64 不動の本性
今話には少し過激(?)な描写が含まれています。
実のところ、ここの国境で検問くらいはあるだろうと予測はしていた。
帝国にとって、僕が王国へ行かれるのはマズイ。だが、王国に斥候など放ったら王国に弱みを握られるかもしれない。だから、王国へ渡るのに必ず通る場所に兵を配置し自国にいる内に処分しようとする。
それは分かる。だが、まさかグライン将軍が居るとは思わなかった。
今までの旅程の速度から鑑みれば、帝国は僕が脱獄した一両日中にグラインをここに派遣したことになる。たった二人しかいない将軍の一人をだ。そんなことをしたら帝都の戦力が薄くなるというのに。
検問があることは想定していたので、通行証以外の準備もしてある。しかし、それがグラインに通じなかった場合は人を呼ばれる前に殺さないといけない。
グライン相手にそれはほぼ不可能といっていい。
僕は緊張のあまりゴクリと唾を嚥下する。
バレたら僕が国境を通った痕跡が残る。帝国が勇者を公表した場合、王国に構う必要がなくなるので、僕が王国に居ると知られると追っ手が掛かることになる。
皇帝が勇者の軍隊をつくると言っていた以上、今はなくともいずれ勇者の存在が表沙汰になるのは確かだ。
兎に角、ここで見つかるのはマズイ。
影宮達を完全に信用したわけでないので、転移の封印は解除できない。
だから、今はこのまま乗り切るしかない。
「では、中を見させて頂く」
グラインが馬車の中に顔を覗かせ、その視線が僕に止まる。
僕は背筋に冷えたものを感じながら、ゆっくりと立ち上がる。
「不審物等は見当たりませんでした。特に問題はないかと」
そのまま敬礼し、グラインの顔を窺う。
彼は僕の正体に気付くことなく、鷹揚に頷き通行を許可した。
「了解した。通ってよし」
グラインの顔が消えて、僕は胸を撫で下ろす。
「いやー、こうも上手くいくとは思わなかったでござるよ」
「ハァ……。僕もだよ」
「古典的だが、良い案でござったな」
影宮は鎧姿の僕を見ながら笑った。
僕は兜を外し、深くを息を吐いたのだった。
僕がやったことは至極単純だ。
帝国兵の鎧を奪取して装備しただけ。
ここ帝国に置いては、将軍以外の軍人は帝国お達しの正式装備を着用する義務が課せられている。装備の質は階級毎に違えど、大方装備は統一されていると言っていい。
戦士なら兜と鎧を。魔術師ならばローブが下賜される。
僕は影宮に頼んで国境に先行してもらい、戦士の装備一式を調達してもらった。追い剥ぎにあった風に見せかけるよう厳命するのを忘れずに。
そうして装備を着用してから、検問を受けるまで馬車で待機していたわけだ。あたかも車内を検査していた振りをして。
バレなくてよかった……。
こうして、僕らはいとも簡単に王国に到達したのだった。
二人と馬車で旅をしていて良かったと思うことが幾つかある。
それは情報だったり環境だったりと色々あるが、その最たるものは食事だ。
僕がべりあると二人で居た時はクソまずい飯しか食わせられなかったが、不動のおかげで美味しい食事にありつけることができた。べりあるがむしゃぶりつきながら、僕の料理の腕前をディスってきたことを覚えている。
二人のことは一応信頼はしているつもりだ。だが、疑心暗鬼な僕はどうにも警戒心を拭うことができず寝所は別々にしている。
二人は車内で、僕とべりあるは外でだ。
寝袋にくるまりながら、これからのことを考えていると隣でガチガチと歯を鳴らす音が聞こえてきた。
「さ、寒いぞ……寒いぞおおぉぉぉ!!」
「悪魔なら我慢して寝ろ」
べりあるが空き瓶を握り締め震えている。
僕は溜め息をつくと、アイテムボックスから魔物の毛皮を取り出してべりあるに被せた。
「く、くせぇ……。でもあったけえな!」
べりあるはそう言うと、ふごふご鼻を鳴らしながら泥のように寝入った。
こいつは寝ぞうがクソ悪いので、僕は今のうちに距離をとる。
以前鳩尾に蹴りを入れられた時は殺そうかと思った。
ふと、影宮と不動が馬車にいることを思い出す。
ああいう年頃の二人が同じ場所で寝るのは如何なものだろうか。それとも、二人は既にそういう関係なのか。
なんだか愛莉のことを思い出してしまい、いたたまれなくなる。
……早く王都に向かわないと。
寝返りをうって、視線を馬車に向けると明かりが点いているのが見えた。
この世界には電球なんてものはないが、魔力を流すことで特別な効果を発揮する魔具がある。馬車に取り付けられているのは、単に光を発するもので値段も安い。
いや、そんなことは兎も角。まだ寝てないのか。
そう思い、視線を外そうとした瞬間。なんだか妙に艶かしい声が耳朶に触れた。
「……え?」
耳を澄ます。
「……んっ、あっ……はぅ」
「ん? ん? んんんん?」
え、ナニコレ?
つまり二人ってそういう関係だったの?
「……聞かなかったことにしよう」
ここは何も知らない振りをして寝てしまうのが良策だ。
視線を外し、瞼を閉じる。
「……………………寝れない」
気になりすぎて寝れない。
そういうことは人が寝てるのを確認してからしてくれよ!
僕へのあてつけか、畜生!
「……少し覗いてみるか」
まだ二人がそういう関係かは確定してない。
確かめなくては……今後の精神衛生上のためにも。
そろりそろりと音をたてないようにして馬車に忍び寄る。
幌を少しだけ剥がし、視線を車内に落とす。すると、そこには思いもよらない光景が広がっていた。
「ほらぁ! もっといい声で鳴けやコラ!」
「んっ! あっ! ぶひぃぃぃぃ!」
「SM……だと!?」
眼前に広がっていた光景は、酷く異質なものだった。
狂気の笑みを浮かべ鞭を振るう者、踏みつけられながら鞭に打たれ嬌声を上げる者。
ドSとドMのの狂乱の宴。
ぶっちゃけ、ドン引きだった。
「このクソ忍者が! てめぇみたいなクソ虫は野垂れ死んじまうのがお似合いなんだよ! さっさとくたばれこの野郎!」
「ぶっ、ぶひいぃぃぃ!」
女王様な不動と霞ほどの価値もないドM忍者。
この前僕にこの世界の有りようを説いた偉容は微塵も感じられなかった。
僕の中での二人の像が音を立てて崩れていく。
ボンテージを纏い鞭を振り下ろす不動からは、昼間の優しそうな様子が想像できない。
なんかドSの片鱗みたいのを見せてはいたけど、やっぱりそうなのか。
「そこで覗いてるのは恭平殿でござるか?」
なんか呆れて固まっていたら覗きがバレてしまった。
「お前ら、なにやってんの?」
「見ての通りご褒美でござるよ! ぶひっ!」
「あらぁ、柊君もやってみる?」
謹んで遠慮しよう。
不動女王様は僕の返答に残念そうにし、次の瞬間には鞭を振るい始めた。
笑顔の忍者が気持ち悪い。
「さあ! 恭平殿もこっちの世界へ!」
「黙りなさい! このクソ虫!」
「ござっふううぅぅぅ!!」
「ま、マンマミーア……」
ついわけわからない言葉が出てしまった。
きっとそれは、僕の意識が現実から目を逸らしたかったからに違いない。
しかし、現実逃避は許されない。
「き、恭平殿おおぉぉぉ! さあ! さあ!」
「『影縛り【裏】』」
気味が悪かったので、反射的に束縛してしまった。
すまん、これはキモイ影宮が悪いんだ。僕は悪くない。
だが、僕はドM忍者の底を見誤っていた。
彼は鎖に束縛されたにも関わらず、快感に身を捩ったのだ。
「ござっふううぅぅぅ!! こ、これが縛りプレイ! 拙者、新たな快感に目覚めてしまいそうにござる!」
「あら柊君。貴方なかなかやるじゃない。どう? 貴方もこっちの世界に……」
僕は幌を元に戻し、全力でその場から離脱した。
ダイブするように寝袋に突っ込み、気温から来るものとは違う寒さに身を震わせた。
「もうやだなんなのあのふたり」
僕の旅路の前途は大変困難なようだった。
反省はしているが後悔はしていない!
すいません調子に乗りました今後は気を付けます。
ちなみに、愛莉死んでませんからね。




