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07 迷宮へ

 分岐の先は階下へと繋がる階段だった。降りた先に広がっていたのはあまりにも広大な迷宮。

 明らかに、レベル1の勇者が踏み込んではいけない場所だ。

 天井があるはずの位置には何故か太陽があり、洞窟内にも関わらず周囲を明るく照らしている。


 ――夕刻まで出てくるな、男はそう言った。彼はきっとこのことを知っていたのだろう。

 僕は落ち着いて周りを見回す。

 ここが迷宮ということは、ここには魔物が出てくるということになる。この迷宮の難度がどれほどのものかは知らないが、レベル1の僕らからしたら難易度EASIEST(超簡単)ですら脅威に値する。


 僕は鑑定を発動して迷宮の構造の把握に努める。

 壁は石造り。地面は土だが、硬い。いずれにせよ、今のレベルでは壁や地面を砕くなんて超人じみたことは不可能だ。


 迷宮は複雑に入り組んでおり、マッピングは必須とみた。同じような道が幾重にも分岐しており、気を付けないと方向感覚を失ってしまいそうだ。それに加え死角も多い。不意打ちの危険性が高いので、注意を怠れない。

 だが幸い、道幅は広いので一行が横に広がって歩けるくらいはある。


「恭平、やる気か?」


 これからのことに思惟していると、慎太が不安気に尋ねてきた。こいつにしては珍しい。

 一回制裁を受けたことが堪えているのだろう。慎太がそのようでは、僕としても困る。それは攻略の為というのもあるけど、何よりも友人としてだ。


「あれ? 一回ダメージを喰らっただけで不安になったの?」


 だから僕は茶化す。精一杯の皮肉と嫌味でこいつの不安を払拭してやる。


「んなわけねーだろ」


「だよね」


 慎太はいつも通り不敵に笑った。それでこそ慎太だ。

 僕は先の質問に答える。


「やる気もなにも、ねぇ……?」


「ああ、俺たちは攻略せざるを得ない」


 そもそも、初めから僕たちに選択肢などない。生殺与奪の権利があちらにある以上、僕らは従順に言うことを聞かなければならない。それがたとえ、どんなに過酷なものであっても。


「さしあたっては、レベルを上げたいところだね」


「このレベルじゃ魔物を倒せるかどうか怪しいな。それに、他のクラスメイトの奴らはまだ『勇者の窓』に気付いてねーみたいだし。どうする、教えてやるか?」


 慎太が隅で縮こまり震える連中を見て言う。その顔に嘲りの色はない、彼は真剣に現状を判断している。


 どうやら思った以上に、みんな『勇者の窓』に気付いていないみたいだ。これが使えないと何もならないので、ここは慎太の言う通り知らせるべきなのだろうか。


「……そうだね。あとでみんなに教えておこう」


「いいのか?」


「正直、教えたら姫が何をしでかすか分からないし、心証的にも教えたくはないんだけど……。でも、だからといって見殺しにしていいわけじゃない。それに、クラスのみんなにも教えなきゃ自分の身を守ることすらできないしね」


「そうだな。俺も姫に教えるのは躊躇われるが、みんなに教えないわけにもいかないしな」


 正直、ステータスを見て不審に思えば直ぐに辿りつけるはずなんだけど……。そんなことを考える余裕はないのが現状だ。僕らは運が良かったということなのだろう。


「まずは皆月さんに教えようか。彼女は僕らを守ろうとしてくれたし」


「いや、その前に。もうひとつ問題があるだろ?」


 『勇者の窓』を教えた後のことかな。 

 初期のスキルポイントは5つしかないしステータスが弱いんじゃ話にならない。

 となると、


「レベルの上げ方かな?」


 それについては考えてある。


「そうだ。レベル1が勝てる相手なんてスライムくらいだぜ?」


「君は一生最初の村をうろついていればいいよ。僕はそうは思わないから」


「はぁ、なんで? 物量作戦か? 死者が出るぞ?」


 こいつ何ってんの、って顔をしている。なんか腹立つな。


「そんな下策を使う気はない。慎太、君はRPGで新しいキャラを育成する際、装備はどうしてる?」


「いや、もちろん装備出来る中で一番強いのつけるけどって、ああそうか」


 どうやら気付いたようだ。

 ゲームによっては装備に制限が掛かるものもあるが、大抵初期の装備より大分マシなものを装備できるだろう。装備の格が上がれば、単純にレベルが上がるよりも強くなれる。何も今の貧弱な装備でいる必要はない。


 ここは迷宮ダンジョンだ。迷宮ダンジョンには宝箱が付き物だろう。そこでマシな装備さえ手に入れば少しは戦えるようになるはずだ。


「でも、こんなとこに宝箱なんてあんのか?」


「ヘルプにあるって書いてあったから大丈夫だと思う。問題は、アタリを引けるかどうか」


 宝箱から出るのは必ずしも装備というわけではない。それに、装備が出ても使えるものでないと話にならない。こう考えると、幾つ開ければいいか分からないな。


「とりあえず、魔物に見つからないように宝箱を探していく他な……」


 その時だった。


「グルルゥ……」


『――!?』


 魔物の声が聞こえた。一同に緊張が走る。

 幸い、魔物はまだ角の向こうにいるようだ。今からでも音をたてずに逃げれば……!


「キャーーーーーー!!」


「ばっ、馬鹿!」


 クラスメイトの誰かが悲鳴を上げた。その声に反応して魔物がこちらにやってくる!

 混乱と動揺が入り混じり阿鼻叫喚の図を露呈する。

 逃げ惑う群衆の中に皆月さんを見つけて閃いた。


「皆月さん!」


「ひっ! 柊くん! 何してるの、早く逃げなきゃ!」


「皆月さん! 今から僕の言うことを何も考えずに実行してくれ!」


 彼女の言葉を無視して一方的に怒鳴りたてる。

 一瞬目を丸くした皆月さんは僕のただならぬ雰囲気を察知したのか、次の瞬間にはしきりに首肯していた。


「よし、じゃあ目を閉じて『勇者の窓』って念じて見て。それで魔法の項目から取得可能な魔法を検索、『キュア』を取得して!」


「う、うん!」


「慎太!」


 次いで僕は慎太を見る。慎太は僕が何を言うか分かっているようだった。

 僕ははっきりと告げた。


「三人で、撃退する!」

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