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65 花売り少女

 国境を経て、王国に入って数日。

 辺りは荒い道が続いており、時折車輪が盛大に砂利を踏み跳ねる。

 忍者曰く、この道は随分と長いこと使われていないらしい。

 実際、王国と帝国の間に国を挙げての貿易はなく、有事の際の連絡は飛行生物に乗った速達が伝えるので地上の道は荒れまくるわけだ。

 王国といえども国の端々、特に帝国付近の治安は悪く盗賊に絡まれることも少々。

 それでも人が死んでいく帝国よりかはマシだ。


 そう思惟しながら御者台でべりあるの手綱を握る。ここ数日で僕も馬車を動かせるようになった。

 スキルポイントを消費しなくてもスキルが獲得できるのは良い発見だった。

 ポカポカの陽光を浴びながら手綱を操っていると、不意に前方に何か近づいて来る気配を感じた。 


「テメェら、囲んじまえ!」


 唐突に茂みから現れたのは七人程の男たちだった。

 彼らは各々冒険者から奪い取ったのであろう薄汚いプレートアーマーを装備し、カトラスを構えている。

 紛れもなく盗賊だ。

 ここ数日で三度目だよ。

 一応べりあるは下級とはいえドラゴンに変身しているので、人よけにはなるかと思ってたんだけどな。どうやら、かえって小金もちの行商に見えているようだ。

 盗賊たちは馬車の四方八方を囲み下卑た笑みを浮かべている。


「恭平殿、また盗賊でござるか?」


「そうだよ。面倒くさいことこの上ない」


 思わず溜め息を吐く。

 その仕草に頭に血が上ったのか、盗賊の頭首と思しき男が曲刀の切っ先を突きつけてくる。


「いいかぁ? 耳かっぽじってよく聞けや。有り金全部置いてったら見逃してやる。さもなくば、死だ」  


「あのね、それこっちの台詞だよ」


「あ゛ぁ!?」


 瞬間、頭首の首が刎ねた。

 詠唱破棄により発動された魔法が一瞬にして男の命を奪ったのだ。

 傍目から見れば何が起こったのかわからない。だが、自分たちのリーダーが瞬殺されたのは分かったらしい。

 その事実の前に残りの六人が震える。


「お頭さんに代わってもう一回言うね」


 僕は笑顔で告げる。


「テメーらの全財産ここに置いていけ。さもなくば殺す」 


 彼らの最大の不運は僕らに出会ってしまったことだ。







「占めて15000ルドか。日本円にして15万円ほど。シケてんなぁ……」


「まあ、良い方だと思うでござるよ」


 盗賊たちの装備と有り金全部ボッシュートした後、おおよその価格を鑑定した結果がコレだった。

 七人分の資産が15万って微妙だな。全身装備で固めてたのに。


「旅を続けるのにもお金がいる。幾らあっても足りないよ」


「そうでござるな。瀬奈、あとどれくらいで次の街に着くでござるか?」


「そうね~。あと一時間ってところかしら」


 外の景色はあまり変わらない。二人と旅を始めてから二日ほどで僕は窓の外を見るのをやめるようになった。延々と続く森林を見続けるのは苦行にも等しい。


「そういえば恭平殿。恭平殿は元の世界に帰らないでござるか?」


 ふと忍者が尋ねてきた。

 それについては初日に答えが出ていたような。


「帰らないよ。元の世界に戻ったところで普通の人生を送るのが関の山。なら僕はこっちで自由に好きなように暮らす」


 もちろん、殺した分だけ報いを受ける。今それを言ったところで空気を重くするだけだから言わないけど。


「逆にござっふーや女王様はどうなの?」


「ござっふーはやめてほしいでござる。拙者も瀬奈女王様も帰らないでござるよ。元の世界に戻っても決して馴染めないだろうし、罪を雪げなくなるでござる」


「そうか……」


 やっぱり二人も自分なりに考えを纏めてるんだな。

 元の生活に戻れないのは僕も同じだ。なんだか共感してしまい、場の空気が重くなる。


「まあ、拙者も瀬奈女王様も色々考えてるってことでござるよ」


「ちょっと~、女王様は夜の時だけって言ったでしょ~?」


「あ、すいませんでした」


「おい忍者、キャラ忘れてるぞ」


 忍者は良いこと言う端から駄目になってる気がする。

 っていうか、やっぱキャラ付けしてたのか。


「……暇だな」


「暇でござるな」


 こうやってずっと馬車に揺られていると、どうしても時間を持て余すことが多々ある。

 同じメンバーと会話していてもやがて話の種は尽きるし、次第にどうでもいい話しかしなくなる。

 べりあるがいればイジって遊べるんだが、生憎彼女は僕と違って暇じゃない。


「……しりとりでもする?」


「絶対負けるでござるよ。恭平殿の『り』攻めはしつこいでござる。じゃんけんはどうでござろうか?」


「それは影宮の方が強いじゃん」


「じゃんけんは動体視力が全てでござる」


「じゃあ~、柊君は私と一緒に鞭を使った大人の遊びを――」


「全力で遠慮します」


 僕は自分で人権を放棄するような馬鹿じゃない。


「どうでもいいんだけどさ、僕以外のここにいる人って全員キャラ濃いよね」 


「それはどういうことでござるか?」


「いや、キャラっていうか属性なんだけど。影宮だったら忍者、ドM、ロリコン。不動さんはおっとり、ドS、女王様。べりあるは悪魔、アホ、幼女じゃん」


「んー、確かに言えてるでござるが……」


 影宮がじーっとこちらを見つめてくる。

 何か不満げな表情だ。


「恭平殿の方が属性あると思うでござるよ。魔眼、厨二、勇者、頭脳派、ボクっ子、色々」


「僕がボクっ子なんて気持ち悪いにも程がある。あと、頭脳派も違うぞ。僕は記憶力いいだけだから」


「他は認めるということでござるか」


「二人共、そろそろ着くわよー」


 大体いつもこんなくだらない会話をしている内に時間は過ぎていく。

 御者台にいる不動さんも余裕があるくらいだし、案外旅なんてどうにでもなる。

 どうとでもなるはずなのに……。

 この時、僕は何故か妙な悪寒を覚えていた。






 これといった特徴もない街、イブリッヒ。

 僕らは物資の補給と今夜の寝床を探すために立ち寄っていた。

 時刻は既に夜に近い。

 陽が沈み始めた頃合に、入口で僕らを迎えてくれたのは一人の少女だった。


「あ、あのっ。花……買って頂けませんか?」


 ふと視線を落とすと、そこには粗末な服を纏った少女がいた。

 顔は煤け、髪はボサボサで、摘んできたと思われる花を傍らの籠に引っさげて、上目遣いで尋ねてくる。

 こんな辺境の街にいる以上、生活も豊かではないのだろう。

 年の頃は11程だろうか。頭上の猫耳をピョコピョコさせて花を突き出してくる。


 王国では人間主義の帝国と違い、獣人という者達が存在する。別称を亜人と言い、彼らの特徴として動物的な体部が挙げられる。風貌が違うというだけで、人とあまり大差はない。

 目の前にいる少女は猫の獣人のようだ。

 僕は懐から1000ルド程取り出し、少女の手に握らせた。


「これで足りるかな?」


「わっ! こ、こんなに良いのでございますか!」


 どうやら僕は情に弱いらしい。

 だが、僕よりも情……というよりか幼い少女に弱い奴がいる。

 彼は財布を取り出し僕より一歩前に歩み出る。


「あ、貴方様も買ってくださるのでございますね?」


「これで足りるでござろうか?」


 言うなり、彼は財布の中身を全て少女の手にぶちまけた。


「わっ、こ、溢れちゃうでございます!」


 ザッと見積もっただけでも50000ルドほど(50万円)ある。

 銀貨や銅貨が少女の手から溢れ、街路に落ちていく。

 格好つけたかっただけなんだろうけど、ぶっちゃけ財布渡せば良かったんじゃね?


「幼女は世界の宝でござる!」


 彼……ロリコン忍者影宮は親指を立て笑みを浮かべると、夕闇に染まる街中に溶け込んでいった。

 少女は何やら感銘を受けた様子だったが、僕らからすると何を言ってるのか理解できない。

 因みに、落ちたお金は僕と不動さん、花売りの少女とで回収しておいた。

 





「恭平殿、お金貸してほしいでござる……」


「自業自得だろ」


 買い出しが終わり宿代の話になった時、唐突に影宮が金を貸してくれとせがんできた。

 予想通り、さっき少女に渡したお金が全てだったようだ。


「恭平どのぉぉぉ」


「あーもう足を引っ張るな! 分かった、貸すから!」


 最終的に、僕は足に縋り付いてきた影宮に負けてお金を貸してしまった。もう戻ってこないと考えた方がいいかもしれない。


 僕らは基本宿代を割り勘する。男女共にいるから大部屋ってわけにいかないし、食事は個々で食べる量も違ってくる。日本みたいに別途で料金が払えない以上、(というか内訳が見れない)一括して払うしかなく自然と割り勘することになる。

 必然的にお金が入用になる以上、影宮の金銭不足はこの先深刻な問題になるだろう。

 ひとまず僕は3000ルドほど貸しておくことにした。


「今夜はあの宿にするかな」


 なんて言って歩いていた矢先。


「恭平殿!」


 不意に、視界に二つの影が過ぎった。

 ひとつは大柄な男の姿。もう一人は、さっきの花売りの少女。

 男は少女を抱え、外見からじゃ想像できないような速度で路地裏を駆けていく。

 僕らじゃなかったら気づかなかった。それほど素早いと思わせる動き。

 だが、僕らなら追えないことはない。


「何がなんだかよくわからないけど、二人共、追いかけるよ!」


「もちろんでござる!」


「行くわよ~」


 随分と距離を離されてしまっているが、僕は男の魔力を感知できるので視界にいなくとも問題はない。

 少なくとも、まだ感知できる距離にいる。

 僕らは裏路地だけでなく大通りを経由して男を追いかける。単純なステータス差もあってか、すぐに追いつけそうだ。


「二人共、あと少しで追いつけ……」


 追いつけると言おうとした瞬間、それまで活発的に動いていた男の動きが止まった。

 数瞬止まったかと思うと、今度は遅々とした速度で進んでいく。

 どうやら屋内に入ったらしいな。


「――ここか!」


 それから一分もしないうちに男が足を止めた地点に到達した。

 どういうわけか知らないが、少女を誘拐するのは犯罪だ。僕らが大金をあげたことで巻き込まれた可能性がある以上、放ってはおけない。

 兎に角、一度事情を聞こう。

 と、そこで僕らは顔を上げて……事情を理解した。


「『闇オークション会場』か……」


「まさか、まさかとは思うでござるが……」


 僕は忍者の問いを否定することができない。

 その予想は正しい。


「彼女は奴隷にされるってことだろうな」


 僕はギリっと歯噛みした。

奴隷云々はすぐ終わります。

今回の目的は、奴隷を買って所有することではなくて解放することなので面倒な感じにはなりません。

ハーレム展開ではないので悪しからず。

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