66 奴隷の価値
闇オークション。そこでは盗品を始めとした、ありとあらゆる非合法なものが売買されている。
市販を禁じられた薬、魔術書、武器、その例は尽きない。
だが、一部合法なものも売っている。
それが奴隷。
表裏に関わらず、オークションでは大きな金が動いている。それは国が見過ごせないほどの巨大さで、国益に繋がっているのが事実である以上国はその存在を認めなければならなかった。
オークションの主な商品である奴隷が合法化したのにはそのような理由があった。
無論、国側も苦渋の決断である。奴隷制度は厳しいし、よほどのことがない限り市民は奴隷に転落しない。
しかし、身元の不確かな浮浪児などは足がつきにくいため、よく誘拐されオークションに出品される。
花売りの少女もその例のうちのひとつだ。
最も、彼女が誘拐されたことについては忍者の過度な施しが端を発している可能性がある。
それがただの思い過ごしだという可能性もあるが……。
「もう一度聞く。彼女を助けたいんだな?」
「うむ。無論でござる」
僕も少女に施しをした身なので、多少の罪悪感を感じてはいる。できれば助けたい。だが、それ以上に厄介事に首を突っ込みたくない。
こういった裏社会に関わってもロクなことにならないだろうし、ここのオークションにいる連中も大半が権力者達だ。連中と揉めたら今後大手を振って通りを歩けなくなるかもしれない。
だが、目の前のロリコンはそれでも助けたいと言う。
どんな説得を試みても、彼の決心は揺るがないだろう。
「そうか。でも、どうやって少女を取り戻す?」
「もちろん、そこは殴って言うことをきかせるでござるよ!」
「聡~? それはちょっとマズイんじゃないかしら~?」
「ちょっとどころじゃない。ここにいるのはそれなりに権力を握ってる人達だ。揉めたら火傷するのはこっちだ」
「じゃあ、どうするでござるか!?」
「あんまり大声出すなよ……」
今僕たちがいる場所こそ、話題の闇オークションの会場なのだから。
会場内の構造は単純で、入口に木造りの丸椅子やテーブルが置かれた広間。それに面して受付が配置され、受付の横の扉からはオークションが行われる地下へと続く階段が伸びている。
現在広間にいる僕たちは密かに顔を突き合わせて話していた。
横合いからは、転売目的の商人や金持ちの貴族達が今日は何を買って何を売るだの趣味の悪い話をする声が聞こえる。
どうやらここは、広間というより商談用のスペースみたいだな。
視線を横に逸らしていると、不意に忍者が顔を掴んできた。首がぐりんと曲がり、忍者を見つめる形になる。
「早く幼女を汚らしいロリコンどもの魔手から救い出す方法を教えるでござるよ!」
「君も人のこと言えないだろ。
まあ、それはいいや。方法は簡単だよ。買えばいい」
「……は?」
忍者が固まる。僕が何を言っているか理解できてないみたいだな。
人を金で買うなんて到底理解し難いことだから、理解しない方がいいんだけど。ここではそうも言ってられない。
「だから、その幼女を金で買えばいいんだよ。正攻法なら誰も文句は言えない」
「確かにその通りね~。でも~、私たちはその幼女の名前すら知らないのよ~?」
「それについては彼に聞けばいい」
言った直後に、受付の隣に敷設された扉が開いて一人の男が出てきた。
あの男こそ、花売りの少女を拐かし僕らが追っていた相手。
僕の魔眼は個体毎の魔力を識別できるため、一定の範囲内にいれば誰が何処にいるかなんて直ぐに分かる。既知の人物に限るが。
僕は一人を装って男に話しかける。
「どうも、こんにちは」
「テメーか、俺を追ってきたのは。同業者か?」
「まあ、そんなとこですね」
勘違いしてくれたのなら幸いだ。同業者と思ってくれた方が何かと聞きやすい。
「依頼人は明かせねーぞ。口止めされてるんでな」
「そうですか。こちらの依頼人もあの少女を欲しがっていましてねえ……。何とかお譲りいただけないものかと」
「それは無理な相談だ。とは言え、俺の仕事はここに運んでくるまでだからな。品名くらいは教えてやるよ」
「つまり、欲しかったら買えということですね」
「そういうこったな」
どうやらこの男は依頼されて幼女を誘拐したみたいだ。僕たちがあげたお金が理由じゃない。
それにしても、よくできたシステムだよ。
普通に誘拐すれば犯罪になっても、オークションに出品させて買えば合法化する。
一種のマネーロンダリングみたいなものだ。
「……分かりました。では、少女の名前を教えてもらえますか?」
「品名はシェイラだ。明日の午後10時からの競売に出される」
「なるほど。ありがとうございます」
目礼してから席に戻る。
二人は聞き耳を立てていたらしく、しっかり話の内容を把握していた。
説明する手間が省けた。
「要は、明日の10時にここに来れば良いのでござるな?」
「それで落札~ってわけね~?」
「まあ、そういうことなんだけど。ひとつ、致命的な問題がある」
忍者が不思議そうな顔をして、不動は僕が言わんとすることを理解して苦笑した。
本気で少女を助けようと思っているのは忍者だけで、奴隷を買うのには莫大な金がいる。
それで忍者の財力は如何程か。
「影宮の金が足りない。奴隷を買うには全く足りない」
「えっ? ちょっ、二人も出してくれるのでござろう!?」
「何言ってんの?」
少女が誘拐された理由が僕らにないと分かった時点で助け出す理由もなくなった。
それに、奴隷を買う費用を捻出したら今後の旅費も危うくなる。
わざわざ僕らの身を削る必要はないということだ。
それに、特定の奴隷だけに肩入れするのはどうかとも思う。
「これは聡の問題でしょ~?」
「そ、そうでござるが……」
「あの少女を救いたいって思うなら相応の金を用意しなきゃならない。それを明日までに稼げるかどうか」
「ど、奴隷ってどれくらいするのでござろうか?」
「うーん、どうなんだろうね?」
そこらへんは僕もよくわからない。特殊な技能を持っていたりすると高くなりそうなのは分かるけど。
受付の人から以前行われたオークションのカタログを拝借する。
そこの奴隷の項目にあった値段は、やはりピンからキリまであり一概に断定できない。
例えば、鑑定スキルもちの女性奴隷なら50万ルド(500万円)。戦闘系のスキルをもつ男性奴隷なんかは70万ルド。それも高レベルの奴隷となると120万ルドほどする。
それに比べて、何のスキルもない奴隷なんかだと平均して20~40万ルドほどだ。見目麗しい性奴隷なんかも30万ルドほどで、思ったよりも安い。
「なんというか、性奴隷は高い印象があったのでござるが……」
「全体的に男性の奴隷の方が高いね。この世界における奴隷の価値は、資産価値、労働力で量られているみたいだ。まあ、性奴隷なんて実用性がないしね」
「それでも、スキル持ちの性奴隷は高いみたいだけどね~」
「まあ、これで相場は分かっただろ? あの少女に付けられる値段は恐らく20~40万ルドほど。影宮の現財産が3000ルドと考えると、最低でもあと19万7000ルド稼がないといけない」
日本円にして約197万を一日で稼ぐ。今までの経験則からするとほぼ不可能に近い。
新たな商売を興すにも、魔物を狩って売り飛ばすにもどうにも時間が足りな過ぎる。
それに、197万を稼いでも足りない可能性があるのだ。
ここは諦めるのが得策だろう。
そう告げるがしかし、忍者には諦めるなんていう発想は毛頭ないようだった。
「恭平殿……魔物は魔物でも、相手次第では巨万の富を築くこともできるのでござるよ」
「は?」
強い魔物を相手取ることは分かったが、それを狩ったところで瞬時に巨万の富を得られるとは到底思えない。
僕が魔宮で狩ったボスでさえ、一体辺りの価値は100万ルドに及ばないのだから。
怪訝な顔つきをする僕に、忍者が拳を突き上げて叫んだ。
「ドラゴン狩りじゃあああぁぁぁぁ!!」
「……え?」
コイツが何を言ってるのか一瞬分からなくなった。
もしかすると明日も出せるかもしれません。




