飛び散る。

 僕らに飛来してきた礫は全て断罪の盾に弾かれた。

 だが、防御スキルのない忍者は無事じゃ済まないはずだ。


「恭平! あそこ!」


 べりあるの指差す方に目を向け、僕は心配はいらなかったことを悟った。


「『影刃』!」


 中空に身を踊らす忍者が体を捩りながら右翼の付け根に短刀を振り下ろす。

 短刀は相当な業物なのか、あっさりと翼を赤龍から斬り取った。  


「ガアアアァァァッ!?」


 背後からの急襲に赤龍が悲鳴を上げる。

 右翼があった場所からは雨のように血が噴出し、見てる方も痛みを覚えるほど。

 慟哭する赤龍は身を掻き抱くように、爪を背部にいる忍者に突き立てようとする。

 しかし、またしても彼の姿は陽炎のように消え赤龍の爪は虚空を抉った。

 その一瞬の虚を突いて、忍者が左翼手前の空間に出現する。 


「『影刃』!」


 二刀の刃が漆黒の闇を纏い、翼を刈り取る。

 大量の出血。血が空を紅く染めんばかりに露出する。

 翼を失い、蜥蜴となったドラゴンは痛みに悶えのたうち回り無様を晒す。

 完全に隙だらけの赤龍、その喉元に転移した忍者は容赦なく短刀を振りかぶった。


「『影十字』!」


 一閃、二閃と忍者の短刀が仄暗く煌く。

 刹那の間に行われた攻撃は赤龍に十字型の瘢痕を刻み命を奪った。

 ドスンと、空虚な地響きを残して巨体が地に臥す。


「ふぅー」


 忍者が息をつく。

 既に死亡は確認したようだ。


「恭平殿、拙者の戦いぶりはどうでござった?」


 短刀を仕舞いながら、忍者が尋ねてきた。

 正直に言わせてもらおう。


「お前、容赦ないな……」  


 コイツは敵に回したくないな。

 僕は心底そう思ったのだった。 

  

 



 忍者の一方的な戦いが終わり、時刻が昼前に差し掛かっていたこともあって僕らは街に帰ることにした。

 戦果は忍者が一体、僕が三体。

 戦闘よりもドラゴンの亡骸を埋める作業の方が大変だった。

 経験値は三人で分配されたため、あまりレベルは上がらなかった模様。

 因みに、不動さんの召喚獣は結界を張っただけで特に何もしなかった。

 本人曰く、


「戦闘? そんな野蛮なことをしたらヴォクが汚れてしまうだろ?」


 ウザイことこの上ない。

 というか、既に内面が穢れているので今更何を? という感じだ。

 そんなクオルラだが、召喚獣は愛莉の冥爛と違い制限時間があるようで帰路は急ぐ形となった。


 街に着いたのは正午の頃で、忍者は即座に冒険者ギルドへ素材を売却しに、僕は不動さんにべりあるを預け街で一番大きい商会、満腹商会に足を運んでいた。

 そこで僕は思わぬ人と再会することになる。


「ごめんくださーい」


 一声掛けて屋内に入ると、そこは喧騒の嵐だった。

 種々雑多な商人然とした人達がテーブル越しに顔を付き合わせ取引を行っていたのだ。

 その中で、僕はどこか既視感を覚える人を見つけた。

 恰幅のいい体に人の良さそうな柔和な笑み。以前見たときとなんら変わっていない。


「!?」


 凝視するあまり視線が合い、彼は若干驚きつつも駆け寄ってきた。


「これはこれは、柊さんじゃありませんか!」


「お久しぶりです、オットマルさん」


 オットマルさん。以前僕が帝国で指名手配されていた時、僕が街から逃げ出すのを手伝ってくれた商人だ。


「まさかこんなところで会うなんて、思いもよりませんでしたよ」


「それは私もですよ。柊さんは大丈夫なんですか?」


 それは、僕が指名手配されている件についてだろう。

 今のところ、王国に指名手配状はない。少なくとも、帝国が勇者の存在を露見するまでは手配状が王国に及ぶことはない筈だ。


「僕は今王国に保護されている日本人の方と同行していまして、王都まで行き国王に保護してもらおうと思ってます。元が冤罪ですからね」


 罪は罪だが、やられたことを考えると僕の方に分がある。

 だが、敢えて言う必要はないだろう。

 オットマルさんは僕の言い分に納得してくれたようだった。


「そうですか。では、本日は私の商会に何の御用でしょうか?」


「ああ、素材の売却を――って、ここオットマルさんの店なんですか!?」


「ええ、まあ支店ですがね。本店は王都の方にありますよ。帝国には仕入れに行っていただけです」


 これは驚いたな……。まさか、この人がそんな大物だったなんて。

 満腹商会だったっけ? 確かにこの人らしい店名だ。


「えー、素材の売却でしたっけ? こちらにどうぞ」


 立ち話もなんですので。と、オットマルさんに誘導されて店内のカウンターへと案内される。

 僕は備え付けの椅子に座るように促され、カウンター越しに会話を続ける。


「ええ、土龍の素材を買い取って頂きたくて。一体ですけど」


「ドラゴンですか……! まあ、でも日本人の方なら有り得ない話ではないですね」


 取り敢えず、土龍一匹だけ売ることにする。残りの二体はいつか使うかもしれないから取っておく。

 僕は魔法の鞄(マジックバッグ)から素材を取り出す振りをして、アイテムボックスから土龍の素材一式をカウンターに並べていった。


「鑑定に少々お時間をもらいますが、よろしいですか?」


「はい」


 オットマルさんがモノクルらしきものを取り出し、丁寧に素材を見ていく。

 僕はそれを尻目に勇者の窓でドロップ品を確かめていた。

 三体も倒したからか、素材の中に少し装備が混じっている。

 爆炎の剣、土龍の長杖の二つだ。後者は今使っている妖精の短杖より性能がいい。取り替えておこう。剣はべりあるにでも渡しておくとして、要らなくなった妖精の短杖は売り払ってしまおうか。

 いや、手頃なサイズだから取っておいておこう。


 それよりも、念願のドラゴンの血液が手に入ったんだ。これで万能薬を作ることができる。

 オットマルさんの鑑定もまだ時間が掛かりそうだし、薬作りにでも勤しむか。

 そう思い、万能薬を作り始めて十数分。出来上がった万能薬の品質は良。初めてにしては上出来だ。

 僕が万能薬をアイテムボックスを仕舞おうとすると、オットマルさんがこちらを凝視していたのに気付いた。


「えーと、どうしました?」


「柊さん、他に何か錬金したものはありますか?」


「……? エーテルとかポーションでいいんなら」


 アイテムボックスの肥やしになっていたエーテル、ポーション、ハイエーテル、ハイポーションをそれぞれ数十本取り出す。

 それらを手にとったオットマルさんの手が震えていた。


「こ、これはハイエーテル……!? しかも品質が極良!?」


「そんなに驚くことなんですか?」


 そんなのでいいんならアイテムボックスに腐るほどある。

 僕は驚くオットマルさんに首を傾げ、万能薬の生成を続ける。

 一度作成を成功させたら次は早い。五分くらいで二本できた。品質は二本とも良。

 万能薬の効果はMP、HPの全回復。致命傷でさえも回復させる代物だ。だが、四肢欠損を回復させ、ありとあらゆる病魔を退けるというエリクサーには及ばない。せいぜい劣化エリクサーといったところだ。    


「おお!? これは、万能薬!?」


 驚きすぎだろおっさん。

 というか、まだ土龍の鑑定終わってないよね? できればそっちの方を先に終えてもらいたい。


「柊さん! これらを売ってもらえませんか!?」


「え、ええ? 万能薬は無理ですけど、それ以外なら……。っていうか、こんなの大した価値ないですよ?」


 そう言うと、オットマルさんは拳を握り締め力説した。


「何をおっしゃいますか! これらの薬品の方がドラゴンの素材よりよっぽど価値がありますよ!」


「ええー」


 嘘でしょ……。こんな退屈しのぎに作ったものがドラゴンの素材より高価? 


 オットマルさん曰く、錬金術師は絶対数が少なく流通しているポーションやエーテルの品質は押し並べて並。品質が悪くても売れてしまうほど数が少ない。

 それに加えて、最近は何故か国がポーション類を買収し始めていて数が少ない薬品が更に数を減らしているのだという。

 要するに、この世界において錬金術師はレア職で薬品類は稀少だということだ。

 その中で、僕の保持している薬は品質が良く、あまり目にすることがないハイエーテルやハイポーションを腐るほど持っているのだからオットマルさんが食いつくのも自明の理というわけだ。

 万能薬なんかは伝説級の薬らしいけど、これは生成できる数が少ないから売れない。

 でも、他の物については売れるわけで……。


「ドラゴンの素材より高価というのは言い過ぎましたけど、稀少なのは確かです。ハイエーテルやハイポーションに関してはドラゴンの素材と同等といって差し支えない値がつきますね」


「じゃあ、売ります」


 僕はアイテムボックスに眠っていた薬品類を百単位で出しながら言った。

 オットマルさんが絶句した。


「あ……。それじゃあ、エーテルやポーションはひとつあたり1万ルド、ハイエーテルやハイポーションは3万ルドずつでどうでしょう?」 


「は、ハハハ……」


 もうね、なんか笑えてくる。

 オットマルさんが言うだけの大金が手に入れば奴隷なんて幾らでも買えてしまう。

 あ、奴隷といえば……。


「オットマルさん。ひとつ頼みたいことがあるんですけど……」


「……ええ、それならお安い御用です」


 僕はオットマルさんにあることをお願いした。

 それを快く引き受けてくれるあたり、オットマルさんはやはり良い人なのだろう。

 僕は売却を終えると、オットマルさんと共に街のスラムに向けて歩き出した。

 




 そして夜はやってくる。

 時刻は十時前。

 僕と忍者、不動さんとべりあるは闇オークションの会場に来ていた。

 エントリーフィーを払い、カタログを貰うと地下に向かう。

 お互いの素性を明かさないためか、仮面の着用を義務付けられた。


「広いな……」


 オークション会場の地下。そこは僕が想像していたより遥かに広大な場所だった。

 最奥に円形の舞台があり、それを起点に無数に座席が配置されている。扇形の会場だ。

 如何にもオークションっぽい感じで、不思議と高揚感を覚える。

 僕らが指定された座席に座ると、丁度ステージにスポットライトが当たり舞台の中心に立つ人物が浮き彫りになった。

 司会と思しき人物は、マイクのような物を握りしめ声を張り上げる。


「レディース、エーンドジェントルメン! 紳士淑女のみなさん、道化の社交場へようこそ! お金の用意はできていますか? 今夜も沢山買っていって下さいね!」


 司会者の顔にはピエロの仮面が張り付いていた。

 なるほど、それで道化っていうわけか。


「落札の際はバニーガール達が配っているプラカードに金額を記入して、私に見えるように上げて下さい!」


 司会者の言葉が会場内に響き渡る。何らかの魔法を行使してるみたいだ。

 僕らもバニーガールからプラカードを受け取り、自前のペンを取り出して準備を完了させる。

 司会者は一面を見回し、客が準備出来ているかどうか確認してから再びマイクに口を付けた。


「それでは、オークションを開始致します!」


 その言葉に、忍者がギュッとプラカードを握り締めた。

 さあ、パーティーの始まりだ。

久しぶりに隔日更新ができました……。

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